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癌新薬への早いアクセスは延命をもたらすとのカロリンスカ研究所のレポートに厳しい批判が

2008-01-21

(キーワード:癌新薬へのアクセス、延命、生存率、カロリンスカ研究所)

 ノーベル医学賞を選考することでも知られるスウェーデンのカロリンスカ研究所の臨床薬理学研究所長ニルス・ヴィルキング氏と医療経済学者でストックホルム商科大学教授のベント・イェンセン氏が欧州癌治療学会が出しているThe Annals of Oncology誌に発表した、「癌新薬への早いアクセスが延命をもたらしている」とするレポートが物議を醸(かも)している。
 日本ではいわゆる「ドラッグラグ問題」(外国で使用されている医薬品が国内では使用できない問題)があり、治験環境や新薬承認体制の問題、癌新薬の個人輸入や混合診療の是非などが議論されている。そこでは、新薬への早いアクセスは肯定的にしかとらえられていない。しかし、発売直後に多くの副作用死が問題となり訴訟にもなっているイレッサ(ゲフィチニブ)(※1)は、日本が世界に先駆けて販売承認した肺がん治療剤である。単純に癌新薬へのアクセスが延命をもたらすと考えることには問題がある。
なお、両氏は2007年9月に中外製薬(ロシュの事実上の日本法人)が主催する記者会見を日本で行い、日本は新規抗癌剤へのアクセスが悪いと問題提起した(薬事日報2007年9月12日、※2)。
 以下はネーチャー・メディスン誌2007年10月号の記事「カロリンスカ研究所が問題の多い報告書で批判を浴びる」の要約である。
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 新しい抗癌剤へのアクセスが国によって違うのは、驚きではない。しかし、その違いがいくつかの国の低い生存率につながっているとするには疑問がある。
 最新の抗癌剤へのアクセスが延命をもたらしているというスウェーデンの有名なカロリンスカ研究所からのレポートは、不完全な分析に基づいて結論を導いているために批判されている。
カロリンスカ研究所からのレポートはThe Annals of Oncology誌の増補版(「がん治療剤へのアクセスの国際比較」、2007年6月)として公表され、薬を上市した年代がヨーロッパの5か国における癌の生存率に影響をあたえているかどうかを調査した結果、癌患者は最新の抗癌剤へアクセスすると延命すると結論づけた。
このレポートに対し、疫学教授であるミッシェル・コールマン氏(The London School of Hygiene & Tropical Medicine)は調査方法に問題があるとし、「カロリンスカ研究所が有名だからといって、公表したもの全てが正確で賞賛されるとは限らない」とした。同誌の2007年9月号で、コールマン氏は「レポートは製薬大手ロシュが資金を出しており、調査方法がおかしい」と酷評している。「たとえば、生存率のデータは1990年代初頭のものを用いているのに対し、新薬へのアクセスに関するデータは2002年のものである。10年も違うデータを基にどうやって生存率の違いに関する結論が導き出せるのだろう」と述べている。
 これに対し、今回のレポートの関係者である経済学者のフランク・リヒテンバーグ氏(コロンビア大学)は、「国の違いによる生存率と薬の年代との間の強い関連は十分説得力がある。コールマン氏は我々が用いたテクニックを理解しているとは思えない」、さらに、「ワンパターンの反発には驚かない。多くの人々は、製薬会社及び製薬会社の社会的役割について積極的に評価するメッセージに対して非常に批判的である」としている。
 コールマン氏は「批評は科学の本質的なものであり、我々は印字されたものを全て信じるとしたら、何も得られない」と納得していない。
英国国民医療(NHS)で新薬の供給に責任を持っているNICE(英国医療技術評価機構)の幹部であるアンドリュー・ディロン氏も、製薬会社がスポンサーとなっているこのレポートに対し、「欠点があり、間違っており、ところどころ矛盾している」と公に非難している。
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 カロリンスカ研究所のレポートは、大手製薬企業のロシュがスポンサーとなってThe Annals of Oncology誌の増補版(※3)として出版されている。編集は同誌の編集者によるものではなく、ゲストエディター(客員編集者)が行っている。製薬企業の資金により出版される増補版についての問題は、この注目情報欄でもすでに取り上げた(※4)。国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)では、資金提供者による増補版の編集は許されないことなどをガイドラインに示しているが、この増補版の編集者とロシュとの関係も関心がもたれるところである。 (M)