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製薬企業の資金による医学雑誌の増補版が論争に

2006-12-13

(キーワード: 製薬会社のスポンサー、米国心臓学会誌、医学雑誌増補版、国際医学雑誌編集者協議会)

 医療者にとって専門領域の医学雑誌は、臨床試験の結果や新しい治療法、医薬品に関する情報など貴重な情報源であるが、製薬企業が資金を提供して出版されている場合はその内容にバイアスがかかっているのでは、と疑ってみる方がいいだろう。BMJ誌(333,278, 2006)は、論争の渦中にある米国心臓学会誌を取り上げ以下のように論評している。

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 米国心臓学会誌(The American Journal of Cardiology)はファイザー社から55800ドル(約650万円)の資金提供を受けて学会誌の増補版を出版した。ファイザーはコレステロール低下剤(商品名リピトール)を製造している製薬会社である。この増補版には、臨床上の価値も疑わしい上に米国の保健予算にもおおきな影響を与えることになる患者のスクリーニング法を推奨する報告が掲載された。この報告では、(心臓に特別の症状が無い)無症状の米国の高齢者男女に、CTスキャンで冠動脈の撮影、超音波で頸動脈の内膜、中膜の肥厚状態の測定を行うことを推奨している。しかし、すでに2004年2月に米国予防サービス特別調査委員会では、CTによるスクリーニングについて、無症状の高齢者にとって障害をもたらす危険のほうが利益より大きいとしてCTによるスクリーニングをしないように推奨しているのである。カリフォルニア大学の循環器病の専門家、リタ..レッドバーグ医師は「これらの検査が心臓病による死亡を減少させるという証拠はない」と語っている。

 資金提供を受けて増補版を出すことについては議論があるところで医学雑誌により基準は異なっている。例えば内科学会紀要(Annals of Internal Medicine)では、外部からの資金は米国疾病管理予防センター(CDC)のような当局や特定非営利法人などにかぎって受け入れている。国際医学雑誌編集者協議会(ICMJE)では、ウェブサイト(※1)上で増補版に関する詳細なガイダンスを示している。それによると、増補版とはいえ、編集者はすべての内容に責任をもたねばならないこと、資金提供者による編集は許されないこと、資金源はページ毎に目に着くように示さなければならないこと、としている。しかし、米国心臓学会誌は国際医学雑誌編集者協議会のメンバーにはなっていない。同誌編集者のウイルアム..ロバーツ医師は、BMJ誌に対して、増補版には表題のページにファイザー社がスポンサーであることを明記したし、ファイザー社は編集には関与していないと答えた。また、論文の執筆者が通常の号に掲載できない長い論文の掲載を希望したので増補版とした、と語った。

 ニューイングランド医学雑誌の編集長を長く勤めた(1977-1991)アーノルド..レルマン医師によると、スポンサーによって出版された増補版の存在自体が大きな問題の氷山の一角で、医師が処方を行うために利用する医学情報に製薬企業の影響が増えている事を示す証拠である、と述べている。 (S)