調査・検討対象

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一般用医薬品のリスク分類に関する意見

1 一般用医薬品のリスク分類とは

昭和35年に制定された薬事法は、医薬品販売について、薬剤師等の店舗への配置により情報提供を行うことを求めている。これに対し、厚労省は、「現実には薬剤師が不在であったり、薬剤師がいても情報提供が必ずしも十分行われていないなどの実態がある」こと、また、「薬学6年制の導入に伴い、薬剤師の専門性が一層高まる」とし、「医薬品のリスクの程度に応じて、専門家が関与し、適切な情報提供等がなされる実効性ある制度を構築する」ことを目的に、04年4月、厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会を設置して医薬品販売のあり方について見直しを行い、検討部会報告書に基づく「薬事法の一部を改正する法律案」が06年6月に可決成立した。
この改正で、一般用医薬品をリスクに応じて3分類し、販売や情報提供のあり方を区別するとともに、一定の医薬品について薬剤師以外の、「登録販売者」という新たな資格者による販売を可能とされた。
このような法改正の施行の準備として、一般用医薬品のリスクに応じた分類について、06年11月、薬事・食品衛生審議会に諮問がなされた。

2 取り上げた経緯

当会議は、03年11月27日付けで「一般用医薬品販売の規正緩和に関する意見書」を厚生労働省、総合規制改革会議等に提出し、医薬品販売の規制緩和は、利便性への過度の配慮が薬の過剰消費を生み、薬害発生を助長するものであり、医薬品の安全性確保のために薬剤師の安全監視義務を明確にした薬剤師政策の必要性を求めてきた。そして、医薬品販売制度に関して、05年11月24日に「医薬品販売制度改正に関する意見書」を厚生労働省医薬品食品局総務課、厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会等に提出し、リスク分類基準の基本的問題点、ハイリスクの医薬品に対する対面販売の徹底、販売管理者の販売責任の明確化等の見解を明らかにしてきた。
第一類及び第二類医薬品を定める諮問内容は、検討部会の答申内容であるリスク分類基準の基本的問題点をはじめとする重要な問題点が何ら修正されていないことから、引き続きこれを取り上げることとした。

3 何が問題か

厚生労働省が医薬品販売制度を見直す理由として「薬剤師等の店舗への配置により情報提供を行うことを求めているが、現実には薬剤師が不在であったり、薬剤師がいても必ずしも十分行われていない実態がある」としている。そのような実態を改善するために薬剤師の安全監視義務を明確にする方向性を選択せず、「薬学6年制の導入に伴い、薬剤師の専門性が一層高まる」ことを理由に、かぜ薬や胃腸薬等の主要な医薬品を薬剤師以外の専門家が販売管理することを制度化するという結果につながっている。医薬品の安全性の確保を軽視し、医薬品販売の規制改革を求める業界の要望に応えた薬事法改正に至ったという点で極めて重大である。そのような問題点が以下のようなリスク分類に具体的にあらわれている。
医薬品のリスク分類は、その危険性を総合的に判断する必要があり、特に実際の副作用発生情報を重視する必要があるが、最も副作用発生リスクの高い、かぜ薬・解熱鎮痛剤、抗コリン剤を含有する胃腸鎮痙鎮痛薬・制酸剤等に関しては、第二分類に分類され、陳列方法等の工夫が望ましいとされる「*」印さえも付記されていない。第二、第三分類の医薬品は、登録販売者という新資格者の販売を認めており、かぜ薬・胃腸薬等の規制緩和の要求に応えることを重視した結果となっていることが重大な問題点である。

4 基本的な行動指針

医薬品の安全確保を第一に、基本的な問題点と具体的な医薬品個別のリスク分類に対して意見を明確にし、業界の要望に応える規制緩和の流れに対して態度を明らかにする。

5 具体的行動とその結果

  1. (1) 厚労省は、06年12月、リスク分類、すなわち「薬事法第36条の3第1項第1号及び第2号の規定により厚生労働大臣が指定する第一類医薬品および第二類医薬品」の制定に関するパブリックコメントを募集した。
    その主な内容は、一般用医薬品を、主として添付文書の記載内容(相互作用・副作用・効能効果・使用方法)にもとづいてリスクを評価し、3つに分類する。
    リスクの最も高い第一類は、販売経験が少なく、一般用医薬品として安全性評価が確立していない成分を含むものとされ、情報提供は必ず文書により行い、薬剤師がオーバー・ザ・カウンターにて販売するとしている(スイッチOTCである「H2ブロッカー」等 23成分)
    第二類は、日常生活に支障を来す恐れがある成分を含むもので、情報提供は文書を用いることが努力義務とされ、登録販売者の販売が可能とした(風邪薬、胃腸・便秘薬等、漢方薬等)。第二類に分類された医薬品のうち、「陳列方法を工夫する等の対応が望ましい成分」に関して「*」をつけ区別するとされた。
  2. (2) 当会議はこの募集に対し、07年1月12日に意見書を提出し、以下の問題点を明らかにした。
    1. ① 第一類医薬品を、「その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品のうちその使用に関し特に注意が必要なもの」と定義するのであれば、第二類医薬品に分類された医薬品のうち、「陳列方法を工夫する等の対応が望ましい成分」として*を付記した医薬品を第一類に入れるべきである。
    2. ② 仮に制定案の分類基準に従って分類するとしても、第二類医薬品において*がついていない医薬品のうち、かぜ薬・解熱鎮痛薬、抗コリン剤である胃腸鎮痛鎮痙薬・制酸剤、みずむし・たむし用薬のうち強力な抗真菌薬、その他の女性用薬や化膿性疾患にふくまれる抗菌薬等に関しては、*を付けるべきである。
    3. ③ 個別成分に関して、習慣性・過量服用による危険性のある医薬品、解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、殺菌抗菌剤、金属製剤等について分類見直しを指摘した。
  3. (3) 07年5月9日、厚生労働省はパブリックコメントの結果を公表した。意見総数は169通846件であったが、意見が考慮された事例は皆無であり、すべて告示通りとする結果であった。
    その主な理由としては、リスク分類の基準として、「相互作用」、「副作用」、「効能効果」、「使用方法」、そして「スイッチ化等に伴う使用環境の変化」の6項目についてリスクを評価し、それに基づき成分のリスク評価を行っているとの回答であった。また*の有無については今回告示の対象としていないという回答であった。
    このようにパブリックコメントに関して、意見が全く反映されないという結果はこれまでの案件に共通する結果である。当会議は、パブリックコメント制度の運用について、実態調査に基づき、制度が形式化していることを指摘する意見書を提出しているが、本件の場合もその実態そのものであるといえる。

6 今後の課題

法改正の目的であった、医薬品のリスクの程度に応じ、専門家が関与して、適切な情報提供及び相談応需が実行される制度の厳密な運用を監視していく。