調査・検討対象

  1. ホーム
  2. 調査・検討対象

利益相反問題

1 利益相反問題とは

「利益相反(Conflict of Interest)」は、広く当事者の利益が衝突することを指す。
法律学の分野では「利益相反行為」を規制することは古くから行われ、わが国の民法や商法等にも規制のための条文があり、利益相反か否かは行為の外形から形式的に判断するというルールも確立している。
医薬品に関連する分野では、各国において、「産官学連携」が推奨される中で、医学研究や治療ガイドラインの作成、医薬品の承認や安全対策などに関与する関係者が製薬企業と経済的な関係を有することによって、医薬品の公正な評価と判断を失わせ、国民の生命と健康を損なうことが指摘されるようになり、これに対する規制のルールを設けようという動きがみられている。これらを総称して「利益相反問題」という。

2 取り上げた経緯

  1. (1) 薬害オンブズパースンは、薬害エイズ事件の和解成立の翌年である1997年の6月8日、薬害エイズ弁護団他の呼びかけで発足した。薬害エイズ事件のキーワードの一つは「癒着」であり、「官僚の天下り」と「指導的専門医と製薬企業の経済関係」が薬害の温床であると指摘されていたから、発足の当初から、産官学の連携が生む利益相反関係については高い関心を有していた。
  2. (2) 日本の産官学連携は、「大学等技術移転措置法」(1997年)、日本版バイドール条項をもつ「産業活力再生特別措置法」(1999年)等の法律が次々制定される中で進んだ。これは米国に20年遅れて追随している指摘されている。
    日本より産官学連携推進策を先に進めていた米国やEUでは、利益相反問題も日本に先立って指摘され、規制ルールが策定され、社会的関心も高かった。
    薬害オンブズパースンでは、海外の医学雑誌の記事の中から、注目すべきものを選択してホームページの「注目情報」のコーナーで提供してきたが、この中でも、利益相反問題に関する記事は突出して多かった。
  3. (3) そのような中で、日本でも、臨床試験担当医が当該医薬品の未公開株を取得していた問題(2004年)、抗がん剤ゲフィチニブに関する日本肺癌学会ガイドライン作成委員の利益相反問題(2005年)、インフルエンザに関する厚生労働省研究班主任研究員の講座にタミフルを販売する製薬企業からの多額の寄付が行われていた問題(2006年)などが生じ、厚生労働省が科学研究と審議会・検討会等に関する利益相反関係を規制するための検討会を発足させた(2007年)。
    そこで、当会議ではこれに継続的に取り組むこととなった。

3 何が問題か

  1. (1) 利益相反の問題についての一般的理解が十分でない。
  2. (2) 議論の前提となる実態調査の調査も不十分である。
  3. (3) 規制のためのルールの制定が不十分である。

4 基本的な行動

当会議の利益相反に関係した主な取り組みは次のとおりである。

  1. (1) 「臨床研究医と製薬企業との経済的関係に関する意見書」2004年12月
    大阪大学の臨床試験担当医が当該医薬品の商品化を目指す企業から事前に未公開株を所得していた問題を契機に、厚生労働大臣と文部科学大臣に対し、臨床試験における利益相反関係についての法規制を要望した。
  2. (2) 抗がん剤イレッサ使用ガイドラインに関し
    日本肺癌学会への公開質問書2005年8月、同再公開質問書2006年3月
    厚労省への利益相反関連要望書 2006年11月
    世界でイレッサが生存期間を延長しないという比較試験データが相次ぎ、欧州では申請取り下げ、米国では一般臨床使用中止がされたが、厚労省は日本肺癌学会にガイドラインの作成を依頼、実質的に何の使用制限もしなかった。当会議は、肺癌学会に、ガイドライン作成委員会委員とアストラゼネカ社との経済的関係の開示などを求めたが、学会から開示がないため、厚労省に調査を行い公表すること、利益相反による偏りを回避する規制ルールの作成を求める要望書を提出した。
  3. (3) 製薬企業出身者の総合機構への就業制限緩和に反対する意見書2007年2月
    独立行政法人医薬品医療機器総合機構の発足に当たり、当会議や薬害被害者の運動の結果、製薬企業出身者の就業に関する制限規則が設けられた。しかし、この規則の例外規定の適用や運用に問題が認められたため、意見書を提出した。
  4. (4) 厚労省へのタミフルに関する要望書―利益相反問題 2007年3月
    タミフルの重大な副作用を検討する厚労省研究班員が属する講座が中外製薬から寄付金を受け取っていた問題で、すべての班員の中外製薬との経済関係の調査と公表、関係のある班員の辞任、医師と製薬企業との経済的関係の公表と厳格な規制を定めることを求めた。
  5. (5)「審議参加と寄付金等に関する基準」2007年6、9、10、11、12月、2008年1、2月
    「厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest:COI)の管理に関する指針」対する意見書 2007年6月5日、22日、12月
    政府が補助金を出す厚生労働科学研究と医薬品の承認審査や安全対策を審議する厚生労働省の審議会、検討会における利益相反規制ルールを策定するための検討会が2007年5月にそれぞれ厚生労働省に設置された。それぞれの進行に合わせて、ヒヤリングで意見を述べ、多くの意見書を出した。
  6. (6) ホームページでの情報提供、冊子の発行
    薬害オンブズパースン会議ホームページ「注目情報」のコーナーで、利益相反に関連する世界での動きを逐次紹介し、これをまとめた「冊子」(2006年12月、2007年10月)を発行して、利益相反問題の啓発に活用した。
  7. (7) シンポジウムの開催
    設立10周年を記念して、2008年6月8日、パブリック・シチズン・ヘルスリサーチグループのピータールーリー氏、プレスクリールインターナショナルのクリストフ・コップ氏をゲストに招き、「歪められる医薬品評価」と題するシンポジウムを開催した。

5 到達点と課題

  1. (1) 継続的な取り組により、利益相反問題に関する社会的な関心を高めることに一定の役割を果たし、2007年に発足した厚生労働省の2つの検討会に対しても、時機を逸することなく、意見書を提出するなどすることができた。
  2. (2) その結果、厚生労働省の審議会・検討会に適用される審議参加の基準については、
    基準の枠組を米国型ではなく、EMEA型にすること、ガイドライン作成や奨学寄附金を除外しないこと、WEB上での情報公開、継続的な見直しのための薬害被害者参加の検討会の設置、同居の親族や競合品目を対象に含めること、基準を「申し合わせ」から格上げすることなど、いくつかの点において、当会議の見解が採用された点があった。
    しかし、基準金額や、公開のあり方全般において、なお、多くの問題点を残している。
  3. (3) 厚生科学研究については、各大学での規則の策定の促進を促す効果は期待できるが、基準の設定は大学まかせにするという点において問題がある。臨床現場に大きな影響をもつ診療ガイドライン策定に関与しる学会のうち、利益相反ルールを有するものは限られている点も問題である。
  4. (4) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)については、厚生労働省の「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」は、2007年に、就業制限規定の一部撤廃に言及しており、職員一般の利益相反に関する規定、2008年2月現在934名いる外部専門委員の利益相反を規制するルールの整備も整備されていない。
  5. (5) 以上のとおり利益相反問題は、課題が山積している。
    引き続き、注目情報コーナーでの情報提供や意見書の提出など活動を継続していきたい。
    とりわけ、利益相反問題の解決には多角的な制度設計が必要である。
    非臨床試験や臨床試験に関するデータ、副作用情報に関する徹底した情報公開、プロトコールや第1相試験も含めた臨床試験登録の義務付、被験者保護法の制定など、これまで意見を公表してきた分野に加え、公的資金による臨床試験制度の確立などについての取組みが重要である。2008年5月に厚生労働省に設置された薬害肝炎検証再発防止委員会の第1次提言にその一部を取り入れることができた。その具体化についても取り組んでいきたい。

トピックス

  • 薬害オンブズパースン会議
  • タイアップグループ
2011-07-17
「注目情報」更新−MSD、日本の医師へ不適切な金銭供与2億円余
2008-07-24
設立10周年記念シンポジウム「歪められる医薬品評価−産官学連携への警鐘−」配布資料アップしました
2008-06-16
2008年6月8日シンポジウムにおける宣言
2008-06-08
薬害オンブズパースン設立10周年記念シンポジウム「歪められる医薬品評価−産官学連携への警鐘−」(ピーター・ルーリ、クリストフ・コップ他)
2008-02-18
「審議参加と寄附金等に関する基準案(2008年1月22日付)」に関する意見書提出(2008年2月18日)
2007-12-21
厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest:COI)の管理に関する指針(案)」に関する意見書提出(2007年12月21日)
2007-12-17
審議参加と寄附金等に関する基準(案)に関する意見書提出(2007年12月16日)
2007-11-26
審議参加と寄附金等に関する基準策定ワーキンググループへ追加意見書提出(2007年11月26日)
2007-10-16
審議参加と寄付金等に関する基準策定ワーキンググループヒアリング意見書改訂版提出(2007年10月16日)
2007-09-26
審議参加と寄付金等に関する基準策定ワーキンググループヒアリング意見書提出(2007年9月25日)
2007-06-22
厚生労働省「審議参加と寄付金等に関する基準策定ワーキンググループ」の審議に関する要望書提出(2007年6月22日)
2007-06-05
「厚生労働科学研究における利益相反に関する検討委員会」の運営に関する要望書提出
2004-12-21
臨床研究医と製薬企業との経済的関係に関する意見書送付