調査・検討対象

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コレステロール低下剤

1 コレステロールとは

生体にとって必須の物質。細胞膜の重要な構成成分であり、ヒトにとって不可欠な5種類のステロイドホルモン(糖質コルチコイドや性ホルモンなど)の原料である。過剰なコレステロールは心筋梗塞の原因と考えられているが、不足すれば細胞の働きが悪くなり、感染症やがん、総死亡の増加など害の方が大きくなる危険性がある。

2 とりあげた経緯

心筋梗塞死の少ない日本では、コレステロール過剰より不足による害の方が心配されるが、日本動脈硬化学会では220mg/dL以上を高コレステロール血症とし、下げる治療を推奨している。とくにメバロチン(スタチン剤)が1990年承認されてから、コレステロール低下剤使用は急速に増加し、1999年には年間市場規模が合計3300億円に達した。
この問題に早くから取り組んできた医薬品・治療研究会と医薬ビジランスセンターから、社会的な働きかけの必要性が指摘され、薬害オンブズパースン会議としての行動の要請があり、とりあげることになった。

3 何が問題か

  1. (1) コレステロール値と総死亡
    1. ① 外国のデータは日本には通用しない
    2. 日本で実施された調査でコレステロール低下剤使用により総死亡率が減少することは証明されていない。海外でも、プラセボを対照とする臨床試験で、コレステロール低下剤による総死亡率減少効果が確認されているのはイギリスの一つの調査にすぎない。心筋梗塞発生率が欧米の5分の1以下の日本に当てはめるわけにはいかない。
    3. ② 日本で実施されたコレステロール値と総死亡に関する調査
      日本には、プラセボを対照とする比較試験ではないが、コレステロール値と総死亡の関係が示された大規模な疫学調査が少なくない。そのうちの3件を要約する。
      1. a 大阪府八尾市の住民約1万人を対象に約11年間追跡した調査では、240-280mg/dL群の総死亡危険が最低で、それより低い群ではいずれも危険が大きかった。
      2. b 全国の国民栄養調査対象者1万人余を14年間追跡した上島らの調査でも、240-260mg/dL群の総死亡危険が最低で、低い群ではいずれも危険が大きかった。
      3. c 全国のコレステロール値220mg/dL以上の約5万人にシンバスタチンを使用し6年間追跡調査したJ-LITの解析結果では、220-240mg/dL群の総死亡危険が最低で、220-240の群及び240-280の群でもほとんど差はなかった。180-200mg/dL群は、220-240mg/dL群の約1.4倍、180mg/dL未満群は2.6倍以上の総死亡の危険があった。
    4. ③ 日本では総コレステロール値240-260mg/dLのヒトが最も健康
      以上から、日本では総コレステロール値240-260mg/dLの人が最も健康と考えられる。総コレステロール値280mg/dL以下なら死亡の危険度は高くなく、200mg/dL以下の群では、かえって死亡の相対危険度は高くなることが明らかである。
  2. (2) 日本動脈硬化学会のガイドライン改定案の問題点
    1. ① 総死亡率をエンドポイントとした場合、脂質管理目標値が低すぎる
      改定案(2002年2月現在)では、コレステロール値以外の主要動脈硬化危険因子のない人の場合でも、脂質管理目標値を総コレステロール値240mg/dL未満としている。しかし、総コレステロール値240-260mg/dLの人が総死亡の危険が最も低く、総コレステロール値280mg/dL以下なら死亡の危険は高くないことを考えると、総コレステロール値240mg/dL未満を脂質管理目標値とするのは低すぎる。
    2. ② 他の主要動脈硬化危険因子の影響を過大に重視している
      改定案は、患者群を冠動脈疾患の有無、年齢、他の主要動脈硬化危険因子の数により6群に分けて治療目標値を定めているが、他の主要動脈硬化危険因子の影響を過大に見積もることにより、脂質管理目標値を不当に引き下げている。
      たとえば、改定案によれば、45歳以上の男性の場合、①高血圧、②糖尿病、③喫煙のいずれか一つの因子でもあれば、直ちに脂質管理目標値は総コレステロール値200mg/dLとなる。しかし、コレステロール低下剤を使用して、総死亡を減らすことができるかどうかは全く不明である。
    3. ③ 科学的根拠の情報開示が不十分である
      改定案は主としてJ-LITの結果を受けて策定したものとされるが、J-LITにおいて、前項で述べた危険因子が総死亡率に与えた影響に関するデータは公表されていない。J-LIT研究結果は、研究に用いられたシンバスタチンの冠動脈疾患予防効果を強調するデータが偏って公表・報道され、研究結果全体の情報開示が十分になされておらず、科学的不正の疑いを指摘されてもやむを得ない状況となっていると言える。
      もちろん、日本において、プラシーボを対照としたコレステロール低下剤の総死亡への効果が確認されていないのは、危険因子のある人でも同様である。

4 基本的な行動方針と検討

2001年11月4日、仙台市におけるタイアップ4周年総会に引き続く公開会議に於いてこの問題について討議した。その後、当会議と日本動脈硬化学会との間で以下のとおりに公開質問書、回答、反論書のやりとりが行われた。

5 具体的な取り組みと今後の課題

  1. (1) 2004年6月、日本動脈硬化学会に対し当会議より「『動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版』に関する公開質問書」を提出した。
    公開質問書では、ガイドライン内容が冠動脈疾患予防効果に終始し、総死亡や癌死亡への悪影響を考慮していないことや、国内の疫学データを考慮していないという点を指摘し、高脂血症の診断基準・脂質管理目標値設定の根拠、およびガイドライン作成過程について質問した。
  2. (2) しかし、回答書では、それらに対する具体的回答は一切なかった。また回答書には、学会は動脈硬化性疾患を予防するのが目的の学会であると書かれており、極論すれば、それさえ予防できれば癌や総死亡については関知しないともとれる内容で、とうてい国民の健康を総合的に考える姿勢を有しているとは考えられなかった。またコレステロール値が低い人では癌死亡率が高いという疫学データに関しては、「コレステロールが低いために癌になったのではなく、あくまでも癌になった結果コレステロールが下がっているのだ」と結論づけている。
  3. (3) この回答に対し、当会議は2004年10月25日付で、要旨以下のような反論・再質問を提出した。①「がんのためにC値が低下する」というが、これまでの多くの疫学調査は、すでにがんがあるために低Cになった人のデータは除いて分析している。②臨床試験結果の中には、C低下剤使用によりがんが増えたという報告もある。③動物実験でも、C低下剤投与によりがんが有意に増加したという報告もある。④あくまでも「低Cの原因としてのがん発生はあるが、低Cの結果としてのがん増加はない」と主張されるなら、その根拠を示してほしい。④前回の質問3点に対する回答をいただいていないので、回答してほしい。
  4. (4) この反論・再質問に対する回答は、10月31日までにと要望したが、翌年の2005年7月15日付けで回答書が送られてきた。その回答の要点は、①コレステロールを単なる栄養のマーカーとする概論を述べ、②LDLコレステロールの重要性を述べ、③「欧米よりも頻度が少ないからと言って、厳重な予防医学を行うのは無駄であるというような考えは極めて危険な考えです」と、かみ合わない反論を述べ、④「コレステロール低下剤は極めて副作用の頻度の少ない薬剤である」と述べるに止まり、その他の質問には具体的な回答はなかった。
  5. (5) この回答は当会議の質問に対する直接的な回答になっておらず、当会議は再度2005年10月17日付けで、日本動脈硬化学会情報委員会へ『「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版」に関する再質問書へのご回答について』と題する文書を送付した。もはや真摯は回答を求めることは無理と考え、以下のように意見を記した。すなわち「基準値を低く設定することは、患者数を増やし、当然、医薬品の使用量が増え、それは特定製薬企業を利することにもつながります。したがって、貴学会のガイドライン作成メンバーと特定製薬企業との経済的関係の有無は重要な問題です。コレステロール低下剤は、保険医療の中の医薬品分野における最大金額を消費している薬剤であるだけに、・・・明快なお答えをいただくことで、貴学会は国民への説明責任の義務を果たすべきであると考えます。そして、以下に提案する公開会議において、貴学会の予算およびガイドライン作成委員会の予算に占めるコレステロール低下剤製造販売医薬品企業からの寄付金額、ガイドライン作成委員会メンバーと製薬企業との経済的関係についての情報開示を求めるものであります。」次いで、「当会議では、このように社会的関心も高く、複数の学会横断的テーマであり、各分野の学会合同での取り組みが求められている問題については、関係学会および関心のある方々を広く集め、たとえば医学会総会等の場において公開会議を実施すること」を提案した。この提案の趣旨にそって、この文書を同時に日本学術会議にも送付した。
  6. (6) 注目すべきは、この問題についての日本動脈硬化学会の非学問的態度に対して、各方面から大きな疑問や反論が巻き起こったことである。かねてから、「医薬品・治療研究会と医薬ビジランスセンターはこの問題についての問題提起を行ってきたが、日本脂質栄養学会、日本人間ドック学会が当会議の主張に近い別基準を持つことなどが、マスコミ(週刊朝日)でシリーズで大きく取り上げられ、その他、この問題に関する日本動脈硬化学会のガイドラインを批判する内容の出版物が次々を出版されるという事態に発展した。