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 医薬の経済動向をつたえる記事を目にするとき、必ず出てくるのがゴーストバスターならぬブロックバスターという業界用語である。このことばを辞書で引くと、評判の超大作、超大型爆弾、悪徳不動産屋などという三つの語義が連記されている。いずれにしても、規模がとても大きく破壊的なものという響きが強い。
 この響きの意を汲んでウォール街語的に言い換えるなら、ブロックバスターとは、「売上規模がとても大きい破壊力のある宝の山」すなわち「医薬品」だと定義できる。
 医薬品の破壊的な売上規模というのは、ウォール街では今や10億ドル以上というのが通り相場である。これほどの規模になると、なるほど一本あるかないかで、企業にも社会にも確かに破壊的な影響がでてくることは間違いない。そこで、ブロックバスターの再定義を試みる。「単品売上10億ドル以上の破壊力ある医薬品」ということになる。
 単品売上10億ドル以上という医薬が、現在、グローバル市場では50本にも育ち上がって闊歩している。ブロックバスター第一号(H2ブロッカー)が生まれたのは一九八六年のことだから、一五年で50倍という驚くべき成長力である。
 薬効別に数えてみると、コレステロール低下剤や降圧剤などの心血管系が一二本、抗うつ剤や催眠剤など中枢神経系が八本、抗感染症系が七本、呼吸器・アレルギー系が五本、という具合に続いていく。50本のブロックバスターのなかには、日本の製薬会社が開発した薬剤が三本ほど含まれている。
 いちばん目を見張るのはコレステロール低下剤、なかでもスタチン剤市場だろう。死亡例の多発で市場回収にいたったセリバスタチンを除いても、五つのスタチン剤を合わせた売上規模は130億ドルを優に超える。同市場最大シェアのシンバスタチンは、単品売上が10億どころか50億ドルを軽く超えている。スタチン剤市場はもうすぐ、メガブロックバスター(単品売上100億ドル以上)の時代に入るかもしれない。
 ブロックバスターは、企業にとっても社会にとっても破壊的影響力をもっている。大手の製薬会社はこれを一本失うだけで、株主代理権を行使するウォール街から、経営トップの交代や合併案件を強要される。過去一五年におよぶ国際的企業合併は、すべてブロックバスターの台頭をめぐって生じてきたものであるといっても決して過言ではない。
 社会に与えるブロックバスターの影響はもっと甚大である。新薬の異様な価格の高さだけが問題なのではない。破壊的影響力をもつこの新薬は、有効性と安全性の科学的観点から見て、本当に医療の本来的ニーズをみたすものと言えるだろうか。本会議での熱気のこもった検討は夜が更けるまで続けられる。

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