調査・検討対象

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ベロテックエロゾル

1 ベロテックエロゾルとは

一般名 臭化水素酸フェノテロール
商品名 ベロテックエロゾル
会社名 日本ベーリンガーインゲルハイム
適応症例 気管支喘息

喘息発作の際に、定量噴霧式吸入器(MDI)を用いて吸入し(気管支平滑筋弛緩等を司る交感神経β2受容体を刺激することにより)、気管支を拡張して喘息発作を緩和することが期待されている薬剤。

2 取上げた経緯

  1. (1) 1989年のニュージーランドスタディ(NZケース)
    NZのクレイン博士らは、ベロテック発売後、喘息患者の死亡者が増加している事実等から、ベロテックの使用が喘息患者の心臓死を招く危険性を指摘する疫学研究論文を発表。これに端を発して、NZ保健省は警告後、ベロテックを保険適用薬から除外し、その後、NZでの喘息患者の死亡率は大幅に減少した。
  2. (2) 日本での疫学的状況
    日本では1985年にベロテックが発売された直後から喘息死の数が急増し、以降、ベロテックの販売量増加に伴って喘息死が増加した。これらの事実を踏まえ、メンバーから問題提起がされ、医薬品・治療研究会に調査委託がなされた。

3 何が問題か

  1. (1) 危険性
    企業は、ベロテックが、気管支に対するβ2選択性が高いと主張しているが、心臓に対する刺激作用(β1作用)が強いため、心毒性が他のβ刺激剤に比べて強く、臨床的にも、疫学的にも、ベロテックの使用と喘息患者の死亡との因果関係が強く示唆される。
  2. (2) 代替性
    一方、同剤の他に、ベロテックと気管支拡張作用は同等で、しかも心刺激性(心毒性)の少ない本来のβ2作動剤としてサルブタモールが存在する(代替薬の存在)。

4 基本的な行動指針

販売の一時中止と安全性の検証。ベロテックはその安全性に疑いがあり、かつ、他に有効な薬剤(代替薬)、或いは代替治療が存在するのであるから、その使用を一時中止して安全性を科学的に検証すべきである。

5 活動とその後の状況

  1. (1) 要望書の提出
    97年6月、日本ベーリンガーインゲルハイム社と厚生省に対し、「ベロテックに関する質問並びに要望書」を提出。
    その内容は、他剤へ移行するために必要な一定の期間を設けた上で、ベロテックの販売(出荷)を一時停止することと、全国的疫学調査の実施、安全性を検証するための動物実験等の実施、ベロテックに関する実験データ等を公開することなどであった。
  2. (2) 日本ベーリンガーインゲルハイム社の反論
    97年8月、日本ベーリンガーインゲルハイム社から、安全性の確保に関し、同社は適正使用に関する緊急安全性情報をだしており、それで必要かつ十分との回答が寄せられた。また、安全性の問題は適正使用の問題である旨の反論もなされた。
    これに対して当会議は、ベロテックは喘息発作の苦しみから発作時に過剰使用されるというケースが現実にこれを使用していた患者、或いはその家族から多数報告されており、同社の標榜する同剤の適正使用の実現が困難なことを指摘した。
    さらに、同社は、当会議の申入れ内容の根拠当否については科学的に認めることができないとし、その後98年5月までの間、同社と当会議の間で、安全性の考え方、データの解析方法などについて科学論争となった。しかし、その論争は最後までかみ合わなかった。
    なお、厚生省からはこれまで文書による回答はなく、97年に口頭での中間回答が一度あったのみであり、その内容は、適正使用に関する緊急安全性情報を発信させており、それで十分というものであった。
  3. (3) 販売量の減少と連動した顕著な喘息死の減少
    ベロテック問題の報道や当会議の活動の後、ベロテックの販売量の減少に連動して喘息死亡者数が確実に減少した。95〜96年(ピーク時)から2000年にはベロテックの販売量は約3分の1となり、喘息死は1995年と96年の平均約6660人に対して2001年には約40%減の約4060人(約2600人減少)となった。
  4. (4) 製品の変更と情報提供の拒絶、最終的に提供を勝ち取る
    99年8月、日本ベーリンガーインゲルハイム社は、一回の噴霧量を従前の200μgから100μgと用量を半分にした製品を発売。この発売を受け、当会議の研究委託先であるTIPから同社に対し、新製品に関する学術資料の送付を要請した。しかし、同社は、TIPの評価については科学的な観点から疑問を抱かざるをえないとの理由で学術資料の提供を全面的に拒絶した。
    薬事法第77条の3は、製薬企業に対し、医薬品の適正な使用のために必要な情報を医薬関係者に提供する努力義務を課し、医療用医薬品のマーケティング(プロモーション)に関するIFPMA倫理コード第1章3は、製薬会社の「プロモーション上の主張や使用方法の根拠となる科学データは、要求があれば、医療用従事者に提供しなければならない。」と明示する。日本製薬工業協会も、医療用医薬品プロモーションコードにおいて、製薬会社は、医療情報を的確かつ迅速に提供・収集・伝達する責務があることを謳っている、データ資料に対する評価の内容が「製薬会社の考え方と異なるから」という理由で、資料は提供できないとすることは、自ら科学的検証を回避するばかりか、薬事法、IFPMA倫理コード、日本製薬工業協会の医療用医薬品プロモーションコードに反すること明白である。
    当会議では同社に対して、資料提供等の適切な対応を要望し続け、今回のような不当な理由で製薬会社からの情報提供を拒まれることがないよう、厚生省或いは関係各団体に対する働きかけを続けた結果、厚生省の指導により最終的に資料が提供された。
  5. (5) 患者さん・医師等との関係
    1. ① 当会議の活動に対し、賛否両論寄せられたが、否定的意見に対しては、当会議の基本的考え方に関する情報を発信した。
    2. ② 他の喘息薬への移行等について情報を求める患者さんたちに対しては、マニュアルの形でのインフォメーションを発信した。
    3. ③ 喘息治療に関わる医師等に対して、喘息治療に関する提案のためのドクターレターを発信した。
    4. ④ 被害実態に関する多くの情報が寄せられた。そして、その内ベロテックの使用と死亡との因果関係が強く疑われる5人については、被害者の医薬品機構への被害救済申請について支援協力した。うち3人については2001年12月27日付にて支給決定がなされ、その後2003年5月までには、申請された全員に対して支給決定がなされた。
  6. (6) 再要望書の提出
    当会議では2002年2月4日、本剤の販売中止と製品回収を求める再度の要望書を、厚生労働省と日本ベーリンガーインゲルハイム社(べ社)に提出した。それに対し、同年3月12日付でベ社より、本剤の販売を中止しない旨の回答を受け取っている。
    現在の添付文書には「他のβ2刺激薬吸入剤が無効な場合に限る」とされているが、このような場合(すなわち重い喘息発作でひどい低酸素状態)こそ、心毒性の強い本剤使用が最も禁止されるべき状態である。