調査・検討対象

  1. ホーム
  2. 調査・検討対象

DOAC

1 DOAC(NOAC)について

(1) DOAC(NOAC)

DOACまたはNOAC(direct oral anticoagulants/novel oral anticoagulants)とは、新規経口抗凝固剤であり、脳卒中や全身性塞栓症の予防に用いられる薬剤である。
現在、日本国内では下記の4剤が販売されている。

一般名 ダビガトラン リバーロキサバン アピキサバン エドキサバン
製品名 プラザキサ イグザレルト エリキュース リクシアナ
製造販売 日本ベーリンガーインゲルハイム(株) バイエル(株) ブリストル・マイヤーズ(株)
ファイザー(株)
第一三共(株)

(2) 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)

日本循環器学会、日本心臓病学会、日本不整脈心電学会(旧日本心電学会および旧日本不整脈学会)が参加する合同研究班が、2012年に心房細動治療(薬物)ガイドラインの改訂作業を行い、2013年に発表した改訂版心房細動治療(薬物)ガイドラインである(以下「本ガイドライン」という。)。
本ガイドラインは、これまで長い使用実績があり、効果的な中和剤が存在するワルファリンよりも、使用実績が短く効果的な中和剤の存在しないDOAC(NOAC)の使用を推奨する内容となっている。

2 DOAC(NOAC)をめぐる経緯

2010.10 米国で、プラザキサ販売開始
2011.3 日本にて、プラザキサ(一般名ダビガトラン)販売開始
2011.8 日本国内で起きた5例の死亡例を受けて、厚労省が安全性速報(ブルーレター)を発出。同時に、医薬品添付文書に新たに警告欄が設けられ、消化管出血等の出血による死亡例が認められていること、本剤の抗凝固作用を中和する薬剤はないため、本剤投与中は、血液凝固に関する検査値のみならず、出血や貧血等の兆候を十分に観察すること等の注意喚起がなされた。
一方、日本循環器学会が、「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」を発表し、プラザキサを強く推奨。
2012 日本循環器学会、日本心臓病学会、日本心電学会、及び日本不整脈学会が参加する合同研究班が、心房細動治療(薬物)ガイドラインの改訂作業を進める。
米国では、プラザキサ販売開始後、出血事故が相次ぎ、年に542人もの死亡例がFDAに報告され、訴訟に発展。
2013 上記合同研究班が本ガイドラインを発表し、ワルファリンよりもDOAC(NOAC)を強く推奨。
2014 米国で、ベーリンガーインゲルハイム社が6億5000万ドル(約700億円)を支払って原告と和解。

3 取り上げた経緯

当会議は、プラザキサ(ダビガトラン)についての意見書を作成する過程で、本ガイドライン作成時には、既にDOAC(NOAC)の安全性に重大な懸念が存在していたにもかかわらず、本ガイドラインが使用実績も長く、効果的な中和剤も存在していたワルファリンよりもDOAC(NOAC)を強く推奨していたことに着目し、本ガイドライン策定参加者の利益相反関係を調査することとして、2015年に検討を開始した。

4 何が問題なのか

当該分野の専門医でない一般医療現場の大多数の医師は、治療薬の選択にあたって、診療ガイドラインの推奨に頼らざるを得ず、その結果として、診療ガイドラインの推奨した薬が多くの患者に処方され、その売り上げを伸ばすことになる。
したがって、このような診療ガイドラインが臨床現場に及ぼす影響の大きさにかんがみれば、製薬企業等と診療ガイドライン作成者との利益相反関係は厳格に管理されるべきである。
厚生労働省の薬事に関する審議会等の委員の利益相反は、「薬事分科会審議参加規程」等によって管理されており、委員が受け取った金額に応じ、直近の3年度以内において、個別企業からの受取額が一度でも年間500万円を超える者は関連する薬に関わる審議に参加できず、50万円を超え500万円以下の者は審議には参加できるが、議決には参加できないこととされている。
しかし、診療ガイドラインの策定に関与する者の利益相反管理については、上記のような基準やガイドラインは存在していない。
当会議が各企業の開示情報をもとに調査したところ、2014年度の1年間だけでも、本ガイドライン策定参加者11名全員が、DOAC(NOAC)の製造・販売企業5社から多額の金銭を受領しており、その総額が1億4000万円に達することが明らかとなった。
本ガイドライン策定参加者とDOAC(NOAC)の製造・販売企業との利益相反関係は、ガイドラインの公正さに疑義を生じさせるに十分なものといえ、診療ガイドライン策定参加者の利益相反関係の管理が不十分である点が、極めて問題である。

5 基本的な行動方針および具体的行動

  1. (1) 各製薬企業および本ガイドライン策定参加者の所属する各学会への公開質問の提出
    2016年3月2日、DOAC(NOAC)の製造販売企業5社と、本ガイドラインを作成した3学会に対し、「『心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)』の利益相反問題に関する公開質問」を提出。
    各製薬企業に対しては、各製薬企業の製造販売するDOAC(NOAC)の販売開始時期から、本ガイドラインが発表された2013年度までに本ガイドラインに支払った金銭の具体的金額について明らかにすることを求めた。
    各学会に対しては、診療ガイドラインの策定に関与する者の利益相反についての基本的な考え方や利益相反管理の具体的基準等及び、本ガイドライン策定参加者の利益相反関係を知っていたか、本ガイドライン策定参加者がこのような利益相反関係を有することを適切であると考えるか等について明らかにすることを求めた。
  2. (2) 各製薬企業からの回答受領と、日本製薬工業協会に対する要望書の提出
    1. 回答受領
      同年4月4日までに、製造販売企業5社からそれぞれ回答を受領。
      各企業からは、日本製薬工業協会の作成する「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」(以下「透明性ガイドライン」という。)に則り、ウェブページ上で利益相反関係を公開している旨の回答があったが、うち2社については、情報の公開期間を1年と限定しており、過去の情報の確認が不可能となっていた。
      透明性ガイドラインには、公開時期について「各年度分を翌年度に公開する」との規定があるが、透明性ガイドラインの趣旨からすれば、この記載は、公開時期について翌年度でもよい旨定めたものであって、公開期間を限定する意味ではないと理解される。
    2. 日本製薬工業協会に対する要望書の提出
      そこで、日本製薬工業協会に対して、透明性ガイドラインにおいて公開を求めている各年度の医療機関等に対する資金提供等の情報について、公開期間の限定を行っている各会員会社に対し、限定を外すよう指導することを求め、要望書を提出した。
  3. (3) 各学会からの回答受領と、日本医学会に対する要望書の提出
    1. 回答受領
      本ガイドライン策定参加者の所属する3学会からは、同年4月25日に連名での回答を受領した。
      学会からは、当会議からの、本ガイドライン策定参加者の利益相反関係について適切であると考えるか、との質問に対する回答はなかったが、当会議のガイドライン策定参加基準に関する指摘に対して、日本医学会が策定を進めている「診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス」の策定を待って適切に対応する旨の回答があった。
    2. 日本医学会に対する要望書の提出
      そこで、日本医学会に対し、診療ガイドラインの策定参加基準について、.イドライン策定開始前3年間の間に、問題となる医薬品についての関連企業から年間50万円を超える金銭授受のないこと、∈定期間中及び策定期間後少なくとも1年の間は関連企業からの金銭授受は申告の対象とし、それを公開すること、4慙△垢覦緻品の承認等に密接に関与した者は、参加資格を有しないこと、ぅイドラインには、利益相反関係にある企業名のみならず、受領した金銭の具体的金額を記載すること、などを定めることを求める内容の要望書を提出した。

6 今後の課題

本ガイドラインは、利益相反関係がガイドラインの公正さを歪めたのではないかとの疑義が生じるものであり、診療ガイドライン策定参加者の利益相反管理の重要性が、改めて再確認された。
日本医学会が策定を進めているとされる「診療ガイドライン策定参加基準ガイダンス」は、今後の診療ガイドライン策定参加者の利益相反関係管理に大きな影響を与えるものと考えられるため、今後も、「診療ガイドライン策定参加基準ガイダンス」の策定過程およびその内容について引き続き注目していく必要がある。