調査・検討対象

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薬事審議における利益相反管理の問題

1 薬事審議における利益相反問題とは

利益相反とは、一方の利益を図るともう片方の利益を損ねるという状態をいう。例えば厚生労働省の薬事にかかわる審議会の委員が、審議対象となっている医薬品等のメーカーから金銭を受け取っていると、その審議の公正性(すなわち国民の利益)が損なわれる恐れがある。こうしたことから厚生労働省では、薬事に関する審議会等の利益相反の管理のために「薬事分科会審議参加規程」(以下参加規程)を設けている。これは2007年に抗ウイルス薬タミフルの副作用等について調査した研究班長が、タミフルの販売メーカーから多額の寄付金等を受け取っていたことが判明したことをきっかけに整備されたものである。委員が直近の過去3年度に受け取った金額に応じ、最も多い年度の受取額が年間500万円を超える場合は審議に参加できず、50万を超え500万円以下の場合には審議に参加できるが議決には参加できないことになっている。

2 取り上げた経緯

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)接種後に起きている重篤な副作用の問題について審議し、定期接種をそのまま継続するかどうかを検討する、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議(以下合同会議)の委員に対しても上記参加規程が適用された。
合同会議は、2014年1月、HPVワクチン接種後に多数発生している広範な疼痛または運動障害について、「心身の反応であり、ワクチンの成分が原因ではない」とする見解をまとめたが、2014年4月の時点で、この合同会議の委員15人中11人(73%)が、HPVワクチンのメーカーであるグラクソ・スミスクライン社ないしMSD社から奨学寄付金、あるいは講演料等を受け取っており、このうち、3名(20%)は議決に参加できないレベルの利益相反であったことが明らかになった。また2014年4月25日の厚生労働省発表によると、全体の40%に当たる6名の委員が、本来申告すべきだった利益相反を適切に申告していなかったこともわかった。
さらに、交代で座長を務める予定だった2名の委員は、ともに当該ワクチンメーカーから金銭を受け取っていた上に、それを適切に申告しておらず、うち1名は座長でありながら議決に参加できないレベルの金額を受け取っていたという状況であった。

3 何が問題か

HPVワクチンの副作用の審議をめぐる前項のような状況を考えると、現行の厚生労働省の参加規程は基準が甘すぎるうえ、その開示内容の具体性に欠けるなど、きわめて問題が多いことがわかる。例えば、現行参加規程では、利益相反をもつ委員が多数いても定足数に影響がない限り審議を進めることが可能であり、審議中に当該メーカーから金銭を受け取ることが禁じられていない。また仮に審議中に金銭を受け取っても50万円超、500万円超といった自己申告のランクに変化がない限りそのことは外部からはわからない。
そもそも現行の参加規程では、受け取り金額はすべて委員の自己申告に頼っており、虚偽申告へのペナルティもない。
さらに、参加規程はその第19条で、利益相反管理が適切に行われているかどうかを検討する評価委員会を定期的に開催することになっているが、同委員会は2010年7月以降、4年以上にわたって開かれていなかった。利益相反管理に対するこうした厚生労働省の後ろ向きの姿勢が大きな問題である。

4 基本的な行動方針

当会議では、現行の利益相反管理規程の不備と不徹底、さらに委員の自己申告の正確性を担保するしくみが存在しないことが重大な問題であり、それが薬に対する正しい評価を曲げ、特にHPVワクチンをめぐる偏った審議運営につながっていると判断した。そこで現行の利益相反管理規程を見直すこと、米国のサンシャイン条項のような形で法律に基づく利益相反関係の公開を義務づけることなどを求めることととし、あわせてHPVワクチン副作用に関する合同会議のメンバー構成を見直すよう求めていく方針とした。

5 具体的行動

  1. (1) 2014年4月28日、厚生労働大臣に対し「厚生労働省の審議会の利益相反管理ルールの見直しを求める要望書−HPVワクチンに関する審議会委員の利益相反を踏まえて−」を提出した。同要望書では、以下の3点を求めた。
    1. ① HPVワクチンについて審議する厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、および薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同部会の委員の構成を見直すこと
    2. ② 評価委員会で薬事分科会、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会等の参加規程の運用状況を調査のうえ、審議参加規程を見直すこと
    3. ③ 製薬企業・医療機器企業に対し、医師等への金銭等の支払情報の公開を義務づける法律を制定すること
  2. (2) そしてこれを受けて、評価委員会が4年3か月ぶりに開催されることとなったことから、改めて2014年12月25日「薬事分科会審議参加規程の見直し等に関する要望書」を提出
    1. ① 委員が受け取った金銭の過去3年分について、具体的な内容(いつ、どの企業から、どのような性質のものとして、いくら受領したのか等)を申告させ開示する。
    2. ② 審議参加や議決参加の基準額を現行(50万円、500万円)よりも低額にする。
    3. ③ 審議期間中に審議対象となっている医薬品や医療機器の製造販売企業から金銭等を受領するなど新たな利益相反関係を生む行為をすることを禁じる。
    の3点を求めた。

6 今後の課題

当会議からの要望書を受けて、国は参加規程運用について若干の改善を行い、各委員の申告内容の正確性を担保するため日本製薬工業協会の「透明性ガイドライン」に基づく各社の支払い情報開示内容と各委員の申告金額を突合することとなった。これは一歩前進ではあるものの、法律に基づかない企業側の自主的開示金額との突合であり、透明性の確保という点では不十分であるし、基準金額についても市民感覚との乖離がある。
当会議では、今後とも、参加規程の改正や、法律に基づく資金提供の開示を行くこと等により、より厳格な利益相反管理を求めていく。さらには多額の資金提供を受けている委員の排除についても引き続き求めていく。