調査・検討対象

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インクレチン関連薬

1 インクレチン関連薬とは

一般名:商品名
  一般名 商品名 企業名
a シタグリプチンリン酸塩水和物 ジャヌビア錠
グラクティブ錠
万有製薬
小野薬品
b ビルダグリプチン エクア錠 ノボノルディスクファーマ
c アログリプチン安息香酸塩 ネシーナ錠 武田薬品
d リラグリチド ビクトーザ皮下注 ノボノルディスクファーマ
薬効分類 2型糖尿病治療薬 DPP-4阻害薬(a、b、c)
2型糖尿病治療薬治療薬 GLP-1受容体作動薬(d)
適応 2型糖尿病
ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない場合に限る
  1. ①食事療法、運動療法のみ(a,b,c,d)
  2. ②食事療法、運動療法に加えてスルフォニルウレア剤(SU剤)を使用(a,b,d)
  3. ③食事療法、運動療法に加えて使用チアゾリジン系薬剤を使用(a,c)
  4. ④食事療法、運動療法に加えてビグアナイド系薬剤を使用(a)
  5. ⑤食事療法、運動療法に加えてαグルコシダーゼ阻害薬を使用(c)

<特徴>
糖尿病とは、膵臓β細胞から分泌されるインスリンの作用不足により、ブドウ糖が不完全燃焼し、ブドウ糖、脂肪、蛋白質の正常な活用ができなくなり、血管、神経系を中心に臓器に異常を生ずる病気である。
2型糖尿病は、1型糖尿病が、膵臓β細胞が破壊され、絶対的インスリン欠乏に至るインスリン依存性糖尿病といわれるのに対し、遺伝因子に過食、運動不足などの環境因子が加わってインスリンの作用不足を生じ、発症する。
インクレチンとは、腸管内に食事内容が流入すると、直ちに脂質や糖質の刺激によって腸上皮細胞から分泌され、インスリン分泌を促進させる腸管ホルモンの総称であるが、これらはDPP-4とよばれる蛋白分解酵素によって数分で分解され、不活化される。そのため、DPP-4活性を阻害して活性型インクレチンを増加させるDPP-4阻害薬(a,b,c)と、インクレチン受容体を刺激するGLP-1受容体刺激薬(d)が遺伝子組み換え技術により開発された。
インクレチン関連薬は、インスリン分泌能低下を主体とするアジア人の糖尿病に適し、低血糖を起こしにくいとして、市販直後から急速に使用が拡大している。

2 取り上げた経緯

インクレチン関連薬の臨床試験の評価指標は、いずれも短期的な血糖値(HbA1C)の変化のみとされており、長期的な合併症リスクを減らす証拠は得られていない。
NIH(米国国立衛生研究所)による糖尿病予防プログラム1996年から10年間の結果は、生活改善の効果が最も高かったことを示した。いまだ、血糖降下薬に関して、いずれの大規模臨床試験によっても長期的延命効果は証明されていない。
市販直後より、急速に使用が拡大しているインクレチン関連薬に関して、有効性、安全性の両面から評価し、その意義を問う必要があると考えた。

3 何が問題か

  1. (1) インクレチン薬は、薬理作用が未解明であり、長期的安全性が確認されていない。
    承認審査では、安全性は示されているとし、長期使用による心血管イベント、腫瘍発生、腎機能障害者での安全性に関して市販後調査の必要性を指摘しながらも、承認条件なしにて承認された。
    シタグリプチンに関して、低血糖は起こしにくいとされながら、市販直後調査において重篤な低血糖による意識障害が多数発生し、注意が促されている。また、リラグリチドに関しては、インスリン注射からの切り替えにより糖尿病性ケトアシドーシスや高血糖が発生し、医師に向けたブルーレターにより、注意が呼びかけられている。
  2. (2) 米国FDAは、開発中の糖尿病新薬の心血管系に対する害作用のリスクを排除(軽減)するための大規模な長期臨床試験を求める「新規糖尿病治療薬の心血管系疾患発症リスク評価に関する基準」(FDAガイダンス)を2008年12月に発表した。DPP-4阻害薬アログリプチンは、その基準に基づく心血管系リスク評価のための長期臨床試験を課され、承認されなかった。
    一方、わが国では、2010年7月に「経口血糖降下薬の臨床評価法に関するガイドライン」を確定したが、心血管系リスク評価に関しては、製造販売後の調査(努力目標)に委ねるとした。
    糖尿病を治療する目的は、血糖の上昇に伴って発生する細小血管症や心血管系合併症を予防することにある。しかし、いまだ大規模臨床試験の結果は、厳格な血糖管理による心血管系合併症の抑制効果や延命効果を証明し得ておらず、むしろ、SU剤による心筋梗塞の発症や重篤な低血糖、チアゾリジンによる心不全、心発作の発症等により、死亡率の増加が明らかとなった。
    このような点からは、心血管系合併症を軽減することが目的である糖尿病治療において、心血管系リスク評価を臨床試験で課すことは当然といえる。

4 行動指針と具体的な行動

2010年12月24日、以下を求める要望書を厚生労働省及び製薬企業に提出した。

  1. (1) 次の問題について、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬及びGLP-1受容体作動薬)そのものの安全性に関する詳細な調査を行い、機序を解明して、対策を講じるべきである。
    1. ① DPP−4阻害薬(ジャヌビア錠・グラクティブ錠)使用症例で生じた低血糖や重篤な低血糖による意識障害に関する問題
    2. ② GLP−1受容体作動薬(ビクトーザ皮下注)使用症例で生じた糖尿病ケトアシドーシス(死亡事例2)や顕著な高血糖の問題
  2. (2) 「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に、心血管疾患のリスク評価のための臨床試験を加えるべきである。
  3. (3) ガイドラインを(2)のとおりに改正する前に承認されたインクレチン関連薬については、製造販売後特別調査として、心血管系疾患のリスクを科学的に評価し得る臨床試験を課すべきである。

5 取り組みの問題点・今後の課題

インクレチン関連薬は、その後も臨床現場での使用が拡大していると思われ、同薬の問題点について、市民、医療現場に情報提供し、安全な使用を促し続けていく必要がある。

トピックス

  • 薬害オンブズパースン会議
  • タイアップグループ
2010-12-24
糖尿病治療薬インクレチン関連薬に関する要望書提出