閉じる

 糖尿病治療薬は、2009年10月以降、インクレチン関連薬と呼ばれる新薬(DPP-4阻害薬:ジャヌビア錠・グラクティブ錠、エクア錠、ネシーナ錠。GLP-1受容体作動薬:ビクトーザ皮下注、バイエッタ皮下注)が相次いで発売されました。テレビの某番組では、「糖尿病の治療が劇的に変わろうとしている」と取り上げました。インクレチン関連薬は、膵臓でのインスリン分泌そのものを調節し、血糖の高さに応じて働くとされ、これまでの治療薬のような低血糖は起こさない、体重増加をきたさないと宣伝されています。しかし、低血糖を起こさないとされていたにもかかわらず、使用の拡大と共に、低血糖による意識障害や死亡例が報告され、厚生労働省は使用上の注意の改訂を指示しました。
 薬害オンブズパースン会議では、インクレチン関連薬の問題点を議論し、2010年12月24日に厚生労働大臣に対して要望書を提出しました。
 会議で議論した問題点は、次の3点です。
 第一に、ジャヌビア等のDPP-4阻害薬で発生する重篤な低血糖症の発生や、ビクトーザ等のGLP-1受容体作動薬をインスリン注射から切り替えて使用し、高血糖によるケトアシドーシスが発生している問題です。
 インクレチン関連薬は、膵炎の発症や発がん性の問題、感染症や免疫系への影響など未解明の問題が多くありながら、承認条件もなく承認されています。インクレチン関連薬そのものの作用機序に関するさらなる調査研究が必要です。低血糖の発現についても、他の薬剤のみに原因があるとする対応ではなく、インクレチン関連薬そのものの安全性に関する調査にもとづく適切な対策が必要です。
 2つ目の問題点は、インクレチン関連薬の有効性が、短期間(12週間〜52週間)の血糖値(ヘモグロビンA1c)の変化のみで評価されていることです。
 糖尿病の治療は、血糖値を下げることだけを目標に、偏った食事や薬によって強力に血糖値をコントロールしようとするのではなく、バランスの良い食事と適度な運動により、糖分のみならず、たんぱく質や脂肪も含めた栄養分をうまく利用して、臓器や細胞が活発に働くようにすることが大切です。長期的な3大合併症(末梢神経障害、網膜症、腎症)や、心血管系の合併症(心筋梗塞や脳卒中等)を防ぐことが目標となりますが、血糖値の低下だけを目標にして薬による治療を進めることは、必ずしも糖尿病の予後を改善することにつながりません。
 3つ目は、心血管系の害作用が評価されていないことです。
 糖尿病治療薬による心血管系の害作用については、これまで心筋梗塞や心不全の発症等が問題となってきました。
 米国は、糖尿病治療薬による心血管系の害作用を軽減するために、2008年12月に「新規糖尿病治療薬の心血管系疾患発症リスク評価に関する新基準」を策定し、承認前に心血管系の害作用を評価することを製薬企業に求めています。実際に、インクレチン関連薬の一つであるネシーナ錠(武田薬品工業)について、日本では2010年4月に承認されましたが、米国では、心血管系リスク評価のための長期臨床試験を企業に課し、承認していません。EUのガイドラインにおいても、承認前の心血管系合併症に関する評価を求めています。
 ところが日本では、2010年7月に「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」を策定しましたが、心血管系リスクの評価は義務付けていません。その理由は、日本では、心血管系合併症の有病率が低く(1~1.5%)、承認前に心血管系合併症の発症を指標とする臨床試験の実施が容易ではないこと、日本の糖尿病患者の死因の第1位は、心血管系疾患ではなく悪性腫瘍であるためとのことです。製造販売後調査においても、「事例の集積」のみにとどまり、統計学的評価を求めていません。
 糖尿病治療薬については現在、配合剤(2種類以上の異なる働きの成分を配合した製品)の新薬承認が相次いでおり、早期に、上記ガイドラインに、心血管系疾患のリスク評価のための臨床試験を加える必要があります。同時に、現在承認されているインクレチン関連薬については、製造販売後特別調査として、心血管系リスク評価のための臨床試験を課すことを求めます。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 
要望の趣旨
1 次の問題について、インクレチン関連薬(DPP−4阻害薬及びG LP−1受容体作動薬)そのものの安全性に関する詳細な調査を行  い、機序を解明して、対策を講じるべきである。
 。庁丕弌檻漢乏果堯淵献礇魅咼⊂・グラクティブ錠)使用症例で生  じた低血糖や重篤な低血糖による意識障害に関する問題
 ■韮味弌檻閏容体作動薬(ビクトーザ皮下注)使用症例で生じた糖  尿病ケトアシドーシス(死亡事例2)や顕著な高血糖の問題

2 厚生労働省作成の「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に、心血管系疾患のリスク評価のための臨床試験を加えるべきである。

3 同ガイドラインを2のとおりに改正する前に承認されたインクレチン関連薬については、製造販売後特別調査として、心血管系疾患のリスクを科学的に評価し得る臨床試験を課すべきである。

閉じる