注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

COVID-19ワクチンの開発をスピード最優先で進めるのは極めて危険

2020-07-29

(キーワード)COVID−19ワクチン、Operation Warp Speed、Cutter Incident、Arthur Caplan

 
 米国では、ワクチンの開発がスピード最優先の”Operation Warp Speed” (トランプ大統領が2020年5月15日にアナウンスした2021年1月までに3億ドーズのCOVID-19ワクチン供給をめざす開発プロジェクト)の下で進められている。ワクチンは多数の健康人を対象とするだけに、治療薬以上の科学的な手順を尊重した慎重さが求められる。そしてそのような「慎重さ」が、低下しているワクチンの信頼性回復に必要である。
 
 米国医師会雑誌に掲載された本稿(※1)は、かかる新型ウイルスCOVID−19の世界的大流行の折に出された、ニューヨーク大学の生命倫理学教授アーサー・カプランらによる時宜を得た警鐘である。以下要旨を紹介する。
------------------------------------------------

 米国では、1955年にJonas Salkによって開発された不活化ポリオワクチンは、100万人以上の学童を巻き込んだ国内史上最大の公衆衛生実験の結果、「安全で強力かつ効果的」と宣言された。しかし、数週間のうちに、ポリオの惨劇を終わらせることを目的とした「奇跡のワクチン」は、ポリオを引き起こしたと非難された。Cutter Laboratoriesは、生ポリオウイルスで汚染されたワクチンを配布し、そのワクチンを接種された7万人の子どもが筋力低下を発症し、164人が永久に麻痺し、10人が死亡した。この事件はワクチンの安全性有効性を確かなものとする多くの試験を必要とする規制につながった。

 新たな感染症のワクチンは月単位でできるようなものではない。薬害を起こさないためには、科学的な手順を踏まえて着実に行うのが唯一のセーフガード(安全装置)である。薬害を起せば医師と科学者への信頼は失われる。そうしたシナリオが現実のものとならない希望は存在する。過去の失敗からワクチン開発を監視する規制の進歩がある。技術的な進歩が臨床試験における有害事象の迅速な伝達を可能としている。ワクチンに対する免疫学的な反応に影響する遺伝的因子への理解も進んできている。

 医師は不適切に開発されたワクチンを打ってはならない。研究者は十分なデータなしでそれらを是認してはならない。科学コミュニティがCOVID-19ワクチンで市民の信頼を得るチャンスは一つしかなく、それはワクチンの安全性・有効性のエビデンスを堅持することである。
-------------------------------------------------

 日本においても、大阪のベンチャー企業がCOVID-19ワクチンとして国内初の臨床試験を開始したと期待を持って報道されている。しかし、このワクチンはこれまで実用例のないタイプのDNAワクチンであり、このような従来にない新しいタイプのワクチンの承認には、有効性と安全性に関する慎重な評価が求められるべきである。最近でも、ウイルスの増殖ではなく、ウイルスの感染そのものを排除することを目指す点において従来にないタイプといえるHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン(子宮頸がんワクチンとも称される)は、その有効性と安全性が十分に確認されないまま承認され、国際的にも他のワクチンに類を見ないほど多くの被害者を生み出している(※2、※3)。 

 ワクチン開発をスピード優先で進めることは極めて危険であり、この論文のカプランたちの警鐘は決して他人ごとではない。 (K)
---------------------------------------------------