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TPP協定は必要な医薬品へのアクセスを妨げる これからも続くTPP問題

2016-02-10

 (キーワード: TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、自由貿易協定、知的所有権、特許保護期間、医薬品アクセス)

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について、バイオ医薬品のデータ保護期間を巡って、閣僚会議では、12年という長期間を求めたい米国と、同期間を5年と短くして安価なジェネリック医薬品を活用したいオーストラリアの調整が焦点となったが、2015年10月5日に報じられた「大筋合意」では、販売承認から「少なくとも8年間」を求めるものの、代替措置として5年間の強力な保護に他の手段を組み合わせて同程度の保護効果を与えることも認めるという玉虫色の表現となった。

 米国のJAMA誌電子版が「必須医薬品(essential medicine)へのアクセスの問題」に焦点をあてた「Viewpoint」(観点)記事を掲載している。「大筋合意」する以前の2015年8月20日号とやや古い記事であるが、問題の本質を捉えているので要旨を紹介する。著者はハーバード大学医学部疫学・薬剤経済学部門のJing Luo、Aaron S Kasselheim両氏である。
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 TPP協定は、世界のGDP(国内総生産)の40%にも及ぶ集積した貿易力を持つ12か国を含んでいる。2015年、ハワイで開催された各国通商大臣の協議は、主に医薬品の知的所有権に関する不一致で最終的な一致に至らなかった。

 特許を含む知的所有権は、研究開発型製薬企業のビジネスモデルの中心的な位置にある。製薬企業は特許期間中には高価格を課し、高収益を維持できる。しかし、低収入の患者はしばしば高価な医薬品にアクセスできない。また、高価な医薬品への過剰な支出は国家財政を圧迫し、他の保健サービスの縮小に導く。加えてTPPは、その知的所有権条項によって、各加盟国における医薬品市場に影響を及ぼす。

 1994年の知的所有権に関する貿易協定(TRIPS協定)は、世界規模で知的所有権保護を標準化し、各国はWTO(世界貿易機関)の基準に合わせねばならないことになった。TRIPS協定以前には多くの低収入諸国は医薬品の特許を認めていなかった。TRIPS協定は、すべての署名国がそれまでの各国独自の政策を変更し特許を認めることを要求した。それ以来、各国はこの要求に様々なやり方で対応してきた。例えば、インド法は、新たな特許を得るには既存の医薬品が効果において有意な改善を示すことを求めた。最近インドの最高裁は、イマチニブ(商品名グリベック)の新製剤に関して、ベータ結晶タイプは効果の有意な改善を付加するものでないとして特許を認めなかった。

 しかしTPPは、インド最高裁が行ったような特許認定への柔軟な対応を終わらせ、TRIPS協定の方策に追加して知的所有権に関する数多くの新たな要求事項をもたらす。TPPの協議は非公開で進められているが、最近その一部がリークした。TPPは米国が主導し、国際的な知的所有権法で各国が米国の基準に合わせるよう求めている。TPPはまた既存医薬品の新たな用法の特許取得によりジェネリック医薬品の上市を遅らせることを認めようとしている。これは、米国の製薬企業がジェネリック品の上市を遅らせる策略の常とう手段である。

 米国は、TPPのバイオ医薬品の知的所有権保護を、米国と同様12年間にするよう求めている。知的所有権の過剰な保護は、ジェネリック医薬品やバイオシミラー(生物製剤のジェネリック)医薬品の上市を遅らせ、新薬の高価格が国家財政に困難をもたらす。何人かのエコノミストが、患者に医薬品の高価格化をもたらすとして、TPPの知的所有権条項は破棄されるべきだと示唆している。    (T)
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 バイオ医薬品のデータ保護期間に関しては米国の譲歩により、販売承認から「少なくとも8年間」を求めるものの、代替措置として5年間の強力な保護に他の手段を組み合わせて同程度の保護効果を与えることも認めるという玉虫色の表現となった。

 日本では再審査期間が8年であるため、データ保護期間も8年とされてきている。したがって、この点に関してだけ言えば、この決着の日本への影響は少ないとされる。

 しかし、ジェネリック医薬品供給に関して「開発途上国にとって最悪の協定」(国境なき医師団)がもたらす間接的な影響がある。TPPの本質が各国の公衆衛生や国民の福祉が非公開の経済交渉の中でゆがめられるという点は変わらない以上、今後日本の安全対策においてどのような影響が出るのかは未知数である。