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TPPの危険性をパブリックシティズンが重ねて警告

2014-01-09

パブリックシティズンウェブサイト2013年3月(※1)
https://www.citizen.org/eli-lilly-investor-state-factsheet

 以前の注目情報で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が各国の医薬品供給システムの土台を崩す危険性について取り上げた(※2)。

 そうしたTPPが他国の主権を侵害する重大な仕組みの1つに、企業・投資家が他国の政府を直接仲裁機関に訴えることができるISD条項(Investor-State Dispute Settlement、投資家と国家間の紛争解決手続き)がある。

 すでにこの条項により、米国のタバコ会社フィリップモリス社の子会社が、オーストラリア政府を相手として、タバコの飲みすぎに注意喚起する公衆衛生規則を不当な貿易障壁として、また、米国の燃料会社が、カナダ政府を相手として、不当な環境規制として、それぞれ仲裁を申し立てた事実が知られている(※3)。

 2012年11月、カナダ政府は、米国イーライリリー社のADHD(注意欠陥多動障害)用医薬品について、エビデンスが不足している(示されたデータは比較データでない22例のデータのみであった)として、自国の規定により特許不承認とした。

 これに対して、イーライリリー社は、将来の利益が過小評価されたとして、TPPと同種の協定である北米自由貿易協定(NAFTA)の条項を利用して、1億ドルの損害賠償を請求する仲裁を申し立てた。今後多発が危惧される。

 パブリックシティズンは、こうした無法を許せば、各国の制度の土台が崩されると警鐘を鳴らしている。

 記事の一部要約を、紹介する。
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 米国イーライリリー社が販売特許不承認に対して1億ドルの損害賠償を要求する根拠は、NAFTA(北米自由貿易協定)のISD条項である。

 これは、他の自由貿易協定(FTAs)にも含まれるもので、企業が公益政策を不正に攻撃する手口を可能にするシステムだ。

 このシステムは、外国の企業を主権国家と同等のレベルに持ち上げ、公益に基づく国家の措置に対して直接的に攻撃する権力を与えている。

 当事国の法律や裁判所を通さず、有権者に責任をもたない民間機関の代理人で構成される国際的な仲裁機関によって審理される。

 彼らには時間で報酬が支払われるため、政府は、解決に失敗したときでさえ、多額の報酬の支払いを余儀なくされる。その平均コストは、800万ドルである。たとえばフィリピンのある事例は、紛争解決と弁護士コストだけで5000万ドルを上回った。

 米国FTAと関連法のもとで、投資家は政府への損害賠償要求ケースによってすでに30億ドルの損害賠償金を入手しており、150億ドル以上が未解決の状態である。

 ISD条項ができたのは1950年代であるが、賠償請求の数は過去10年間で急激に増加しており、1950〜2000年までで50件だったのが現在は450件以上がファイリングされている。

 オーストラリアだけがTPPや他の同様な貿易におけるISD条項のシステムを拒否している。なぜ各国はオーストラリアに続かないのか。
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 TPP交渉が秘密裏に行われている。聖域の見直しが焦点となっているようだが、問題は関税だけではなく、ISD条項によって、国民を守るための国の制度が、外国投資家により崩され、国内の法廷でないところで決定がされてしまうとんでもない条約であることだ。

 このままでは、薬害スモン事件の教訓として創設された医薬品副作用被害救済制度や薬害エイズ事件の教訓として導入された血液製剤の国内自給なども風前の灯である。

 国家は国民の利益を第一に政策を進めるべきであり、海外で起きている事態に目を向ければ、やるべきことは明らかであるはずだ。(N)