注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

コクラングループはあくまでタミフルに関する全臨床試験データの公表を求める −ロシュの「諮問委員会」設置の申し入れを拒否

2013-04-02

(キーワード:タミフル、全臨床試験データの公表、コクラン共同計画、システマティックレビュー)

 2012年8月7日から19回にわたって開催された新型インフルエンザ等対策有識者会議の中間とりまとめが2013年2月7日発表された。中間とりまとめは、抗インフルエンザウイルス薬を国民の45%に相当する量を目標に備蓄するとしている。

 抗インフルエンザ治療薬タミフルの備蓄に関しては、WHOが2002年5月、抗インフルエンザウイルス治療剤タミフルの備蓄を含むインフルエンザ対応指針を発表、2009年5月、メキシコでのN1H1インフルエンザの発生を機に、各国の大量備蓄対応につながった。しかし、タミフルの合併症抑制効果については、ヨーロッパのEMA(欧州医薬品審査庁)、NHS(英国保健福祉省)、米国のCDC(疾病予防管理センター)等が有効性を認めているのに対し、米国FDA(食品医薬品庁)やカナダ当局は、合併症を防ぐことは示されていないとしており、評価は一致していない。

 国際研究組織「コクラン共同計画」(以下コクラングループ)によるタミフルのシステマティックレビューをめぐる経緯は注目情報でも紹介してきた(※1、2、3)。コクラングループは、タミフルの評価データの大部分が未公表データに基づくという日本の林敬次医師の指摘を受け、未公表データを除外し、日欧米の規制当局の公表論文を含む臨床試験論文を新たに評価した。その結果、タミフルが合併症を防ぐ効果があるとする結論が覆され、合併症を防ぐ効果を証明するには新たなランダム化比較試験が必要であり、ロシュ社による全臨床試験データの公表が必要であることを明らかにした。ロシュ社は、全研究論文を公表すると約束したが、再三の要請に関わらず、2012年10月、未だ約束を果たさぬまま、タミフルのデータ解析を議論する「諮問委員会」設置を申し入れてきた。

 ここでは、コクラングループが、あくまでデータの公表を求めるとして、この諮問委員会設置の申し入れを拒否したことを伝えるBMJ電子版の情報を紹介する(BMJ電子版2012年11月26日(※4))。
-------------------------------
 ロシュは2009年12月8日、コクラングループの求めに応じて、しかるべき時までに全臨床試験報告を公表することを約束した。しかしその後、コクラングループによる再三の要請にもかかわらず、ロシュは全く約束を果たさないまま、データ解析について検討する諮問委員会の設置を提案してきた。

 ロシュが分析の類型を問題にして諮問委員会の設置を提案していることに対し、コクラングループは、コクラングループの手法は公開されており、その方法についてロシュからは異論もコメントも出されていないこと、コクラングループの評価手法に関しては、同様の手法で5000以上のレビューを実施していること、全レビューについてプロトコールと評価内容を公表し、公表の前後で査読が行われていること等から、分析評価方法について云々する問題ではなく、あくまでロシュが持つ全データが公表され、評価されることが必要なのだと主張し、諮問委員会の設置には応じない態度を示した。

 英国医学雑誌BMJも、全臨床試験のデータを公表するキャンペーンの一環として、ロシュに対し、コクラングループにデータを提供するよう求めてきた。BMJの編集長Fiona Godleeは、「政府はタミフルに公的資金を10億ポンド費やした。しかし、その有効性に関する根拠は隠されたままであり、独立した綿密な調査が必要である」と語っている。

 スカンジナビアコクランセンター長であるPeter Gotzschは、欧州政府はロシュを告訴し、医師らはロシュが全データを公表するまで、ロシュの製品をボイコットすべきだと訴えた。

 他の動きとして、疫学者のTom Jeffersonは、欧州オンブズマンに、2002年1月20日、タミフルは完全な根拠がないという事実にもかかわらず、販売許可を下した欧州医薬品局(EMA)に対して、ロシュから欠落したデータを集め、再分析するか、科学界に広く公開することを要求すべきだと申し入れた。オンブズマンは、当局に直接申し入れ、当局の対応が不満足であった場合にのみ関与すると述べた。
-------------------------------------------   
 BMJは、臨床試験データは全面的に公表すべきとして、データ公開キャンペーンの一環として、医師や患者が、タミフルの完全データを入手可能にするよう、ロシュ社を説得することを目的とする専用のウェブサイト(www.bmj.com/tamiflu)を立ち上げた。ロシュ社はまだ公式には返答していないが、E メールのやり取りは、全ての人が閲覧できるように 公開されている。その中では、WHO及びCDCに対してBMJがタミフルの備蓄を推奨した根拠について質問したやりとりも公表されている(※5)。また、英国では、政府が数億ポンドの費用を投じた対応に対して、その根拠をめぐって、国会で、英国国立医療技術評価機構(NICE)の責任者を招へいし、タミフルに関する臨床試験データの公表をロシュ社に対して厳しく働きかけることを要請したことが報じられている(※6)。

 そのような英国の動きとは対照的に、わが国では、新型インフルエンザ対策に何ら議論もなくタミフルの備蓄が盛り込まれ、医療現場では、インフルエンザ検査キットによる判定をもとに抗インフルエンザ薬が当然のように処方されている。日本のタミフル処方量が世界の75%以上を占める(※7)という実態は変わっていない。(N.M.)