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フランスとドイツは新薬の保険償還の可否や価格について、既存薬との比較により評価

2013-02-14

(キーワード:医療技術評価(HTA)、費用対効果、HAS、IQWiG、AMNOG)

 多くの国々で医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)が医薬品や医療材料の保険償還の可否の判断等の政策立案や診療ガイドライン等の臨床判断に用いられている(※1、2、3)。

 しかし、費用対効果の検討で用いられる経済評価の評価手法、利用方法については、国ごとの様々な事情によりばらつきがあり、英国では効果指標を質調整生存年(Quality-adjusted life year:QALY)としている。QALYを用いる評価手法については、閾値についての問題などもあり批判的な意見も多い。

 一方ドイツでは既存薬に対する付加価値で新薬を評価するシステムとなっている。2011年1月から施行された医薬品市場新秩序法(AMNOG)では、新薬は発売後1年間は自由に価格を設定できるが、あくまでも暫定価格であり、その1年間の間に既存薬に対する付加価値を証明しなければならない。付加価値に基づき価格交渉が製薬会社との間で行われるが付加価値を証明できなければ保険償還の対象からはずれることもある。

 フランスでも既存薬に対する付加価値で保険償還の可否と価格を決定するシステムが開始される予定である。ドイツとフランスの取り組みをフランスのスクリップ誌が伝えており記事の概要を紹介する。
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1. ドイツの新制度で50%の新薬が既存剤への目立った優位を示せず
 (スクリップ誌2012年9月21日号より)

 多くの製薬企業が、新薬は既存薬に対する相当な大きさの付加価値を示さねばならないというドイツの医療技術評価担当庁の要求に、明らかに困難な状況にある。このシステムで審査された27の新薬のうち、付加価値がmajor と評価されたものはなく、1つ以上の適応でsignificant(有意義) と評価されたものも5つに過ぎない。一方、ハラヴェン(抗がん剤。一般名:エリブリン)、イムセラ(多発性硬化症治療薬。一般名:フィンゴリモド塩酸塩)を含む9つが minor と評価され、テラビック(C型慢性肝炎治療薬。一般名:テラプレビル)を含む3つは unquantifiable(数量化できない)、リバロ(コレステロール低下薬。一般名:ピタバスタチンカルシウム)、アジルバ(降圧剤。一般名:アジルサルタン)を含む3つが no benefit、のこりのトラゼンタ(糖尿病薬。一般名:リナグリプチン)を含む7つは評価に必要な十分な書類が整っていないとされた。製薬企業は評価制度が適切でないと反発し、行政当局は順調に機能しているとしている。

2. フランス医療技術評価機関(HAS)が既存薬への付加価値に基づき保険償還と薬価を決定
 (スクリップ誌2012年9月28日号より)

 2004年に創立したフランスの医療技術評価機関(HAS)が新たな相対治療効果指標の詳細をこのほど明らかにした。新しいシステムは既存の治療薬に対する付加価値で保険償還の可否や薬価を決定する。この動きは、ドイツの医療経済評価機関である医療の質・効率研究所(IQWiG)の保険償還に関する評価に対して(例えば比較薬剤の選択などに)影響を与えるだろう。このシステムは今年中に完成する。

3.ドイツが新薬の価格決定メカニズムの厳しさを伴う大幅な改訂 パブコメを実施
 (スクリップ2012年11月30日号より)
 
 ドイツのIQWiGは、医薬品市場新秩序法(AMNOG)で薬価を決定するために使われるかもしれない、いわゆる「効率的フロンティア」と呼ばれる価格決定メカニズムを試用した抗うつ剤の検討結果を発表し、そのフィードバックを望んでいる。研究によれば、このメカニズムではブプロピオンの価格を現在の104.88ユーロ(1ユーロ110円として11500円)から2.93ユーロ(320円)に引き下げる。

 このメカニズムは新しいアイデアではなく、ここ何年か実施に向けて検討されてきたものである。何年か前、価格と保険償還を所管する連邦共同委員会(G-BA)のリクエストで、IQWiGは医薬品の費用対効果の分析を行う基準としてメカニズムの構築に取り組みはじめた。これはAMNOG医療改革法が新薬の評価のために初期便益分析を導入する以前のことである。そのアイデアはIQWiGが保険者に医薬品の保険償還価格の上限額を推奨するのを助けるメカニズムであった。IQWiGは、医薬品の「便益調整価格」を、当該品がもたらす患者関連のアウトカム(例えば反応または緩解)を既存薬と比較して吟味し、計算する。その手始めに抗うつ剤が検討された。
 
分析の結果は今週コンサルテーション(日本のパブリックコメント)にかけられた。それによるとベンラファキシン、デュロキセチン(日本での商品名サインバルタ)、ブプロピオン、ミルタザピン(日本での商品名レメロン)の現在の価格はあまりにも高いことが示されている。
 
このメカニズムが、新AMNOGプロセスが実施された以前に市場に出た医薬品の評価にも波及するかは明確でないが、グリプチン類(DPP-4阻害剤、糖尿病治療薬)であるベーリンガーインゲルハイムのトラゼンタ(リナグリプチン、日本の商品名も同じ)の評価が行われていることが確認されている。コンサルテーションは12月17日まで行われる。
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 欧州金融危機により緊縮財政を断行するフランスやドイツなどでは、政府が医療費削減に向け医薬品の値下げや保険償還の引き締め、新薬の効能評価の厳格化に努めている。当然、大手製薬会社は反発しているが、医療技術評価を保健医療政策立案へ活用する動きは欧米のみならず、アジアでも広がってきており、韓国、タイではすでに公的な研究機関もあり実践もされている(※4)。

 医療技術評価は単に医療費抑制や薬価引き下げの手段ではなく、限りある医療資源を合理的に配分するツールであり、社会的な影響などを多面的に検討する研究領域である。医療技術評価の導入には専門とする公的な研究機関の設立と質の高い人材育成、信頼できる疾患データベースの構築、日本の状況にあわせた研究ガイドラインの確立などが必要であり、医療費における薬剤比率が高いと言われる日本でこそ医療技術評価の導入は急がれるべきであり、導入するかどうかの議論をしている余裕はない。    (G.M.)