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コクラングループの臨床試験データ全面情報公開の要求に行政官がプロスメディスン誌で見解

2012-08-23

 (キーワード: 全臨床試験データの公開、コクラン共同計画、欧州医薬品庁行政官の見解)

 コクラン共同計画は2011年10月5日、全臨床試験のすべてのデータへの無料アクセスを求める、都合の良いデータを選んで報告することを中止することで患者被害を減らすことができる、との内容を骨子とする声明を発表した(※1)。臨床試験データは、主催者(スポンサー)、研究者、および臨床試験参加者で共有すべきものであり、選別した報告(データ隠し)は医薬品などの有益性の過大評価、害の過小評価につながり、患者被害をもたらすとしている。
 2012年4月10日付のプロスメディスン誌(オンラインジャーナル)に、欧州の医薬品庁の行政官による「臨床試験データはすべて公開すべきか。行政官の見解」の論考が掲載された(※2)。著者は、EMA(欧州医薬品庁)のHans-Georg Eichler氏、EMAとフランスAfssapsのEric Abadie氏、英国MHRAのAlasdair Breckenridge氏、EMAとオランダCBG-MEBのHubert Leufkens氏、EMAの Guide Rasi氏である。
この論考は、プロスメディスンに同時掲載されたDoshiらコクラングループによる「臨床研究報告を共有する責務: タミフルの経験からの推奨」の論考(※3)に対する見解の形をとっている。
Doshiらは、その論考において、新型インフルエンザに対するタミフル備蓄の根拠とされたのがたったひとつの原論文であることから、選別報告のもたらす問題を指摘し、臨床試験データの共有の重要性を述べた。
以下に欧州の医薬品規制に携わる行政官らの論考の要旨を紹介する。
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 Doshiらは、販売承認された医薬品についての臨床試験のフルレポートが、医薬品のベネフィット(益)とリスクに関する独立した再分析を可能とするように、公開される必要があるとしている。われわれはEU(欧州連合)の医薬品規制に携わっている観点から、Doshiらの主張にコメントしたい。

・「なぜ臨床試験データは情報公開される必要があるか」
 Doshiらの臨床試験データは企業秘密情報ではないという主張、ほとんどの患者は医学知識に寄与したいと思って臨床試験に参加しており、非公開はそうした社会奉仕事業の基盤を切り崩すとの主張に同意する。
 確かに、開かれた社会では、主催者(スポンサー)と行政官だけが臨床試験結果の分析・評価を独占すべきではないだろう。しかし、行政官と独立した研究者たちの責任は同じものではない。行政官は、研究者とは違って、不確実性をもった条件のもとでも、患者にとってのその医薬品の有用性についてのタイミングのよい決定を行う法的な義務がある。

・「なぜ臨床試験データは情報の全公開をしない必要があるか」
 ウェブサイトでの全部のデータの情報公開には問題がある。第1に患者の個人情報保護の問題がある。第2に独立した分析・評価は利益相反問題がないのかという問題がある。
学界での個人的な昇進、これまで守ってきた地位の確保、あるいは単に科学コミュニティでより目立ちたいことなどは強力な動機となる。次々に論文を出さねば衰退する環境など、独立した分析・評価者とて利益相反に無縁ではない。独立した分析はそれ故に「歪みに脆弱」でもある。フルデータセットの公開はある場合には、間違った結果の出版につながる。
 利益相反はさておいても、独立した分析自身が高い質を保証するものでもない。アンジオテンシン脅容体拮抗剤とがんのリスクのように、あとで根拠がないと判明するメタアナリシス(総合分析)に規制コミュニティが振り回されることにもなるのである。われわれは独立した分析も主催者(スポンサー)が行う分析と同様に吟味される必要があるとの主張に同意する。最後に、臨床試験データの再分析は競合する製品のために誤って使用される可能性もある。

・それではどういう方向がいいのか
 必要なのは3方面からのアプローチである。
1) 個人情報保護のための適切なスタンダードの確立
2) 確立したメタアナリシスの質スタンダード、または他の確立したデータ分析の採択
3) データ共有のためのルール作り: 市販後の観察データについては、欧州規模で生データ共有のためのガイダンスが策定された。同様の試みをランダム化比較試験データでも追求する。
 さらに、われわれは主催者(スポンサー)が企業であれ、研究者主導であれ、公共資金供与組織であれ、すべての臨床試験データに同じ情報公開のスタンダードを考えている。同様に第三者による2次データの吟味にも同じスタンダードを適用する必要がある。
 行政と企業主催者(スポンサー)とは日常的に精査し合う関係にあるが、すべての第三者が同様の精査を容認できるだろうか。
 われわれはこの問題についての議論を歓迎する。公衆衛生の最良の利益のために満足できる解決があると確信している。
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 この論考は、プロスメディスン誌がDoshiたちコクラングループによる論考を掲載するにあたり、欧州の医薬品規制に携わる行政官らにコメントを依頼し、同時掲載となったものであろう。
 行政官たちがプロスメディスン誌上で「われわれはこの問題についての議論を歓迎する。公衆衛生の最良の利益のために満足できる解決があると確信している」と表明していることについては評価できなくはない。しかし、最近も欧州医薬品庁は、多発性硬化症治療剤フィンゴリモドによる突然死の詳細なデータの提供を拒否したことで、非難されている(※4)。プロスメディスン誌上の行政官の見解でも、全面的な公開には否定的であるが、行政官たちの言うまさに「公衆衛生の最良の利益のために」もこうした姿勢は改められねばならない。(T)