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欧州医薬品庁が多発性硬化症治療剤フィンゴリモドによる突然死の詳細データ提供を拒否して非難される

2012-07-19

(キーワード:突然死、透明性の欠如、患者の生命の危険、同じ証拠を吟味する)

 フィンゴリモド初回投与後24時間以内に死亡した多発性硬化症のケースをめぐって、EMA(欧州医薬品庁)がプレスクリールへの詳細データの提供を拒否し批難されているとBMJ電子版(2012年2月23日)が伝えている。

 フィンゴリモドはβインターフェロンに反応しない多発性硬化症の再燃例および重症または急速進行例の治療薬として、2011年3月にEMAにより承認された。ノバルティスの製品でフランス商品名はジレニア、日本での販売はイムセラ(田辺三菱)とジレニア(ノバルティス)である。開発時から不整脈の危険が明らかであり初回投与時には6時間の心電図モニターと状態観察が必要とされていた。

以下に関連する記事を紹介する。
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BMJ電子版2012年2月23日(※1)
 2011年12月20日にFDA(米国食品薬品局)がフィンゴリモドを初回投与後24時間以内に死亡した多発性硬化症のケースを報告した。患者はβ遮断薬とカルシウム拮抗薬も服用していた。12月22日、プレスクリルがEMAに対してフィンゴリモドの重篤な副作用を調査し、EPSUR(承認後6カ月以内の欧州定期的安全性最新報告)の最初の事例として報告すべきであると要請したが、EMAがこの問題について公表したのは2012年1月20日になってのことだ。そしてその3日後の1月23日にEMAは、フィンゴリモドの再評価作業を実施中であるため情報提供を拒否するとプレスクリールに通告した。2月7日、プレスクリールは再度情報提供を要求したが、以後反応はなかった。

 これに関して、プレスクリールの主任編集者B.Toussaint氏、ノルディックコクランセンターのP.Gøtzsche教授がBMJに批判意見を寄せている。

 B.Toussaint氏は、EMAは患者と医療専門家が生み出した結果である重大な副作用の情報を、患者と医療専門家に提供すべきであると主張する。患者よりも製薬会社の欺瞞のために便宜を図り経済的な理由だけで副作用の情報をとり扱うことはもう止めて、彼らの第一の使命である患者の健康を守ることを、製薬企業の財政的つながりよりも優先するべきだと批判した。

 また、P.Gøtzscheピーター教授は、情報へのアクセス要求を拒否する正当な理由は何もなく、いくつかのグループが同じ証拠を吟味することは常に良いことなのだと指摘する。EMAの主たる使命は患者を守ることであり製薬会社を擁護することではない。情報提供拒否は全く受け入れられないことだと非難した。

プレスクリール英語版2012年2月20日(※2)
 EMAがこのように透明性を欠如していることは、患者を危険にさらすものだ。市販前評価のデータで不整脈の危険があることはすでに明らかであり、我々は臨床試験の厳密な吟味に基づいて、限定的な使用にとどめるべきであると2011年4月に勧告した。EMAが情報提供拒否の理由にしたフィンゴリモドの再評価作業は、その5日前に始まったばかりのものだ。ピオグリタゾン(膀胱がんの発生頻度が増加)の情報提供の要求に対しても、EMA は拒否する口実として2011年5月に再評価を開始し、欧州委員会はピオグリタゾンの市販承認を続けている。EMAと欧州委員会のDGHC(保健消費者保護総局)のこのような動きは、メディアトールのときと同じである。

参考までに、FDAのDrug Safety Communication(2011/12/20)(※3)では、このケースの死がジレニアによると結論することはできないとしている。患者はβ遮断薬メトプロロールとカルシウム拮抗薬のアムロジピンを、ジレニアを服用後6時間経過後に服用し、その18時間後に死亡した。ジレニアは、2010年9月に米国で承認され、初回服用後の心拍低下あるいは房室伝導ブロックを含む、いくつかの副作用が知られている。クラス1aまたはクラス3の不整脈治療薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、心拍抑制をきたす薬剤)を服用している患者、意識消失、洞不全症候群、2度以上の心ブロック、虚血性心疾患、慢性心不全の既往のある患者は、心疾患やブロックのリスクが増大する。心拍低下は、ジレニア初回服用後に最も起きるが、通常1カ月以内で正常にもどると、添付文書にも記載している。この時点でFDA は、ジレニアは添付文書どおり適切に使用されればこれらのリスクを上回り引き続き有用であると信じていると結論している。

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 FDAがフィンゴリモド初回投与後24時間以内の死亡ケースを報告して以来4ヶ月以上が経過した。各国規制当局の対応や評価は少しずつ違いがあるものの、総じて有用という評価を維持している。ノバルティスの主張は異質であるが、それも含めて十分な検証が必要と思われる。

 スクリップ電子版2012年4月16日(※3)がノバルティスの主張を伝えている。ノバルティスはこのケースを開示したが、死亡はタイサブリ(ナタリズマブ)が原因だと主張している。この患者はJCウィルス抗体陽性であった。患者は、ジレニア治療の前に3年半にわたりアイデック社の多発性硬化症治療薬タイサブリで治療を受けており、PML(進行性多巣性白質脳症)を発症し死亡にいたったのだという。JCウィルス抗体陽性の患者が2年以上タイサブリ治療を受けている場合のリスクが知られている。ジレニアがそのリスクを高めた可能性は除外できないが、これまで36000例に使用され、約2400は2年以上、500例は4年以上使用されているが初めてのケースであり、現時点ではタイサブリがこのPML症例の死亡と最も関連が強いと評価している。

 その後EMAが4月20日にCHMP(医薬品のヒトへの適用のための委員会)のレビュー結果に基づき公表した勧告(※5,6)では、心臓血管および脳血管系疾患の既往および、心拍抑制をきたす薬剤の服用者には投与すべきでないが、ジレニアが必要な場合には、少なくとも一晩中の監視を行うこと、最低でもジレニア初回投与前から心電図モニターを行い、投与後最低でも6時間、心拍が投与6時間後に最低である場合や他の症状がある場合には、さらに少なくとも2時間以上、できれば症状が改善するまで、少なくとも一晩中監視すること、というものだ。そして、このレビューは15例の突然死または原因不明の死亡例のデータをもとに行ったものだとし、なお、死亡原因がジレニアであるかどうかについては結論づけていない。これらの心血管に対する作用は可逆的であり、リスクを最小限にすることができることから多発性硬化症への使用は有用だとしている。

 我が国においては、2011年11月25日に2製品が同時薬価収載され、3月までに2400例あまりの使用例があり、1例の心拍抑制が報告されていたが死亡例はない。厚労省は3月19日に使用上の注意改訂を指示し、心拍抑制は数日間にわたることの、警告および心疾患には慎重投与、心拍抑制効果のある薬剤は併用禁忌として、24時間以上の経過観察を続けるようにとの改訂がされた。

 ジレニアの安全性調査結果を発表した1月20日のEMA情報(※7)では、このケースの他に3例の突然死を含む6例の原因不明の死亡、3例の心臓発作死、1例の心臓調律障害による死亡例が報告されている。4月20日づけのレビュー結果のもととなった原因不明死亡例は15例であり、増えていることになる。可逆的だからリスクを最小化できると果たしていえるのか、安全性に関わる重要な情報の透明性が確保されないままリスクを上回る有用性があると結論づけるのは危険であろう。少なくとも複数の中立的な機関あるいはグループによる検証がなされるよう情報の透明性が確保されるべきである。(N)
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