調査・検討対象

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サイファーステント・タクサスステント (薬物溶出ステント)

1 サイファーステント タクサスステント とは

一般名 シロスムスステント パクリタキセルステント (冠動脈ステント)
商品名 Cypherステント(ジョンソン・エンド・ジョンソン)
TAXUSエクスプレスステント(ボストン・サイエンティフィック・ジャパン)
分類 薬物溶出ステント [ステントに着目すれば医療器具、薬物に着目すれば医薬品(DDS製剤)で境界領域に位置する製品]
使用目的 冠動脈に新規病変を有する虚血性心疾患患者の治療
効能効果 (Cypherステント) 対照血管径2. 5mmから3. 5mmの冠動脈に新規病変(病変長30mm以下)を有する症候性虚血性心疾患患者の治療

狭心症の治療法の一つである経皮的冠動脈形成術は、手足の動脈からカテーテル(細くて柔らかいチューブ)を冠動脈まで送り込み、先端につけた風船バルーンを膨らませ冠動脈を広げる。その際、ステントと呼ばれる金属製の網の目になった小さな筒を入れて血管を内側から補強し、心臓への血流を確保することが多い。金属製のステント(ベアメタルステント)は、留置後1年以内の中期に新生内膜の増殖(血管平滑筋細胞の増殖を含む)による再狭窄が起こりやすいことから、これを減少させる目的で導入されたのが「薬物溶出ステント」である。
金属製のステントの表面に、免疫抑制剤シロリムス(Cypherステント)あるいは抗がん剤パクリタキセル(TAXUSステント)を含むポリマーを上塗りして、薬物を徐々に溶出させるよう工夫し、新生内膜の増殖の抑制を意図している。

2 とりあげた経緯

薬物溶出ステントは、日本では、Cypherステントが2002年8月に医療器具として輸入承認申請され、2004年8月にはじめての薬物溶出ステントとして承認された。2007年3月にTAXUSステントも輸入承認された。
2005年1月に新薬学研究者技術者集団から、Cypherステントの安全性問題、承認上の問題、それらが医療現場にもたらしている混乱などから、本会議で薬物溶出ステントを取り上げてほしいとの要望があり、検討対象とされた。

3 何が問題か

  1. (1) 長期予後などで国際的にも存在意義が問われている
    有効性において薬物溶出ステントが従来の金属製ステントに勝る成績はないのに、長期データで遅発性血栓症が問題となり、存在意義が問われる事態となっている。薬物溶出ステントは、強力な新生内膜・血管平滑筋細胞の増殖抑制効果を有する薬剤を冠動脈内に溶出させるが、必然的に内皮細胞の再生遅延をもたらし、血栓形成につながり、予後不良は薬物溶出性ステントの本質的な問題である。
    スウェーデン医薬品庁は、2万人規模で薬物溶出ステントと従来の金属製ステントの重要な有害事象発生リスクを3年間にわたって追跡し比較検討し、6か月までは薬物溶出ステントが金属製ステントより発症リスクが少ない傾向があったが、6か月以降は逆転して薬物溶出ステントで発症リスクが増加し1000人当たり12.7人分の増加に相当したとするSCAAR研究データに基づき、厚生審議会およびスウェーデン心臓学会とともに「薬物溶出ステントの使用はできるだけ控える」との勧告を、2007年5月4日に発表している
  2. (2) 血栓形成予防のため必要な抗血小板剤として、問題薬チクロピジンが使用された
    血栓形成予防のための抗血小板剤として、海外ではクロピドグレルが用いられるが、日本では未承認のため、重篤な副作用のあるチクロピジン(「塩酸チクロピジン製剤」の項参照)を、害反応リスクの増加するのが明らかな3か月併用に延長して(金属ステントでは2週間併用)Cypherステントを承認した。チクロピジンで重篤な害反応が生じても中止すれば血栓形成のリスクにさらされる。その後日本でもクロピドグレルが承認されたが、Cypherステントと併用する適応はない。
  3. (3) Cypherステントは未承認成分シロリムスを含有しているのに、新規成分含有医薬品として扱われず、国内での臨床試験成績が皆無であるなど、極めて緩い審査のもとで医療器具として承認された。薬物溶出ステントが、医薬品ではなく医療器具とされていることは、臨床現場での情報伝達体制、新規製品管理体制が医薬品中心に整備されている点でも問題を生じた。
  4. (4) TAXUSステントは、Cypherステントの長期予後が国際的に問題となっている最中に、40例の国内臨床成績などで承認された。その際、問題薬チクロピジンの併用はCypherステントの2倍の期間の6か月必要とされた。
  5. (5) 適応外使用が圧倒的に多く、しかも適応外使用での予後が不良である。
  6. (6) 予後評価のための適切な調査が実施されていない。市販後の「全例調査」がなされず、ステント会社から独立したデータベースの解析機関による管理統制がされていない。

4 基本的な行動方針

2007年8月9日、厚生労働省とジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ならびにボストン・サイエンティフィック・ジャパン株式会社に、「薬物溶出ステントの一時臨床使用の停止を求める要望書」を提出した。要望書では、薬物溶出ステントの2製品は、その長期予後、承認の妥当性、適応の設定、併用を要する抗血小板剤に求められる条件、他治療の代替性など、その安全性・有効性が問われる根本的な問題があり、今後の方向について再検討が必要なため、市場での一般臨床使用を一時停止することを要望した。

5 要望書への回答と、その後の対応

要望書への回答はない。

6 今後の課題

薬物溶出ステントについてその後の目立った動きはない。引き続き情報収集に努め、対処していきたい。

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  • 薬害オンブズパースン会議
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2007-08-09
薬物溶出ステントの一般臨床使用の停止を求める要望書提出