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冠動脈ステント療法は、冠動脈の狭くなったところにステント(金属のコイル状の筒)を挿入留置して心筋梗塞の発症を予防する治療法である。従来の金属ステントは、比較的直後に起こる再狭窄や、遅発性血栓の問題もある。そのため抗血栓薬の服用が必要だが、副作用もあることから、局所に効果的に作用を現す目的で、ステント表面に塗った薬物が徐々に放出されるよう設計開発されたのがDESである。サイファーステント(ジョンソン・エンド・ゾョンソン社)は、免疫抑制剤シロリムスが塗り込まれたステントで、2004年3月に輸入承認され5月に発売された。シロリムスは日本では未承認である。薬事法に基づいて新薬としての承認審査を経なければ使用できないはずだが、医療材料としての国内治験すらせずに、海外の臨床試験結果のみで承認された。もう一つの問題は、再狭窄を予防するため、3ヶ月以上チクロピジンを服用する必要があることだ。海外では、チクロピジンの安全性に問題があることからクロピドグレルとの併用で承認されている。ところが日本では、サイファーステントの承認時にはクロピドグレルが未承認のまま、問題薬チクロピジンとの併用という形で承認を急いだのだ。日本心血管カテーテル治療学会は、適応の慎重な選択と、クロピドグレルの早急な承認を求め緊急の声明を出したほどである。
今年3月、ニューイングランド医学雑誌が、DESの長期予後について、5論文を掲載し特集を組んだ。2年から5年間追跡したした結果、長期的にはDESでイベント発症リスクが高まる傾向にあることを問題提起し、各国でDESの有用性を見直す動きが広がっている。これに対し、日本循環器学会で発表されたJ-Cypherレジストリーでの2年間の遅発性血栓累積発生率は低いとし、日本での治療の質は高くDESは有用であると強調された。このような中で今年3月に承認されたもう一つのDESタクサスエクスプレス2ステント(抗がん剤パクリタキセル、ボストン・サイエンティフィック・ジャパン社)は、さらに悪いことにチクロピジンを6か月以上服用しなければならない。これらはしかも異常に高額である。薬事法上の承認手続きを経ていない問題、長期予後の評価の問題、有害薬剤の併用の問題があり一旦、新たな臨床使用を中止し、対応を検討することを求めたい。

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