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公表要件制度廃止

1 公表要件制度廃止問題とは

新薬の承認申請・審査資料について義務づけられていた「原則として主な申請資料データは日本国内の学会誌などに公表する」という要件(公表要件)が、廃止されたことに関する問題。

2 取上げた経緯

この問題については、1999年1月に厚生省(当時)から医薬品関連の規制緩和などの要望に関する方針として示され、これに対し、諸団体から反対の声が上がり始めた矢先の同年3月30日、公表要件制度の廃止が盛り込まれた「規制緩和推進3カ年計画(改訂)」が、閣議決定された。
当会議は、発足後それまで、専ら「個別の薬剤」の問題点を検討し、厚生省、製薬会社等に対する申入れや社会活動にフィードバックすることを活動方針としてきた。
しかし、公表要件制度は、昭和42年にサリドマイド事件等を契機として設けられ、その後、我が国の医薬品の安全性確保のために一定の重要な役割を果たしてきた制度であり、その廃止は、我が国の薬務行政に対する考え方の根幹にかかわる問題である。
そこで、当会議としても、その活動領域を一歩拡げても、この問題に対応した活動をする必要があると考え、前記1月の厚生省の方針発表の直後から活動を開始した。

3 何が問題か

  1. (1) 公表要件制度によって発表されてきた治験論文は、医薬関係者が、医薬品の有効性、安全性などを検証するのために重要な役割を果たしてきた。
    公表要件制度は、医薬品の承認審査システムについて日本が誇れる数少ない制度のひとつであった。(治験論文については、その質に疑問を呈する意見もあるが、質的問題については、むしろ、治験論文に質的な問題があっても承認されてしまう審査体制そのものの問題というべきである。また、本来かかる論文の質を高めることが向かうべき方向である。)
  2. (2) 厚生省が代替手段として提示する新制度(「新医薬品承認審査概要」の公表)は、開示する情報を申請企業の取捨選択に委ねるものであり、質的に、これまでの公表要件に代わり得るものとは解しがたい。むしろ、恣意的な情報隠しをシステム的に可能にしてしまう危険性を強くはらんでいる。
  3. (3) 厚生省は、公表要件廃止の理由の一つとして製薬企業の財産権の保護を上げる。
    しかし、これは不公正な治験データの利用・援用を国際的にどのように保護するかという財産権保護の問題として、公表要件制度とは別個に考えるべき問題である。
    また、仮に知的財産権の保護と公表要件制度廃止との衝突がありうると考えたとしても、「医薬健康政策において公衆の利益が最優先されることを確保する」ことがWHO加盟国の義務(1999年1月26日決議)であるから、公共の利益に製薬企業の利益が優先することがあってはならない。
  4. (4) 多くの患者・被験者が参加する臨床研究から得られた有効性・安全性に関する情報は、公共の資産とも言うべきものである。このような貴重な情報が企業の利益・都合に左右されて公表されたないことがあれば被験者の意思を無視し、裏切ることなる。
  5. (5) 公表要件制度はサリドマイド事件を契機に設けられた制度であるが、法律によってではなく、薬務局長通知(昭和42年9月薬務局長通知「医薬品の製造承認等に関する基本方針について」第4項)によって定められたために、廃止についても充分な論議を経ずに局長通知で行うことが可能であった。
    医薬品の有効性、安全性に関わる情報の公表に関するこのように重要な制度は、本来法律で定められるべきであり、局長通知レベルに委ねられていることがそもそも問題である。

4 基本的な行動指針

  1. (1) 基本的(短期的)には、公表要件制度廃止の撤回を求めること。そのための厚生省に対する申入れ、各団体との連携、ロビー活動などを実施する。
  2. (2) 中・長期的には、承認審査システムのなかで公表要件が果たしてきた役割、今後、新制度や情報公開法等の運用により公開される情報の範囲等を総合的に検証した上で、医薬品に関する情報公開のあるべき姿について、新法(新制度)制定も射程に入れた活動を展開する。

5 活動とその後の状況

  1. (1) 1999年3月30日付で厚生大臣宛に、公表要件制度廃止の方針撤回についての申し入れを行った。
  2. (2) しかし、申入の同日、公表要件制度廃止が盛り込まれた「規制緩和推進3か年計画(改訂)が閣議決定され、同年4月8日には、正式に公表要件制度廃止が厚生省医薬安全局長によって通知された。
  3. (3) 公表要件制度廃止撤回について、関係団体に賛同の署名を求めたところ、同年4月22日段階で51団体の賛同を得たので、右賛同署名を添えて、同日付けで、内閣総理大臣、厚生大臣宛で「規制緩和推進3カ年計画(改訂)」の閣議決定、公表要件制度廃止についての厚生省医薬安全局長通知の撤回を求める声明を発表。
  4. (4) その後、最終的に66団体の賛同署名を得、また、同年5月に開催した緊急学習集会にも多くの市民の参加を得た。
  5. (5) 4月下旬から5月上旬にかけて、衆参両院厚生委員会の各議員に対するロビー活動を実施。その結果、同年6月18日の衆議院厚生委員会において、五島正規、家西悟両議員から、問題点を強く指摘する質問が行われた。
  6. (6) その後、本問題について知的財産権や情報公開法の問題等を踏まえた検証を開始し、併行して、関係各団体、研究者との情報交換、意見交換を続けた。
    そして、同年11月3日のタイアップグループ2周年記念シンポジウムでは、米国「パブリック・シチズン」の弁護士アマンダ・フロスト氏を招き、シンポジウムを開催した(1997年-2000年10月活動報告参照)。
  7. (7) しかし、公表要件制度は復活することなく現在に至っている。
    そして、公表要件の廃止の代替手段と位置づけたインターネットでの「新医薬品承認審査概要」の提供に関しては、公表の遅れが目立つようになっている(公表要件廃止と新医薬品審査情報公開に関する問題)。