調査・検討対象

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ジスロマック(アジスロマイシン水和物)

1 ジスロマック(アジスロマイシン水和物)とは

一般名 アジスロマイシン水和物
商品名 ジスロマック細粒小児用、同カプセル小児用100mg、同錠250mg、同錠600mg。
企業名 ファイザー株式会社
薬効分類 15員環マクロライド系抗生物質
効能・効果 (錠剤600mg)
進行したHIV感染者における播種性マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症の発症抑制及び治療
(その他)
アジスロマイシン感性のブトウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、インフルエンザ菌等による下記感染症:咽喉頭炎、気管支炎、扁桃炎、肺炎等

2 取り上げた経緯

2002年5月、厚生労働省は「医薬品・医療用具安全性情報」第177号を出して、ジスロマックによるスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)等の重症型薬疹発生に注意を喚起し、添付文書改訂の指導をした。この情報に接し、当会議はジスロマックの安全性・有効性を検討した。

3 具体的行動とその結果

2002年10月11日、ジスロマック錠600mgを除くジスロマック3製剤の製造販売中止、承認取消を求める要望書をファイザー製薬と厚生労働省に提出。
これに対し、ファイザー社は、同年10月29日付で、3製剤の製造販売を中止する意向はないと回答。その理由として、同社は以下をあげている:①ジスロマックは肺炎等の呼吸器感染症に第一選択薬として幅広く推奨されている。②医薬品によるSJSは、初期症状の段階で原因医薬品の投与を中止するのが最良の治療法であるが、投与を中止しても進行してしまう場合があり、早期に適切な治療を行うことが必要。③ジスロマック投与例で報告されたSJSは、死亡や後遺症を残した例はなく、4週間以内に回復している。④弊社では、SJSの早期発見、報告や、添付文書改訂、患者への服薬指導箋等の提供など、安全対策に努めている。
この回答に対し、2003年5月31日付で再度の質問書を提出。要旨以下のような指摘をした:①本剤は重症型薬疹のリスクが高いので、本剤でなければ治療できないような疾患に限り使用すべき。ジスロマック錠600mgを除くジスロマック3製剤の適応疾患には、他剤による代替が可能。②急性気管支炎への有効性は対照群(ビタミンC投与)との間で有意差がないとのデータ[Evans,A.T. et al:Lancet,2002 ,359:1648-54]が出されており、少なくとも急性気管支炎は適応から外すべき。③アジスロマイシン水和物は組織内半減期が長く、投与を中止しても薬物濃度が維持されるので、SJSの「最良の治療法」である投与中止をはかっても、症状が進行してしまう恐れがある。④最近の日本薬学会での報告によれば、SJSについて、眼をはじめとして、種々の重い後遺症が残る人が多いことが指摘されている。⑤SJS早期発見対策として患者に提供しているという「服薬指導箋」の記載は、SJSの初期症状や予後が致命的になりうることの記載がなく、不十分。
その上で、[質問1]2000年度以降のジスロマック投与によるSJS・TENの報告数と、その後遺症の実態、及び[質問2]SJSの早期発見のため取った施策、を明らかにするよう求めた。
これに対するファイザー社の回答(同年6月13日付。以下「再回答」)では、[質問1]については「報告件数は、SJSは23例で、眼や皮膚の後遺症が報告された症例はない。TENは1例で、投与を中止・治療して9日後に軽快し、後遺症等はなかった」、[質問2]については、2002年6月以降、医療機関から患者に渡す「案内箋」の注意書きを改定し、SJSの初期症状を記載して、そうした症状が起きた時は医師等に相談するように記している、としている。また、再回答では、「急性気管支炎への有効性は対照群(ビタミンC投与)との間で有意差がないとのデータが出されている」ことについて、「多くがウイルス感染であったことが推測される、咳を主症状とする急性気管支炎には、抗菌薬であるアジスロマイシンの効果は期待できない。この研究には鎮咳剤、気管支拡張剤の効果を評価する項目があり、抗菌剤の効果を評価するには不適切。この報告から『アジスロマイシンがビタミンCと同程度』と評価するのは早計で、論文中にも『我々の結果はアジスロマイシンが急性気管支炎に全く効果がないということを証明しているのではない』と述べている」として反論している。

4 製薬会社とのやりとりから判明した問題点と今後解明すべき課題

  1. (1) ジスロマック3製剤の必要不可欠性・有効性について
    ファイザー社はジスロマックの存在意義を強調するが、「再回答」に記されているように、本剤は、「多くがウイルス感染であったことが推測される、咳を主症状とする急性気管支炎には、抗菌薬であるアジスロマイシンの効果は期待できない」ので、少なくとも、そうした場合には処方すべきではない。「再回答」で「(Evansらの論文では)『我々の結果はアジスロマイシンが急性気管支炎に全く効果がないということを証明しているのではない』と述べている」とされている部分は、原文では"benefit"(利点・利益)という用語が用いられており、「効果」(efficacy)と訳すべきではない。同論文では、別の箇所に、「我々は、アジスロマイシンは急性気管支炎の患者には効果がなく、処方すべきではないと結論した。」と記されている。
    そして、次のような重症型薬疹の害作用のことを考えると、我々が得た「他剤代替可能な製剤は製造・販売を中止すべき」との結論は誤っていないと考えられる。
  2. (2) 重症型薬疹という有害作用問題について
    当会議が「他剤代替可能な製剤は製造・販売を中止すべき」と要望した理由の中心点は、「組織内半減期が長く、投与を中止しても薬物濃度が維持されるので、投与中止をはかっても、重症型薬疹の症状が進行してしまう恐れがあり、場合によっては、死亡する危険すらある」ということである。ファイザー社の再回答では、ジスロマック投与後のSJS症例は23例、TENは1例で、いずれも後遺症を残すことなく回復したかのように記されているが、前記の日本薬学会報告からすると疑問が残る。この問題の発端になった「医薬品・医療用具安全性情報」第177号では、重症型薬疹の他、アナフィラキシーショックが25例報告されており、うち1例は「本剤との関係を完全に否定できない」死亡例が含まれている。こうしたことを考えると、ジスロマック投与後の重症型薬疹やショック等の有害作用の発生実態については、更に詳細な調査研究が必要である。
    なお、「長期間オーストラリアの臨床医の抗生物質処方のための座右の書になってきた」という、『抗生物質治療ガイドライン』("Therapeutics Guidelines Antibiotics Version11"、邦訳:医薬品・治療研究会/医薬ビジランス研究所、医薬ビジランスセンター、2002年9月)にも、「アジスロマイシンの半減期が極めて長いことは利点であるが重篤な害反応(スティーブンスジョンソン症候群など)の場合には著しい欠点となる。したがって、アジスロマイシンは他に薬剤が無効かあるいは極めてコンプライアンスが不良な例に厳しく限定すべきである。」(43-44頁)と指摘されている。
  3. (3) 有害性情報の伝え方について
    患者に提供されるべき情報としては、「初期症状」だけでなく、「予後」についても必要である。すなわち、重症型薬疹は、場合によっては生命にもかかわる重篤な疾患であり、その初期の適切な対処が極めて重要であることについても、患者に情報を伝えるべきである。そうした記載があれば、患者は「初期症状」を重視することになるからである。こうした重要情報の伝え方についても、今後早急に検討する必要がある。