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未承認薬アクセス問題

1 未承認薬アクセス問題とは

医薬品開発には長い年月が必要で、命を脅かす疾患などの臨床試験に参加できない患者に未承認薬へのアクセスを例外的に可能とする公的制度はコンパッショネートユース(CU)制度と呼ばれる。日本への導入が遅れていたが、「日本版CU制度」として2016年1月「拡大治験」(別名:「人道的見地から実施される治験」)が創設された。
2010年4月に厚生労働省の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政の在り方検討委員会」(薬害肝炎検証委員会)は、CUなどの人道的な未承認薬の例外的使用手続きの構築を提言した。この課題は「日本版CU制度」として具体化への検討が続けられてきた。この程実施中の治験に参加できない患者に対し治験の組み入れ基準を緩和し未承認薬アクセスを可能とする形で、法律の改正はせず、GCP省令を拡大治験に限定した緩和措置を講じることで改正し、運用を開始した。
新たな仕組みは適応外薬も対象とし、治験の枠組みで実施することに特徴がある。国内開発の最終段階にある新薬について治験の受け入れ基準を安全性面で許容できる範囲で緩和し、治験を妨げないとしている。創設を機に実施中の治験情報を公開する。健康被害時は治験として可能な範囲で補償措置を講じる。患者負担については治験にかかる費用は原則として治験実施者が負担するものであるが、拡大治験では患者に応分の負担を求めることも認めるとしている。
2016年7月には、医療機器と再生医療等製品も拡大治験の対象になった。
2016年9月末時点の厚生労働省拡大治験情報公開では、医薬品が3件(抗凝固剤の中和剤1件と抗がん剤2件)、医療機器・再生医療等製品は0件となっている。
一方、日本でのさらに広範囲の未承認薬アクセスに関しては、もうひとつ「混合診療」絡みの動きが続いている。混合診療とは、保険診療と保険外診療(自由診療)を併用することをいう。これを認めると、患者負担の不当な拡大や科学的根拠のない医療を助長するおそれがあることなどから、原則禁止とされているが、例外的に併用を認める「保険外併用療養」制度がある。がんなど命を脅かす重篤な疾患の患者が未承認使用を希望する場合もこれに含め一部で認めてきた。政府の規制改革会議は、「混合診療」と「未承認薬アクセス」問題を終始関連付けており、2004年12月の規制改革相と厚生労働相との「『混合診療』」問題に係る基本的合意」の第1項には「国内未承認薬の使用について」が挙げられている。
2014年3月、規制改革会議は、従来の保険外併用療養では不十分として「患者選択療養」制度を提案した。これは患者と医師が同意すれば事前審査などなしで未承認薬使用を患者負担で可能とするもので、混合診療の全面解禁につながるものであった。これに対しては医師会、病院団体ばかりでなく患者団体が反対を表明した。そのため事前審査を行うなどの譲歩がなされ、名前を変えて再提案されたのが「患者申出療養」制度である。2014年6月創設が閣議決定され、2015年5月の健康保険法改正で保険外併用療養に評価療養、選定療養と並ぶ新たなカテゴリーとして組み込まれた。厚生労働省は「日本版CU制度」(拡大治験)の範囲に含まれない未承認薬アクセスが「患者申出療養」の対象との整理を行っており、臨床研究の形がとられる。
2016年4月に制度がスタートした後、申請がない状態が続いたが2016年9月患者申出療養評価会議で東大病院が申請した胃がん患者での初の適用が条件付きで了承された。10月中旬開始で、研究期間は1年、登録症例数は100例を予定している。

2 取り上げた経緯

当会議が未承認薬アクセスの問題に取り組むようになったきっかけは、過去に重大な薬害を起こしたサリドマイドが、2001年度に多発性骨髄腫などの治療剤として年間15万錠を超える量が「個人輸入」され、その安全管理が問題となったことである。
2014年3月、規制改革会議が混合診療の全面解禁にもつながる「患者選択療養」制度を提案、未承認薬アクセス問題が緊迫化し、当会議は「混合診療」問題を未承認薬問題と合わせて取り組むことになった。「患者選択療養」は批判のなかで「患者申出療養」と名を替え、中央社会保険医療協議会での具体化検討課題(中医協マター)となった。厚生労働省は、薬害肝炎検証委員会の宿題でもある「日本型CU」との関係を整理するなかで、後者を拡大治験として薬食審薬事分科会に具体化を提案、了解を得る道を選んだ。

3 何が問題か

  1. (1) 日本版CU制度(拡大治験)
    安全管理など問題が山積みの「個人輸入」に長い間頼らねばならなかった日本にCU制度が実現した意義は患者にとって大きい。
    しかし、次の問題点は指摘されねばならない。
    1. 法律に基づいたものでない。
      治験の枠内で実施するので法改正は必要でないとされている。法律に根拠なく医薬品承認制度の例外を許容するのは一種の脱法行為である。CU制度の導入には医薬品・医療機器等法の改正ないし新規の立法措置が本来不可欠である。
    2. 制度の運用ルールが法令ともならず通達で済まされている。
      厚生労働省は、日本版CU制度の導入に際して、GCP省令を改正し、拡大治験(人道的見地から実施される治験)を定義に追加したが、制度の対象範囲、適用要件などの具体的な運用ルールは通達で済まされた。
    3. CU(患者アクセス)は「治験」ではない
      法律上、「治験」は、承認申請資料として提出すべき資料のうち臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験をいう。人道的な観点から例外的に未承認薬へのアクセスを認めるCUとは本来の目的が異なる。「人道的見地から実施される治験」の言葉自体大きな矛盾を示している。
    なお、患者負担の問題では今後企業負担・患者負担がどう推移するか注視したい。
  2. (2) 患者申出療養
    2015年9月30日、厚生労働省が中医協総会に了承を求めた患者申出療養の制度設計の提案は、「患者選択療養」が提案されて以来患者団体などから示された批判的な意見や中医協委員などの努力を反映して、「はじめに」に「(患者申出療養は)、国において安全性・有効性等を確認すること、保険収載に向けた実施計画の作成を臨床研究中核病院に求め、国において確認すること、及び実施状況等の報告を臨床研究中核病院に求めることとした上で、保険外併用療養費制度の中に位置付けるものであるため、いわゆる『混合診療』を無制限に解禁するものではなく、国民皆保険の堅持を前提とするものである」と述べられているように、かなり改善した内容となっている。
    しかし、とりわけ次の3点を問題点として挙げておきたい。
    1. 「経済成長」・「混合診療」絡みで提起された側面の強い制度で、患者の未承認薬アクセスという医療・保健上の問題と調和するか常に不安が存在する。
      患者会が安全性面や保険制度への影響を懸念しているという声は聞こえてきても、「患者申出」の原点となる患者の声はあまり伝わってこない。
    2. ◆〔ぞ鞠薬の全額患者負担と価格決定の問題が重要である。
      患者申出療養は基本的に臨床研究として実施され、治験として実施される人道的治験と異なり、未承認薬の費用は有料で、保険外併用療養費制度での規定で全額患者負担となるであろう。
      国立がん研究センターは2015年4月、患者申出療養の対象となる抗がん剤が1月末時点で42剤に上るとの集計結果を発表した。血液がん、悪性黒色腫、前立腺がんの治療薬が多く、これらの大半は1か月当たり100万円以上の薬剤費が必要となり、「患者申出療養が導入されても、高額な薬剤費を負担できる一部の富裕層しか恩恵を受けられない可能性がある」と懸念を表明している。これはこの制度の根本的な問題点である。
      価格の決定方法についても2015年9月の厚生労働省の提案資料では明確でない。
    3.  医薬品規制庁の関与が極めて重要である。
      未承認薬へのアクセス制度は、(a)患者のアクセスの保証、(b)安全確保、(c)販売承認に必要なエビデンスを得る臨床試験の実施を妨げない、の相反する3要素の過不足のないバランスが決定的に重要である。このバランスをとれるのは医薬品規制庁しかなく、その関与が肝要である。特に患者申出療養では、今後も「成長戦略の目玉とする」「岩盤規制を撤廃する」などの規制緩和の圧力が予想され、そのことが重要となるだろう。
    4. 患者申出療養は、初めての適用が2016年10月に開始される予定である。

4 具体的行動

2015年4月13日、ホームページ上に「患者申出療養に関する見解」を公表した。
2015年11月11日、厚生労働省に対し、「『医薬品の臨床試験の実施の基準 に関する省令』一部改正の骨子(案)に対する意見」(パブリックコメント)を提出した。

5 今後の課題

日本版CU制度、患者申出療養ともに、今年に動き出したばかりなので具体的な進展を注視したい。基本的には、未承認薬のアクセス制度が必要とする患者に未承認薬を届ける一方で、臨床試験を妨げたり、安全性問題を引き起こすなどの弊害がもたらされないよう、監視していきたい。