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 コンパッショネートユース(CU)制度は、命を脅かす疾患などの患者に、未承認薬へのアクセスを例外的に可能とする公的制度である。患者のアクセス保証、安全確保、臨床試験の進行を妨げないという相反する三要素の適切なバランスがかなめとなる。「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」による制度構築の提言を受け、2011年3〜12月の厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会(検討部会)で検討されたが、さらに丁寧な論議が必要とされた。

 CUと紛らわしいものにEAP(拡大アクセスプログラム)がある。EAPは、製薬企業が独自の判断で開発中の医薬品を臨床試験以外の患者に供給するもので、公的制度であるCUとは異なる。先にあげた相対立する三要素の過不足のないバランスを保つことができるのは国(厚生労働省)しかなく、CUが国の制度である意義はそこにある。

 医薬品は、承認され世に出るまでに、基礎試験・臨床試験で安全性・有効性・品質を確認する、開発段階といわれる長い期間が必ず存在する。承認を待てない代替治療のない患者が、有望な新薬に可能な限り安全にアクセスできる制度は、社会的に不可欠な基本的制度である。

 患者に早く新薬を届けるためとして「承認の迅速化」が声高に言われている。しかし「迅速な承認」と「安全確保」とは、イレッサの例が示すように相反している。販売承認は慎重に行い、それまで待てない条件下にある患者には、CUのもとで例外的にアクセスを認めるのが合理的である。

 患者にとって未承認薬に特化した制度があることは非常に分かりやすい。生死にもかかわることで、制度やその中で発信される情報が分かりやすいことは安心につながり、意義が大きい。

 CUは欧米や韓国などで制度化されているが、日本に導入し制度設計するにあたり、重要と考えることを、検討部会での論議やまとめも踏まえながら以下に記したい。

 検討部会で事務局が提案しているCUは、欧米では承認され国内で治験が進んでいる未承認薬が対象である。患者の立場からは輸入薬が対象になっていないなどの不満がある。しかし、CUがこれまで日本になかった制度の導入であること、薬害などの経験から未承認薬の安全性を心配する人が多いことなどを考慮すれば、国内でも治験が進んでいるものをまず対象に制度が出発することは、適切とも考えている。

 検討部会では、患者の自己責任を過度に強調する動きもみられた。CUは安全性、有効性の確認が済んでいない未承認薬を対象とするだけに、国(厚労省)、製薬企業、医療機関がそれぞれ応分のリスクや負担を受け入れ、患者のために最善を尽くし協力しあう制度であることを忘れてはならない。

 製薬企業から、治験外の条件が悪い患者に使用され生じた副作用が承認を阻害しないかとの懸念が示されているが、治験での副作用とは区別され取り扱われる。同時に重大な有害事象についてはすみやかな伝達をはじめ、慎重かつ適切な取り扱いが必要なこともいうまでもない。

 患者の自己負担軽減の問題も重要である。有償とする場合は米国同様に規制庁が価格をチェックするとともに、治験薬と同じく保険外併用療養の対象とするのが適当である。被害補償問題では、日本のエイズ治療薬研究班で取り組まれ、スイスやスペインでは義務付けられている損害賠償責任保険への加入が実際的と考える。

 ドラッグラグが少なくなっても「未承認薬」の問題は解決しない。日本版CU制度が一日も早く実現することを願っている。

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