調査・検討対象

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エリスロポエチン製剤

1 エリスロポエチン製剤とは

  1. (1) 慢性腎疾患では腎臓のエリスロポエチンの合成能が低下し貧血になると考えられている。米国アムジェン社は、1989年、遺伝子組み替え型の人工エリスロポエチン(以下エポ製剤)、エポエチンαを腎性貧血の治療薬として認可を受けた。2001年にはエポエチンαのアミノ酸残基を一部変えて体内貯留時間がおよそ3倍の持続型製剤ダルベポエチンαの認可を受けた。初期の観察的研究で、慢性腎疾患患者の輸血の必要性が減った事、QOLが改善したことから製剤の有益性が大きいとの見込みが広くゆき渡ってしまい、その結果、エポ製剤の臨床試験でのプラセボ使用は非倫理的であるとの風潮ができ、現在に至っている。日本での適応は腎性貧血、手術の貯血、未熟児貧血であるが、米国ではこれに加えて、がんの化学療法による貧血、HIVによる貧血がある。赤血球の成長には時間がかかるため、臨床上有意な赤血球の増加は通常は2−6週間である。
    日本透析医学会の調査報告(2006年12月)によれば、慢性透析患者の83.7%がエポ製剤を使用している。また慢性透析患者数は2009年末で29万人で、毎年約1万人程度増加している。
  2. (2) 製剤の種類(商品名:承認年:企業名)
    • エポエチンα(エスポー注射液:1996年:協和発酵キリン)
    • エポエチンβ(エポジン注: 2001年:中外製薬)
    • ダルベポエチンα(ネスプ静注用:2007年、ネスプ注射液:2010年:協和発酵キリン)

2 取り上げた経緯

NEJM誌2010年1月21日号の記事「エポ製剤は再評価の時」において、著者であるFDA医薬品評価センターのE.F.Unger等は、主要な大型臨床試験3つをとりあげ、「エポ製剤を使用する場合のヘモグロビン(Hb)濃度レベルの目標値をより高く設定すれば症状を改善するとの仮定のもとに臨床試験が行われてきたが、すべての結果は逆に見える」とし、NHS試験(1998年)、CHOIR試験(2006年)、TREAT試験(2009年)で明らかになったのは、目標値14g/dl、13.5g/dl、13g/dlが危険であることだと指摘している(当会議HP「注目情報」に2010年3月11日付で掲載)。この情報に接し、検討を開始した。

  1. (1) 日本の目標Hb濃度の設定の状況と対応
    1. ① 添付文書(2010年6月1日改訂版)
      エポエチンα、β:「貧血改善の目標値はHb濃度で、10g/dl前後とする」
      ダルベポエチンα:「貧血改善の目標値はHb濃度で、11g/dlとする」
      減薬、休薬の規準はいずれの製剤でも、「12g/dlを目安とする」としている。
    2. ② 日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療ガイドライン(2008年9月)」
      透析患者は目標値10−11g/dl(12g/dlを超える場合を減薬、休薬規準とする)、そのうち若年者は11−12g/dl(13g/dlを超える場合を減薬、休薬規準とする)、透析前患者は11g/dl以上(13g/dlを超える場合を減薬、休薬規準とする)とした。2004年版では12g/dlだった減薬、休薬規準を13g/dlに変更した背景として、ダルベポエチンの日本の臨床試験で高い目標値が安全であったことを挙げている。
    3. ③ 日本腎臓病学会「エビデンスに基づくCDK診療ガイドライン2009」
      目標値は正常値よりやや低い11.0g/dl以上、減薬、休薬規準は13.0g/dl超とした。
  2. (2) 米国における状況と対応
    1. ① 添付文書情報には、2010年1月11日に『警告』欄にTREAT試験の結果が追加され、「臨床試験において、目標Hb値を13g/dl およびそれ以上に設定して投与した場合、死亡、重篤な心血管イベント、脳梗塞のリスクが増加した」が記載された。「10-12 g/dlを維持するように個人にあわせた投与量にすること(2007年3月に記載)」。
    2. ② FDAは2010年2月16日、「エポ製剤はREMSのもとに使用。REMSの一部として、すべての患者にMedication Guideをわたすこと」とした。

3 何が問題か

  1. (1)目標Hb値のダブルスタンダード
    エポ製剤の副作用は、濃度の上昇時ばかりでなく下降時にも脳梗塞や心血管イベントが起こる事が指摘されており、目標Hb値は副作用と直結していると思われる。添付文書では減薬、休薬規準が12g/dlとされているが、日本透析医学会と日本腎臓病学会のガイドラインではいずれも13g/dlとされている。大型臨床試験(TREAT試験等)の結果を考慮すれば、ガイドラインは12g/dlにもどすべきではないか。持続型のダルベポエチンでは、13g/dlを超えたため休薬し低下させるのに8週間以上回復しなかった例も報告されている(審査報告書)。
  2. (2) Hb値の設定をPMDAが保留
    当会議では、4月、5月、6月の3回の会議で日本の状況を検討した。その後8月に、初回から投与可能に適応拡大された“ダルベポエチン注射”製剤(ネスプ注射液)が発売されている。審査報告書では、目標Hb濃度及び休薬規準について、TREAT試験等を引用し、「今後、目標Hb濃度の考え方が変遷する可能性がある」として明記することをせず、「ガイドライン等、最新情報を参考にすること」とした。PMDAは企業に、Hb濃度と心血管イベントの関連性を積極的に検討するよう指示すべきではないか。
  3. (3) 大型臨床試験(TREAT試験)の取り扱い
    4038人が参加したこの試験は、プラセボ群(9g/dl以下になったらダルベポエチンを投与)と目標値13g/dl群の2群間で比較した(29ヶ月)。結果は、二つの主要評価項目(死亡or心血管イベント、死亡or末期腎症)でリスクを減らすことができず、脳梗塞のリスクは有意に増加した。この結果について、日本の添付文書では「その他の注意」に記載されているが、米国では「警告」に記載し情報を患者も共有できるようにしている。
  4. (4) 利益相反
    ガイドライン作成者の中には、ダルベポエチン臨床試験担当者の名前も見られた。
  5. (5) 毒性(発ガン性)の問題
    エリスロポエチンは細胞増殖作用をもつサイトカインであり、米国ではがん患者で生存期間の短縮、腫瘍悪化が問題になっている。

4 基本的な行動方針

日本透析医学会の報告よるエポ製剤の使用状況をみると(2006年)、エポ製剤の週当たり高用量使用が前年度に比し減少している。薬剤費が包括支払い制度に入ったことも影響しエポ製剤の投与が比較的慎重に行われているものと推測した。上記に指摘した問題を、持続型製剤を主にして情報収集していくこととした。

5 具体的行動

  1. (1) 2009年までの検討結果に基づき、当会議は、前項記載のとおりエポ製剤の動向を注視していたところ、2009年11月19日、中外製薬株式会社が、エポジン注シリンジの効能効果に、従来承認されていた効能効果である透析施行中の腎性貧血等に加え、「治癒切除不能な固形がん患者におけるがん化学療法に伴う貧血」を追加申請するという動きがあった。
    これに対し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、2011年5月30日、「生命予後悪化及び腫瘍増殖促進というリスクを回避することが可能となる本薬の適切な安全管理の方策は不明確であり、現時点では、本薬のベネフィットがリスクを上回るとは判断できない。」として、承認困難との審査結果を出した。
    これを踏まえて、厚生労働省医薬食品局審査管理課は、同年6月23日、上記追加承認申請に関してパブリックコメントの募集を開始した。
  2. (2) パブコメ募集に対し、当会議は、2011年7月26日、「エポジン注シリンジの効能効果追加承認の可否に関する意見書」を提出した。
    意見書では、当会議の意見として、以下の理由から、追加申請にかかる「治癒切除不能な固形がん患者におけるがん化学療法に伴う貧血」という効能効果に関しては、本薬の有効性と安全性は未だ確認されていないことから承認を与えるべきではないとした。
    1. 本薬の使用は患者に看過できない重大な危険性をもたらすこと
      本薬は化学療法施行中のがん患者に対する支持療法であるから、患者の生命予後を悪化させ、或いは腫瘍増殖を促進するものであってはならない。
      しかし、本薬には生命予後の悪化をもたらす原因と考えられている血栓形成促進及び腫瘍増殖促進という患者にとって極めて大きなリスクがあるとするエビデンスが存在し、かつ、現時点において同リスクを適切に回避するための方法は確立していない。
    2. 本薬の有効性も明確とはいえないこと
      本薬によるQOLの改善向上についても、これを支持する明確なエビデンスは得られていない。また、本薬の有効性(重度貧血及び赤血球輸血回避効果)を評価する指標として理論輸血率を用いていること、及び同指標における基準値が一般的基準より高値に設定されていることから、有効性に関する評価にも相当程度の疑問が残る。
    3. 確立した他の治療法の存在
      化学療法を施行しているがん患者の貧血症状については、現在、赤血球輸血療法による治療法が確立している。同治療法には、輸血副作用(溶血、急性肺障害等)やウイルス感染(肝炎・HIV等)などのリスクがあるが、これらリスクは近年相当程度軽減されている。

6 行動の結果と今後の課題

2011年9月26日、薬事・食品衛生審議会薬事分科会は、パブリックコメントも踏まえて、「承認することは適切でない」との結論をまとめた。これで医薬品医療機器総合機構(PMDA)、第二部会、分科会のすべてで同様の結論が出たことになる。今後の厚労省の対応に注目する必要がある。

トピックス

  • 薬害オンブズパースン会議
  • タイアップグループ
2011-07-26
「エポジン注シリンジの効能効果追加承認の可否に関する意見書」(パブリックコメント)提出