注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

新薬審査費用の製薬企業負担がFDAを安全性軽視の体質へ

2005-04-28

新薬審査費用の製薬企業負担がFDAを安全性軽視の体質へ
 (キーワード: FDA、市販後安全性監視、ユーザー・フィー法、新薬審査費用の製薬企業負担承認の迅速化、安全性軽視、安全性監視部局の独立性)

 COX-2剤や抗うつ剤などの有害副作用問題で、国民の健康と生命の守り手として機能しているのかが問われている米国FDA(米国食品医薬品局)ですが、ニューイングランド・ジャーナル・メディスン誌2005年3月17日号(352, 1063-1066)が「何がFDAを患わせているか?」の論説を掲載しています。そこでは、新薬審査費用を製薬企業が負担するユーザー・フィー法のもとで、承認の迅速化が優先され、安全性が軽視される実情が鋭く指摘されています。以下はその概略です。

   昨年11月、FDAの科学者でありホイッスルブロウアー(笛を吹く人=警
   告する人)であるディビッド・グラハム氏が、上院の財政委員会で、
   FDAは危険な処方せん医薬品から一般市民を守ることができなくなっ
   ていると証言した。

   グラハム氏の指摘したロフェコキシブ(バイオックス)が心筋梗塞を
   増加させる事例と、FDAが抗うつ剤の青少年への投与で自殺行動のリ
   スクが増大することを医師や患者に警告するのが遅れた事例とは、
   FDAが、医薬品の利益が危険性を上回ることを確認するという、その
   基本的な使命を満たす能力を有しているのかという疑問を浮上させた。
   FDAは、議会メンバー、消費者運動家、医療や公衆衛生の専門家から、
   集中砲火をあびせられている。とりわけ、市販後の安全性を監視する
   より良い方法が必要な指摘については、広範な一致がある。

   しかし、承認された医薬品へのより良い監視の必要性は、FDAが患っ
   ている病気のひとつに過ぎない。他には、FDAには強力で独立性をも
   った統率力が欠けており、議論が抑制され、医薬品について科学的に
   関心を有する事項をFDAの雇用者が発言することを止めさせる組織風
   土の醸成に寄与してきたことがある。

   そうした統率力の欠如は、新たな医薬品候補物質を速やかに承認させ
   ようという圧力と行政の最近の規制緩和とに結びついて、臆病で骨抜
   きされたFDAを生み出してきたのである。

   ジョージ・ブッシュ大統領が在任している期間に、FDAは永続的な定ま
   った指導者がいない状況下にある。医薬品安全局(The Office of Drug
   Safety)は、その医薬品が承認される以前には、安全かどうかを決定す
   る役割を有していない。それは、CDER(シーダー、医薬品評価研究セ
   ンター)の中に作られた審査チームの仕事である。

   各チームは、プロジェクト・マネジャーに率いられ、医系審査官(臨
   床的に訓練された医師)、化学者、薬理学者などがそのメンバーにな
   っている。審査チームは、企業の科学者たちとその医薬品の承認に結び
   つく臨床試験のデザインについて議論する。また、その医薬品の危険
   性と有用性との比率が受け入れられるものかどうかを決めるのに必要
   なデータの量を決定する。一度医薬品が承認されると、FDAは、有効
   性の確認や適応追加の際に行う試験で安全性についても測定するよう
   製薬企業に頼むことはできても、製薬企業に安全性試験の追加を要求
   する法的な権限がない。

   1992年に、議会は処方せん医薬品ユーザー・フィー法(審査費用の申
   請企業負担)を通した。これは、申請された新薬や新たな生物学的製
   剤の審査がゆっくりとしたペースでしか行われないという、製薬企業
   や医療コミュニティの苦情に応えたものである。

   ユーザー・フィー法のもとで、製薬企業は当局に審査費用を払い始め
   た。この金は、審査の迅速化のために審査人員を増やす雇用などに用
   いられた。これらの費用負担はFDAが審査の時間表を厳密に守ることを
   条件としていた。最近まで、この金は他の業務には用いられなかった
   (2002年のユーザー・フィー法の再権限付与で、この基金の一部をFDA
   の医薬品安全性プログラムに用いることが許された)。

   会計検査院(GAO)が2002年9月に出版した報告書によれば、1993年から
   2002年の間に、ユーザー・フィーは審査人員を77%増加させた。製薬企
   業からのユーザー・フィーは、今やFDAの審査費用の半分以上を賄って
   いる。

   そして、新薬の審査期間は劇的に短縮された。既存の医薬品を上回る
   治療利益を提供すると期待され、「優先審査」の扱いを受けた医薬品
   では、審査機関の中央値が1993年には14.9%であったのが、2003年には
   6.7%に短縮された。同じ期間に「標準審査」は、審査機関の中央値が
   27.2%から23.1%に短縮された。

   FDAのウッドコック副局長はこの結果を高く評価したが、批判者は製薬
   企業が顧客としてみられ、科学的な論議が妨げられる雰囲気が強めら
   れることで、医薬品の安全性が公正に評価されなくなったと信じてい
   る。

   会計検査院の報告書は、ユーザー・フィー法が、医薬品の市販後の安
   全性監視を含む他の活動からの基金のシフトを余儀なくさせ、審査チ
   ームの科学者や医系審査官の仕事量や、退職による高い入れ替わり率
   を増加させ、訓練期間を減じさせたと、結論した。

   保健福祉省の査察総監室が2002年に行った医薬品評価研究センター(
   CDER)の科学者たちについての調査によれば、回答者の18%が、安全性、
   有効性、品質について彼らが保留したいにもかかわらず、早く承認せ
   よ、承認を推奨せよと強いられていると答えている。優先審査の対象
   となった医薬品については、回答者の58%が「科学に基づく深められた
   審査を行うための」十分な時間が与えられていないと語った。

   CDERの医薬品審査チームで13年間仕事をした後、1998年に退職した薬
   理学者であるエリザベス・バーベヘン氏は、「われわれは時計の上に
   いた」「われわれには審査を期限内に終らせる時間しか与えられてい
   なかった。そのことは非常に不満なことであった」と語った。

   ユーザー・フィー法が効力を発揮してから後、自分が審査を担当して
   いる医薬品について製薬企業の科学者と直接会うことは許されず、管
   理者を通じ間接的に連絡することしか許されなかったと、バーベヘン
   氏は語った。

   15年間FDAで働いた他の科学者は、インタビューで語っている。「ユ
   ーザー・フィー法は、当局管理者が重点を置く優先順位に著しい変化(
   sea change)をもたらした。私がチームに参加したときは、安全性の評
   価が何よりも重要であった。今は、重要なのは承認が得られるように
   することだ」。

   バンデルビルト医科大学の薬理学教授で、FDAの諮問委員会委員を1990
   年代の初頭以来務めたアラステァー・ウッド氏は、最近当局の医系審
   査官や科学者が話したがらないのに遭遇した。「確かに恐れの文化風
   土が存在している」と、氏は語った。「彼らは批判的な見解をもってい
   ると見なされたくないからだ」。

   審査を早めることに加えて、近年FDAの審査チームは多くの場合、不十
   分な科学的証拠に基づいて決定を行っていると、ハーバード医科大学
   の医学教授で、「パワフル・メディシン」(2004)の著者でもある、ジ
   ェリー・アボーン氏は、処方せん医薬品について語った。

   アボーン氏はインタビューで、製薬企業は、その医薬品が長期間にわ
   たって服用されるものであっても、ほんの数か月しか投与しない基幹
   試験データしか申請時に提出しなかったり、販売後に投与対象となる
   患者母集団を代表しない患者を集めて投与することを容認されること
   がしばしばあると語った。FDAでは、抗がん剤での腫瘍縮小やスタチン
   剤での低密度リポ蛋白コレステロールの低下のような、代替マーカー
   に対する効果でもって医薬品を承認する「迅速承認」が増えて来てい
   る。

   連邦の規則では、「迅速承認」された医薬品に、市販後にもっとしっ
   かりとしたアウトカム(結果をみる指標)でもって試験することを求め
   ている。しかし、製薬企業はしばしばそうしない。そしてFDAは、そう
   いう製薬企業の落ち度に製品の回収でもって対処するようなことを決
   してしない。製薬企業が実施を約束した1300以上の市販後試験で、65%
   はまだ始まってもいないのだ。

   承認の迅速化は、市場から回収される医薬品の増加をもたらしている。
   2002年の会計検査院の報告では、危険性が原因で市場から撤去された
   医薬品の増加を調査員が示している。1997年から2000年の期間で、回
   収された製品の割合は5.34%に上った。一方、1989年から1992年(ユー
   ザー・フィー法の前)では1.96%、1993年から1996年(ユーザー・フィー
   法施行の直後)では1.56%であった。

   FDAの中で、事項が不適切で最も困った現われとなったのは、FDAの科学
   者が医薬品の安全性についての疑問を挙げるのを管理者に止められたり、
   FDAの諮問委員会と関心を共有するために発表するのを妨げられたりした
   ことである。

   2004年2月に医系審査官のアンドリュー・モショルダー氏は、ティーン
   エージャーへの抗うつ剤の使用が自殺行動増加のリスクをもたらすとい
   う氏の分析結果を諮問委員会で発表するのを妨げられた。替わりに管理
   者は、他の科学者に分析のやり直しを命じた。しかし6か月後に同じ結果
   が得られた。
  
   バーベヘン氏は、彼女のCDER審査チームの医系審査官たちが、アレンド
   ロネート(フォサマック)についての分析結果を諮問委員会で発表しよう
   として、管理者に止められたと語った。

   グラハム氏はインタビューで、自分や他の医薬品安全局の科学者たちが、
   諮問委員会には時々出席したが、データや分析結果を話すよう言われた
   ことはまれであったと語った。

   グラハム氏は、昨年夏に彼のバイオックス試験の結論を修正するよう管
   理者から求められ、所見を国際学会で発表する許可を得るために従った
   と、上院財政委員会で証言した。かなりの修正を行い、そのことで精神
   的な大きい苦痛をこうむったと彼は語った。そうしないとデータが陽の
   目をみることはないと考えたからだと、彼は語った。

   先月、保健福祉省のマイク・リービット長官が、FDA内に新たな医薬品安
   全性監視委員会を設立する計画を記者発表した。新たな委員会は、承認
   された医薬品で起こった安全性問題を思慮深く検討するために、外部の
   専門家の援助を求めるとの計画である。

   グラハム氏の管理者も、グラハム氏がCOX-2阻害剤の安全性を検討する
   FDAの諮問委員会に未発表研究の所見を発表することを許可した。この決
   定についてグラハム氏はクローフォード氏に、公に感謝を表明した。こ
   れらは変化を期待させる徴候である。

   しかし何人かのの専門家は、リスクの公正な科学的評価を行うために、
   医薬品安全性プログラムは、FDAから独立した部局に移されるべきだと、
   示唆した。
                             (T)

関連資料・リンク等