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アルツハイマー病薬剤審査中のFDAとバイオジェン社の緊密な関係

2022-01-26

キーワード: FDA、代理エンドポイント、迅速承認、規制企業との緊密な関係

 2021年6月 FDA は、FDA自身が招集した独立専門委員会がほぼ満場一致で「エビデンス不十分」とした結論を退けてアルツハイマー病薬剤「アデュカヌマブ」を承認するという、FDA史上最悪の決定を行った。この薬剤は日本のエーザイと米国バイオジェン社が共同開発したもので、アルツハイマー病患者の脳内に蓄積するたんぱく質であるアミロイドβに対する人工抗体である。提出された臨床試験結果では、脳内アミロイドβを減らす効果は認められたが、認知機能の低下を遅らせるという証拠は得られず、脳の異常画像、脳浮腫、頭痛、転倒など有害作用がある。臨床像を改善する証拠がないままに、FDAとバイオジェン社は共同で申立て文書を作成し、アミロイドβがアルツハイマー病の原因物質という仮説に基づく代理エンドポイントのみで承認にこぎつけた。パブリックシティズンヘルスリサーチグループは、何百万人ものアルツハイマー病患者とその家族に虚偽を提起し、年間5万6千ドルという、薬の法外な価格のせいでメディケアプログラムを破産させ、何年もの間、この病気の他の実験的治療法の開発を妨げる可能性があると指摘し、無謀な決定であると、FDAを非難した(※1)。本記事は、その続報である(※2)。FDAがなぜ、どのようにそのような決定を下すに至ったのかを徹底的に調査すべきと求めている。以下に要約を紹介する。

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 パブリックシティズンヘルスリサーチグループは、2020年12月、米国保健福祉省 (HHS) 監査長官 (Inspector General) 事務所に対し、「アデュカヌマブ」のデータ分析過程でのFDAとその企業との間における前例のない不適切な緊密関係について調査を求めていた。

 監査長官事務所の対応は鈍かったが、科学ジャーナリスト集団 STAT が多くの事実を明らかにした(2021年7月29日)後の2021年8月4日になってようやく、調査を開始すると発表した。STATによると、FDAとバイオジェン社の関係は2019年5月に始まりFDA審査担当者が共同してワーキンググループを作り会合を重ねていた。FDAの薬物規制が、独立性や客観性を放棄して、公衆に奉仕するのではなく、バイオジェン社に代わって働き始めたという恐ろしい構図となっている。パブリックシティズンヘルスリサーチグループは、FDAと製薬企業との不適切な関係を許す文化をウッドコック長官がどのように培ってきたのか、徹底したメスをいれるよう求めている。

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 本罪の承認を巡っては、2021年11月17日に欧州医薬品庁(EMA)は承認否決を通告し、バイオジェン社は再審査請求を表明している。日本国内でも2020年12月に承認申請がされていたが、2021年12月22日の薬事・食品衛生審議会専門家部会で承認見送りとなった。2つの臨床試験結果に一貫性がなく有効性が確認できないこと、アミロイドβの低下と症状の進行抑制に関連が見られないこと、脳浮腫や微小出血といった有害作用が見られていることからだ。追加の臨床試験データの提出を待って継続審議となる予定とのことだ。また、米国は条件付き承認とはなったものの、今年1月になって、CMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)が保険適用を臨床試験参加の患者のみに制限する提案を発表した。そもそも、2つの3相試験の中間解析で、効果が見込めないことがわかり中止となった代物だ。各国の承認動向に目が離せない状況である。(N)

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参考文献
  (※1) FDA’s Reckless Decision to Approve Aducanumab for Alzheimer’s Disease,Worst Pills, Best Pills News Letter article August, 2021

  (※2) Worst Pills, Best Pills News Letter 2021年10月号

関連資料・リンク等