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COVID-19の緊急使用認可には透明性と信頼のおけるエビデンスが必要

2020-06-28

(キーワード)生命を脅かす公衆衛生の危機、供給の認可、不十分な根拠による決定の害、透明性

 COVID-19パンデミックにおいて、米国FDAは2020年3月28日にヒドロキシクロロキンとクロロキン、5月1日にレムデシビルの緊急使用認可(EUA)を発出した。EUAとは、未承認の製造物または適応について、公衆衛生の危機に際して緊急に使用を認めるものだ。EUA発出は”重大な生命の脅威”に際して、利用可能な治療方法がない状態においてのみ可能であるが、その基準はその製造物が有効であろうと信用できる合理的な証拠があり、リスクを上回る有益性があることが要求される。根拠不十分で拙速なEUA発出をするべきではないとする論説がJAMA 内科学誌online 2020年5月19日号(※1)に掲載された。以下に要約を紹介する。

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 2020年4月30日までに、FDAは174のEUAを発出した。そのうち143(82.2%)は疾患の診断のためのテストである。治療に対するEUAはわずかに4件(2.3%)のみで、2009年のインフルエンザA(H1N1)パンデミックの時の抗ウイルス薬のオセルタミビル、ザナビミル、ペラミビル、そしてCOVID-19の特定の患者に対するヒドロキシクロロキンとクロロキンである。

 2009年のパンデミックの時には、早期の診断、有望な感受性テストと安全性プロファイルをもとオセルタミビル、ザナビミルの承認範囲外のEUAが認められた。さらに重症患者への静脈注射が可能ということでペラミビルにもEUAを発出した。FDAはペラミビルの二重盲験プラセボ対照多施設試験を含む3つの響蟷邯海鉢形蟷邯海鯢床舛掘EUAファクトシートで詳細を公表した。

 これとは対照的に、ヒドロキシクロロキンとクロロキンについては、EUA文書でも特定(?)臨床研究のサイトでも科学的証拠の検討は困難である。EUA発出の第一の根拠は、「限定的な試験管内での結果と症例報告」である。EUA発出前に実施された試験は、適切な対照群がなく有効性は不確実であった。加えて、結果に矛盾があり、試験管内で見られた効果が患者にも有効であると裏付ける証拠がほとんどない。COVID-19への臨床的有用性があるかどうかについて不十分なデータを基にしたEUA発出は次のような大きな被害をもたらす。

 第一に、患者を臨床試験から遠ざけ、これら薬剤の無制御な使用を促進し、いずれの薬剤も安全性、有効性を決定するのに必須のデータを得るのを遅らせる。この2剤は、COVID-19への有効性は不明で、QT延長・致死的な心室性不整脈のリスクはよく知られている。

 第二に、医師や医療機関にEUAがゴーサインと受け取られる恐れがある。EUA発出後、多くの機関がヒドロキシクロロキンをCOVID-19の治療プロトコールに組み込み始めた。EUAは特定の適応承認ではなく、薬剤を供給することの許可でしかない。4月21日にNIHは、臨床データ不足のためこれら2剤の使用を推奨しないという治療ガイドラインを発表し、広範な使用を続けることへの疑問を提起した。

 第三に、COVID-19治療のため需要が急増し、本来の承認された適応の患者への薬剤不足をもたらすことである。この事態は、2剤が本来EUAの範囲外であるCOVID-19の外来患者にまで使われることによって引き起こされており、有効性に関する誤った情報により増幅されている。

 さらに、COVID-19へのヒドロキシクロロキンとクロロキン使用に関連した不整脈や死亡を含む有害事象がすぐに報告された。EUA発出後1ヶ月も経たない4月24日、FDAは薬剤安全情報でこれら有害事象を公表し外来での使用をやめるよう警告した。この情報は、リスクが確実であるのに対して有効性が不確実な薬剤の、時期尚早のEUA発出の危険を強調したのだ。

 EUAは公衆衛生の危機に対する重要なオプションではあり得るが、信頼できる証拠が不足しているときには、FDAは必要なエビデンスを創出するために、正確な情報の普及と、適切にデザインされた臨床試験の実施を促進することに焦点を当てるべきである。時期尚早のEUA発出をすべきではない。透明性確保と検討可能な科学的証拠を開示すべきである。エビデンスを知らなければ、医師は薬を使うべきかどうか、自信をもって決めることができないのだから。

 5月1日、抗ウイルス薬レムデシビルのCOVID-19患者の臨床試験での有望な予備的結果の発表後、FDAはCOVID-19の特定の状態の入院患者に対するEUAを、その臨床試験の詳細な結果が公表される前に発出した。レムデシビルのデータは、ヒドロキシクロロキンとクロロキンのデータよりは説得力があるようだが、EUAを支持する臨床試験の詳細は、少なくともEUA発出後2週間の間は利用できないままだった。

 COVID-19パンデミックの危機に対して、国民、政府機関、製薬企業は、FDAにEUAを発出するよう圧力をかけだろう。FDA当局はこれらの圧力に負けないで、EUAが、十分な科学的証拠によってのみ発出されることを確保するべきである。そして、それらのすべての証拠は公開され、誰にでも利用できるという状態であるべきだ。

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 新型コロナウイルス感染症の治療薬に関しては、各国で、不十分なデータで、有効性が不確実なままで使用を認めることに対する批判、警告が多数出されている。本論説で述べられているように、パンデミックといった公衆衛生の危機においては、国民、政府、製薬企業、マスコミなど、あらゆる方向からの圧力がかかる。そのような圧力に屈せず、信頼のおける証拠に基づいて意思決定することは患者を守るうえで極めて重要だろう。米国のEUAは未承認薬(開発中)の地位はそのままで使用を認めるもので、EUA発出から1ヶ月半を経た6月15日、継続していた解析の結果をもとに、FDAはこのEUAを取り消した。有効性が期待できず、重篤な心血管系等の危険があり、もはやEUAの基準を満たさないとの判定がなされたのだ。

 我が国には米国のようなEUAの制度はない。そのため、使用するには、治験参加または製造・販売承認が必要となる。レムデシビルは、米国でのEUA発出後まもなくの5月7日、世界で初めて日本で特例承認された(商品名ベクルリー点滴静注液/点滴静注用)。申請からわずか3日での承認である。薬剤供給だけを認めた米国のEUAとは異なり、「新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による感染症」の効能・効果が承認されたが、その根拠となるデータの提出は9ヶ月の猶予が与えられた。たとえ特例といえども医薬品の製造・販売承認については、信頼できる証拠に基づくこと、審査過程の透明性を十分確保することを、改めて厚生労働省に求めたい。(N)


※1
Mike Z. Zhai, et al. Need for Transparency and Reliable Evidence in Emergency Use Authorizations for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Therapies.
JAMA Intern Med online. 2020: 19 May

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