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コクラン−利益相反問題に揺れる組織は沈みゆく船か−

2018-11-05

[キーワード:コクラン、利益相反、理事会、追放、ISDB、独立医薬品情報誌]

 コクランは、1990年代初頭からEBMの潮流とともに注目され信頼されてきた。そのコクランが今、岐路に立っている。2018年9月25日、独立医薬品情報誌協会(ISDB; 企業等からの資金を一切受けずに医薬品に関する情報誌を編集・発行する組織が加盟している団体)は事態を憂える声明(※1)をホームページに発表した。

 その内容をご紹介する前にまずは、ここ数年におけるコクラン組織の現状について解説しておきたい。コクランは医療介入に関するシステマティック・レビューの方法論を開発し、それに基づくレビューを行い、コクラン・ライブラリーという媒体を通じて、レビュー結果を世に広める活動を行ってきた国際組織である。1993年以降今日まで、25年以上にわたる活動の歴史があり、方法論の厳密さとともに、製薬企業など医療産業との金銭的関係を一切持たないという姿勢を貫いてきたことでも、コクラン活動とその成果物であるレビュー結果は發た頼性を獲得してきた。そのコクラン組織に明らかな変化が認められたのは、2013年に現CEOマーク・ウィルソンが就任してからである。そもそもコクランは、医療専門職や研究者、医療消費者が平等な立場で集い、議論し、より良い医療のために必要なエビデンスを作りだすことを目的として形成された共同体であり、コクラン・コラボレイションという名前で出発したものである。しかし新たに就任したCEOマーク・ウィルソンは、組織体制強化を図り、(企業からの‘直接的’資金獲得はしていないものの)商業主義的要素を取り入れ、コクラン組織の拡大路線を打ち出したのである。2015年には組織名称を「コクラン・コラボレイション」から「コクラン」に変更したこと、運営主体として機能していた世話人会をなくして、2017年からはCEOを中心とする執行部と理事会という組織体制に作り替えたことなどはその象徴的事象である。また2016年にはビル&メリンダ・ゲイツ財団から約1億3千万円の資金提供を受け、コクランの年間財政規模が約10億円であることからすると、その1割以上を製薬企業と密接な関連を持つ財団からの寄付金に依存した結果となっている。また製薬企業等との金銭的関係性がある場合にはコクラン・レビューの筆頭著者にはなれないなど、コクランでは、著者における厳しい利益相反基準を設けており、そのことがレビュー結果の高い信頼性にもつながってきた。しかしコクランのこの厳しい基準が崩れつつあるのではないかとの指摘が2000年代初め頃からなされるようになり、2011年にHPVワクチンに関するコクラン・レビューの計画書が公表されたときには、HPVワクチン関連企業と金銭的関係性がある、あるいはHPVワクチンの企業治験に関与していた研究者が本レビュー著者に名を連ねていることは不適切であるとする問題指摘がISDBからなされていた。(※2)

 このような流れの中で、ノルディック・コクラン・センター長であったピーター・ゲッチェがマーク・ウィルソンの方針に異議を唱えて執行部と対立するなど、コクラン創設当初から関わっている中心的メンバーと現執行部との軋轢が少しずつ出てきていたのがここ数年におけるコクラン内部での動きである。そして今年(2018年)9月のコクラン・コロキアム(年次学術大会)において、その軋轢は決定的な形で顕在化した。コクラン理事会は、ピーター・ゲッチェを理事会メンバーから追放するとともに、彼のノルディック・コクラン代表職およびメンバーシップも剥奪するという決定を下したのである。その結果、この決定を受諾することはできないとする理事4人が辞任声明を発表するという事態にまで発展した。また同年10月にはコクラン・イベロアメリカ・ネットワーク(スペイン、ポルトガルと中南米諸国にあるコクラン・センターの連携組織)が、今回のピーター・ゲッチェに対する理事会の決定やコクラン組織運営の在り方に関する問題提起とともに、独立組織による公正な調査を求める声明(※3)を代表者31人中27人の連名で公表した。

 このような経緯の中で発表されたのが、ISDBによる掲題の声明である。以下その概要である。
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 コクラン理事会がゲッチェ氏に対して、理事会からの追放とコクラン・センター長職およびメンバーシップの剥奪という決定を下し、それに伴い理事4人の辞任という事態を招いたことは、コクラン組織に多大なる影響を及ぼすであろう。コクランでは近年、製薬会社と利益相反関係にある者がレビュー著者となることが容認されつつあり、このことに関する内部批判も出てきていたが、このことは一般にはあまり知られてこなかった。ゲッチェ氏はこのような、利益相反に関するレビューワー基準が厳格に適用されていないことの問題提起をコクラン内部からしてきた一人である。我々ISDBもゲッチェ氏と同様の意見であり、2013にはニューズレターの中で、コクランにおける利益相反問題(HPVワクチンに関するレビュー著者の利益相反問題)を指摘した。(※2)

 利益相反関係というのは、適切に開示されればそれでよいというものではない。研究者および研究、そして研究論文の妥当性、信頼性、高潔性というものは、利益相反関係をいかに排除できるかにかかっているのである。コクラン組織は、これまで築いてきた医療者・科学書・患者からの信頼関係を失いつつあることに気づかなければならない。今回の一連の騒動にコクラン組織が早急に、かつ適切に対処できなければ、彼らからの信頼を完全に失うことにもなりかねないであろう。コクランは、ゲッチェ氏が提起した問題を受け止め、組織内部で利益相反問題を再検討し、今回の騒動を組織としての軌道修正を行う好機として生かすべきである。

 ゲッチェ氏は、理事選挙をやり直し新たな理事体制を作ること、現在のコクラン組織体制と方針を根本的に見直すことを主張しており、ISDBもこのゲッチェ氏の主張を支持するものである。
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                   (Y)