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国民保健サービス(NHS)の薬価規制に対する英国製薬協の訴えが高等裁判所で却下され、上訴断念

2018-04-16

(キーワード:予算影響評価 費用対効果 英国NHS NICE)

 英国では、医療用医薬品の価格(薬価)は、医薬品価格規制制度(Pharmaceutical Price Regulation Scheme:PPRS)に基づいて、製薬企業側の自由価格によって決まる。しかし、英国NHS(国民保健サービス)が承認した新薬であっても、NICE(英国国立医療技術評価機構)が、費用対効果が高いと認めなければ健康保険による使用はできない。

 英国NHSは、さらに医療費を削減する手だてとして、新薬に対する「予算影響評価制度」の導入を決めた。この制度導入に対し、英国製薬工業協会(英国製薬協)は、高等裁判所に司法審査を申し立て、その審判が注目されていた。その結果に関するピンクシート2017年10月5日の記事を紹介する。
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 英国NHSは、2017年4月1日より、NICEが費用対効果を認めても、発売後3年間のいずれかの年に、健康保険による支払いが年間2000万ポンド(およそ30億円)を超える場合には、健康保険による支払いを一旦中止し、販売企業と薬価引き下げの交渉を行うという「予算影響評価制度」を導入した。

 英国製薬協は、この制度の導入に対して、患者が新薬を待つ期間が著しく延びるとして、2017年7月、高等裁判所に異議を申し立てた。裁判官は、異議を認めることは道理に合わないとして、同年10月申し立てを却下した。

 この判決に対して英国製薬協は、いったんは判決内容を吟味して次の対応を検討するとしながらも、その後、製薬協理事会として満場一致でこの判決を受けいれることに同意し、上訴しないことを表明した。

 ニューヨークタイムズ紙は、判決文を入手した上で、英国以外の製薬協メンバーが法的申し立てに熱心であったことを伝えている。また、同紙は、判決文から、NICEが製薬協側の証人の製薬協との金銭的つながりがあったと指摘している。

 製薬企業は、判決後も“予算影響評価”制度に反対しており、実施のための交渉が続いている。
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 日本における医薬品の薬価は、厚労省が承認した医療用医薬品に対して、製薬企業が算出する経費や利益を積み上げる原価計算方式(新規薬)、あるいは類似薬効方式(非新規薬)に基づいて、薬価算定組織により決定されるが、その審議は非公開である。

 2014年9月に悪性黒色腫への使用が承認されたオプジーボの日本の薬価は、英国の(企業の自由価格で決まる)薬価の5倍であった。日本においても、市場が当初の予想より大幅に拡大した場合の再算定ルールはあるが、英国が年間£2000(およそ30億円)を上限と定めたのに対し、日本の再算定ルールでは、100億円(原価計算方式)あるいは150億円(類似薬効方式)としている。

 日本においても、医薬品費用の削減のために、薬価算定に費用対効果評価の導入が必要として、2016年4月より試行を開始した。しかし、英国に比して明らかに高い薬価水準を根本的に見直す必要があり、そのためには、薬価算定組織の透明化と審議経過の公表が不可欠であると考える。(N.M)

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