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「誤った期待をもたらす法律」(パブリックシティズン)が米国上院を通過

2018-01-22

(キーワード: 治験薬を試す権利 (RTT) 法、米国上院通過、パブリックシティズンが警鐘)

 治験薬を試す権利 (RTT) 法は、命を脅かされる重篤な疾患の患者には治験薬を試す権利 (RTT: Right to Try)があるとして、第1相 (ヒトでの安全性などを検討する医薬品の初期開発段階)を終えた治験薬を患者が自己責任で使用できるよう、医師と製薬企業が合意すれば米国食品医薬品庁 (FDA) の関与なしに未承認薬を販売できるという法案である。患者の安全を脅かすとともに医薬品の販売承認制度を突き崩す可能性があるとして、医薬品監視団体パブリックシティズン他多くの他の消費者団体、患者団体、医師団体などが強く反対している。すでに米国の大半の州では法律として成立していたが、連邦法が州法に優先されるため、これまでは実効がなかった。ところが大統領選挙で共和党が連邦法とする方針を決め、成立したトランプ内閣の肝いりで2017年1月米国議会に議案として提出され、その成り行きが注目されている。

 以下はパブリックシティズンのニューズレター2017年10月号記事「米国上院が“誤った期待をもたらす”法律を通過させる」の要約である。
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 2017年8月3日、米国上院は満場一致でいわゆるRTT法案を通過させた。この法案(※1)についてはパブリックシティズンや他の消費者・患者・医師団体が強く反対してきた。この法案には誤解を招く名前がつけられている。実質は“誤った期待をもたらす”法律 (“False-Hope”Act)のタイトルがふさわしく、未承認薬使用についてのFDAの重要な安全性規則の土台を掘り崩し、数知れない患者にリスクをもたらすものである。

 現在、FDAは米国における実験段階の治験薬使用を監督している。それらの未承認薬は製薬企業が行う臨床試験によって患者に用いられ、臨床試験に参加できない患者はFDAの拡大アクセス(expanded access) 制度を通じ使用できるようにしている。

 しかし、今回上院が通過させた「誤った期待をもたらす法案」は、実験段階の治験薬へのアクセスに危険な未知の経路を作り出すもので、患者保護が図られているFDAの拡大アクセス制度を実質的に破壊するものである。

 さらに重要なのはこの法案が製薬企業や医師の責任を免責し、健康被害が生じても患者が訴訟を起こすことを禁じることによって患者が有する権利の土台を掘り崩すことでがある。

 この法律の成立は、弱い立場の(vulnerable) 患者を避けられる早期の死亡を含む重篤な害のリスクに、保護手段(safeguards)なしでさらすだろう。拡大アクセス制度でアクセスされた未承認薬でさえもその多くがその後臨床試験で有効性安全性を示せず承認されていないのだ。

 これから下院審議が行われるが、連邦議会は患者を保護するFDAの拡大アクセスプログラムを破壊するのでなく、改善の途をみつける分別のある取り組みをこそするべきである。
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 このRTT法案は、引き続き米国下院で審議されている。医薬品の規制は、医薬品がその有効性安全性を厳しく求められる特別な物質であるからこそ必要なのだが、最近新薬への早期アクセスの実現などを名目に、これまでは考えられなかった大幅な規制緩和を行う動きが世界的に強まっている。この米国のRTTをめぐる動きはその最たるものである。

 日本でも2017年10月20日に、急造りの「条件付き早期承認制度」が国会審議を経る法律でなく通知によって即日実施された。これは医薬品の有効性安全性の検証は市販後で良いとして承認を急ぐ制度である。そのような制度は欧米にも前例があるが、この日本の制度は市販後の販売承認において有効性安全性を検証する資料として、これまでの臨床試験(介入試験)成績でなく、医療情報データベースや患者レジストリなどを利用した調査(観察研究)でよいとする世界ではじめての制度である。米国やEUでも実臨床データ(リアルワールドデータ)の利用は最近のトピックではあるが、販売承認での利用はこれから検討するとしている段階であった。このあと2017年10月24-25日に京都で開催された「薬事規制当局サミット」では、世界の規制当局の首脳が日本の厚労省の主導でリアルワールドデータを医薬品の販売承認のエビデンスとして用いる国際調和を促進することで合意したとPharma Japan WEB 2017年11月5日版が伝えている。
 
 今後の監視を強める必要がある。 (T)

(2018年2月26日、コメント一部修正)
  

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