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ハイリスク医療機器が不十分な臨床試験で販売承認され、重大な健康被害で回収を招いている(米国)

2018-01-22

(キーワード: ハイリスク医療機器、不十分な臨床試験、クラス1回収)

 医薬品と比較して医療機器の承認は厳しくない。米国のFDA現代化法1997は、有用な医療機器への患者のすみやかなアクセスのため、承認に「かかる負荷を最小限」(least burdensome)にするのを原則としている(※1)。2015年末に成立した「21世紀治療法」でもこの要求事項が強調されている。今回紹介する論文の著者たちは、これが実際にはほとんどで「臨床試験なしでよい」との状況を招いていると述べており、ほとんどの医療機器では臨床試験を求められない。

 今回紹介する論文が対象としているのは、臨床試験を求められている「ハイリスク医療機器」での、臨床試験とそのデータの質についてである。

 医薬品は有効成分が生体内で及ぼす有益な作用や害作用に注目して開発されるが、医療機器は使用目的(開発コンセプト)に基づき設計評価され、それを臨床現場で医療従事者が使用することにより得られたフィードバックをもとに、継続的に改良を続けながら医療の現場に提供される。そのためしばしば変更の申請がなされる。そうした際に「ハイリスク医療機器」でデザインに重要な変更があるもの、新たな適応があるものだけが臨床試験成績の提出を求められる(Panel-Track Supplements)。

 Sara Y Zheng (カリフォルニア大学)たちは、Panel-Track Supplements で承認された医療機器について臨床試験データの質(エビデンスの強さ) を調べ、JAMA誌2017年8月15日号に報告している。以下はその要旨である。
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 冠動脈ステント、臀部置換などハイリスク医療機器は、医療機器では最も厳しいFDA審査で承認される。2006年4月19日から2015年10月9日の期間に承認されたpanel-track supplement 承認78 (臨床試験数では83)の臨床試験データの質を調べた。データの質は、ランダム化、遮蔽化、対照のタイプ、臨床 vs 代替プライマリーエンドポイント、事後解析の使用、年齢と性別の報告で判断した。

 結果は、78のpanel-track supplement承認のうち、71 (91%)は1つの臨床試験(single study)のみでの承認であった。83の臨床試験のうち、ランダム化されていたのは半数以下の37 (45%)であった。遮蔽化されていたのは25 (30%) のみであった。ランダム化と遮蔽は質の高い臨床試験を示す指標である。しかし既存のハイリスク医療機器の設計変更にはしばしば用いられていない。

 1試験あたりの患者数の中間値は185、フォローアップ期間の中間値は180日であった。全部で150のプライマリーエンドポイント(1臨床試験あたり平均1.8)があったが、対照と比較していたのは57(38%)のみであった。対照のあるプライマリーエンドポイントのうち、6つ (11%)は後ろ向きの (retrospective) 対照で、51 (89%) が実際の活性をもった(active) 対照を用いていた。121プライマリーエンドポイント (81%)が代替エンドポイントであった。33の臨床試験 (40%) が参加患者の年齢を報告していなく、25の臨床試験 (30%) が性別を報告していなかった。

 臨床試験データを必要とするpanel-track supplementはまれである。例えば、販売後にsupplement承認されたハイリスクの耳鼻咽喉科デバイス528のうちpanel-track supplementとして承認されたものはたった1つ (0.2%) のみである。また、心臓性インプラントデバイスとしてsupplement承認された5800を超える医療機器のうちpanel-track supplement 経路を用いたのは15 (0.3%) に過ぎない。

 これまで体内埋め込みカルジオバータ除細動器、膝インプラント、蝸牛インプラントなどの販売後に臨床試験を要しないsupplement承認された医療機器で多数の回収を起こしている。また、臨床試験を必要とするpanel-track supplementの医療機器でも臨床試験が不十分で安全性の確認が不十分で回収を起こしている。2015年5月にわずか7日間の臨床試験でpanel-track supplementd承認された血糖モニタリングシステム the Dexcom C4 PLATINUM小児用レシーバーが、2016年2月に低血糖や高血糖の警告を患者が聞き取れなく、19500以上の医療機器がクラス1(重篤な身体傷害や死亡の際)の回収を起こしている。

 今回の所見は、ハイリスク医療機器の変更申請に用いる研究とそのデータの質が改善される必要があることを示唆している。
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 ハイリスク医療機器の安全性が確立されないまま市場に出されているという米国の実情がデータで示された。日本ではこのような研究がないが、米国よりも劣る現状の可能性が危惧される。     (T)
 

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