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多くの問題点が指摘されてきたICH-GCPがようやく刷新へ

2017-09-21

(キーワード: 臨床試験、臨床研究、患者保護、データの科学性確保、ICH-GCP刷新)

 ICH(医薬品規制調和国際会議)は規制当局と製薬企業とで構成される問題点があるが、ICH -GCP(医薬品臨床試験の実施基準)は、臨床研究における1) 被験者保護と2) データの科学性確保のための国際的基準となっている。このICH-GCPは臨床研究全体が対象である。しかし日本ではこれまで販売承認申請に関わる臨床試験(治験)のみが薬機法に基づくGCPで規制されている。当会議は臨床研究全般を法的規制の対象とするよう意見表明してきた(※1)。

 当会議注目情報では、ICH-GCPが被験者保護については評価される一方、大学などの研究者による研究を阻害し、医療の発展を損なうものとの批判がEUでされていることを、2010年(※2)に記載した。また関連して、その後煩雑な規制が問題となっていたEU臨床試験規制が、通常の診療と比較して被検者の安全にわずかのリスクしかもたらさない「低介入試験」では簡略化が認められるなどを2014年(※3)に記載した。

 ICH-GCP自体は長らく改善が図られてこなかったが、この程ようやく「刷新」が本格的に動き出した。以下は、ICHが刷新の方向性について記述したリフレクションペーパー(2017年1月、※4)の概要である。ICH 本部はリフレクションペーパーに対するパブリックコメントを、すでに2017年1〜3月に実施している。しかし日本の厚生労働省は周知させず、パブリックコメントも行っていない。
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 このリフレクションペーパーは臨床試験のデザイン、計画、管理、実施に関しての、これから行うICHガイドライン刷新の概要を示したものである。刷新される範囲には現在のE8ガイドライン (臨床試験の一般指針) とE6ガイドライン(医薬品の臨床試験実施の基準)が含まれる。目標は、規制上および他の保健政策決定に用いる、臨床試験デザインとデータソースの多様性増加に適切かつ柔軟に取り組むに十分な、最新のガイドラインである。被験者保護とデータの質のもととなる原則はこれまで通り維持される。

 ICHはこのリフレクションペーパーの提案が、いくつかの研究団体や保健研究の国際共同体が最近表明した懸念に対し、その解決に大いに役立つものと信じている。ICHへの2016年2月の書簡で、これらの利害関係者は現行のICH E6ガイドラインが、様々なタイプの臨床試験被験者のリスクレベルの違いを認識し、リスク管理に対応する柔軟性を許容するのに失敗したとの懸念を表明した。

 E6が最初に起草されて以来20年が経過し、臨床試験がどのように行われるかの様相、それらに応じた実施基準の様相も進化した。電磁システムの利用が普及し、施設数が増加し国境を越えるものとなった。規制庁には臨床試験のモニタリングに対するリスクに基づいた柔軟な対応が求められる。最近のE6(R2)はこのような方向への重要なステップとなった。

 提案する刷新では2つの現行ガイドラインの改訂を行う。ひとつはE8(臨床試験の一般指針)である。これはデータの質はデータを生み出す研究の質に根本的に依存し、研究デザインの多くの様相が研究の結論の信頼性に影響するとの認識に基づくものである。続いてICHはE6(GCP)の刷新を通じて、広範囲な研究タイプとデータソースへの柔軟な対応を提案する。

 計画に基づいた質の確保 (Quality by design)、目的に応じた質の確保 (Fit-for-purpose data quality)、リスクに応じたモニタリングアプローチ (risk-based approach to the monitoring) などがキーワードとなるだろう。
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 ICH-GCPは多くの改善点が各方面から指摘されてきた。例えば人にはじめて用いられる未承認薬とすでに販売承認を受けている医薬品では、それらを用いる臨床試験での被験者のリスクは当然異なるが、それらを考慮しておらず、大学などアカデミアが行う実地臨床での問題解決のための臨床研究にも、製薬企業が医薬品申請に用いる場合と同じ基準が適用された。さらに官僚的な煩雑な手続きが臨床研究を阻害していると指摘されてきた。

 今回のICH-GCP「刷新」では、「臨床試験のデザインとデータソースの多様性に応じた改善がされる。目的に応じた質の確保がされ、モニタリングもリスクに応じたものとなる。一方、被験者保護とデータの質のもととなる原則はこれまで通り維持される」としているが、これが真に被験者の権利保護とデータの質の確保を損ねることなく改善を図るものとなっているかについては、十分に注視していく必要がある。

 ICH-GCPは、臨床研究における国際基準となっている。しかし日本では、医薬品等の承認申請に用いられる「治験」のみがICH-GCPに基づく「省令GCP」準拠であり、その他の臨床研究については、GCP準拠は研究を阻害し医療の発展を阻害するという大学などの研究者の反対で見送られ続けてきた。しかし2017年4月成立した「臨床研究法」で企業から研究資金の提供を受ける研究と、未承認薬等を用いる研究の2つが「特定臨床研究」として法的規制の対象となった。臨床研究法の条文にはGCP準拠は織り込まれていないが、法案の国会審議で「臨床試験実施基準の策定に当たっては、ICH-GCPやGMPに準拠することにより、臨床研究の一層の信頼の確保に努めるとともに、国際的な規制との整合性を確保し、国際的な共同研究・共同治験の一層の推進に向けて取り組むこと」の付帯決議が全会派一致でされた。臨床試験実施基準は、来年5月までに厚生労働省が具体化する。特定臨床研究がICH-GCPに準拠して行われ、その成果が承認申請や実地臨床で活用されるものとなるかはひとえにこの「臨床試験実施基準」の内容次第である。

 今回のICH-GCP簡略化・刷新の国際的方向などを踏まえ、特定臨床研究のICH-GCP準拠が実現するよう、注視していきたい。(T)