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製薬企業の医師への支払いと処方頻度との関係(BMJ誌)

2016-11-22

(キーワード:利益相反、製薬企業、情報公開、サンシャイン法、Medicare、医師への資金提供)

 米国において製薬企業は医師に対して、講演料やコンサルティングばかりでなく、飲食費、贈答品、および教材の形で毎年数億ドルの資金提供をしているが、多くの医師はこれらの資金提供はその処方にほとんど影響しないと考えている。

 しかし、多くの研究は、資金提供の影響を示している。これまでの研究は単一施設の自己報告に基づく研究だったが、米国サンシャイン法により製薬企業から医師への支払い情報の公開が義務づけられ、2014年9月から情報公開がはじまったことから、より詳細で客観的な分析が可能となっている。以下はBMJ電子版2016年7月13日(オープンアクセス)※1の要約である。
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 米国高齢者向け公的医療保険であるMedicareの処方記録を米国306地域の病院医療圏を対象に断面的に調査した研究で、製薬企業から医師への報酬と各地域における処方との関連を分析した。

 調査対象薬とされた経口抗凝固薬と非インスリン糖尿病薬は62万人の医師により1050万人の患者に4600万処方されていた。

 経口抗凝固剤では98万件計6100万ドルの医師への支払い、非インスリン糖尿病薬では180万件計1億840万ドルの医師への支払いがなされた。

 経口抗凝固剤のマーケットシェアは21.6%、非インスリン糖尿病薬のマーケットシェアは12.6%であったが、病院医療圏ごとに分析すると、金銭提供が多い地域では市場シェアが高い傾向がマップ上で示された。

 1回の医師への追加支払い(中間値13ドル)あたり、抗凝固剤では94日、非インスリン糖尿病薬では107日の追加処方があった。

 専門医への支払いは、非専門医に対するよりも効果的であった。経口抗凝固薬の専門医VS非専門医の処方日数増は212日VS100日、非インスリン糖尿病薬でも331日VS114日だった。また、非インスリン糖尿病薬での講演料・コンサルタント料は、食事接待や教育資材での支払いよりも効果的であった。

 「キーオピニオンリーダー」に対する資金提供がより大きな効果を持っていることが示された。著者たちは、本研究は横断研究なので因果関係を証明することはできないとしている。
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 製薬企業から医師への資金提供は、ランチョンセミナーのお弁当の提供などたとえ小額でも処方に影響するという報告が米国のサンシャイン法にもとづくデータの分析で明らかになっている(※2)。

 今回紹介した報告はMedicare処方記録にもとづいたものだが、いずれにしろ製薬企業から医師への資金提供が罰則のある法(サンシャイン法)に基づいて情報公開される米国ならではの報告といえる。

 日本でも2013年夏以降いわゆる「透明性ガイドライン」に基づく情報公開が始まっているが、あくまでも企業による自主的な公開であり、法律に基づくものではない。従って、違反しても罰則はない。しかも、情報公開の時期が医療界の反発で遅れたという経緯がある。

 さらに、情報公開の方法も様々で簡単には情報を入手できない企業が多く、直接製薬企業に出向かなければならない場合もある。

 また、製薬企業のウェブサイトに公開されている場合もデータとして保存できなかったり、期間限定で公開されているため、期限が過ぎたらすぐに削除されてしまうなど、とても「透明性」が高いとは言えない現状である。日本の医療界はもっと真剣に利益相反問題に取り組む必要があるのではないか。(G.M)