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ドイツIQWiG が欧州医薬品庁にAdaptive pathway と呼ばれる「迅速医薬品承認」の保留・再検討を求める

2016-11-22

(キーワード: 欧州医薬品庁EMA、迅速医薬品承認 (Adaptive pathway)、ドイツIQWiG、中断要望)

 欧州医薬品庁(EMA)は、Adaptive pathway (適応力がある経路)とも呼ばれる新薬の「迅速医薬品承認」(fast track drug approval)制度を、拡大するよう準備を進めている。
これに対してフランスの独立医薬品情報誌プレスクリールは、新薬の安全性が明らかでなく有効性も実証されていない段階で販売承認を急ぐものと強く批判してきた。

 BMJ電子版が2016年8月16日、ドイツ政府が設置する医療技術評価(HTA)機関であるIQWiG(医療の質・効率研究所) が「迅速医薬品承認」計画の中断・再考を求めたとの記事を掲載しているので、その要旨を紹介する。
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 欧州医薬品庁(EMA)が進めようとする新薬の迅速承認アプローチの拡大計画が、有力な医療技術評価機関であるドイツIQWiG(医療の質・効率研究所)から強い批判を受けている。2016年8月12日公表されたコメントでIQWiGは、計画があいまいで、迅速承認アプローチのもとで承認された医薬品が安全で有効であるという十分な保証を提供していないと述べた。IQWiGは拡大計画の中断(pause)を求めた。

 2016年8月初めにEMAが公表した最終レポートは、その対象となる医薬品が適切に選ばれ、すべての関与団体の意見が考慮されているならば、この拡大計画は重要な便益をもたらすと主張している。また、最終レポートは、この拡大計画は既存の承認システムにとって代わるものではなく、すべての新薬の承認に適したものでもないとも述べている。提案されているシステムは、Adaptive pathway (適応力がある経路)とも呼ばれるが、伝染病、アルツハイマー病、消耗性疾患、まれながんなどのように、エビデンス(科学的証拠)がチャレンジ (挑戦、難問などの意味がある)な領域に最適としている。

 試行プログラムでは、企業から62の申請があり、うち18が受諾されたが、それ以外は従来の伝統的な申請によるよう指示された。この拡大計画の最も大きな特徴は、臨床試験データよりも実臨床データの使用にある。そのことで治療薬のない限られた小集団の患者に必要な医薬品を早く届けることが可能になるとしている。

 これに対してIQWiGは、実臨床データを用いて信頼できる結論が出せる方法が示されていないと述べている。EMAは企業秘密により出せない情報があると主張しているが、IQWiGはそれを受け入れがたいと述べている。IQWiGは、拡大計画を中断し全体的なコンセプト(概念)を再考すべきとしている。
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 時代は個別化医療の最適化を求める方向にあり、その点で従来の大規模な臨床試験のやり方とは違った方法論を慎重に科学的に追求していくことの意義はある。しかし、そうした検討を慎重に時間をかけて行うのでなく、安易に承認を早めようとする動きも国際的に顕著になっている。そうした中で公的な医療技術評価機関であるドイツのIQWiGの動きは極めて貴重であり、注視していきたい。(T)

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