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米国では政府が実施の臨床試験の減少と企業実施の臨床試験の増加が顕著

2016-04-19

(キーワード:臨床試験、NIH、製薬企業の影響、公的機関による臨床試験)

 企業よりも公的機関が出資した臨床試験データのほうが信頼性は高いと考えられている。近年、米国では国立予防衛生研究所(NIH)が出資した臨床試験が減少し、企業出資の臨床試験が増加してるという。

 以下にBMJ online (2015年12月18日)の要旨を紹介する。
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 2015年12月の米国医師会誌(JAMA)の分析(※1)によれば、2006年以降、製薬企業が出資した臨床試験は43%増加している。

 一方同じ期間に国立予防衛生研究所(NIH)が出資した臨床試験は24%減少している。NIHが出資した臨床試験が全部の臨床試験に占める割合は2006年には3つに1つであったが、2014年には6つ以上に1つになっている。

 2005年に主要な医学雑誌へ出版する前提条件となったClinical Trials.gov へ登録された臨床試験の数は、2006年の9,321件から2014年の18,400件と約2倍となっている。

 この間に製薬企業出資の臨床試験の全体の数は増加したが割合は減少し、NIH出資の研究は数も割合も減少した。

 製薬企業出資の研究は2006年49.2%(4,585件)、2014年35.6%(6,550件)で、NIH出資の研究は2006年14.8%(1,376件)、2014年5.7%(1,048件)であった。国立がん研究所などの他の米国公的機関の出資による研究は、2006年の2.8%に対して2015年は1.8%だった。

 ジョンズホプキンズ大学のシュテファン・エーアハルト教授は、企業から独立した臨床研究の減少は、財界からの影響を受けない公衆衛生のための情報の質の低下をもたらすと懸念している。企業は塩分ダイエットが血圧を下げるかどうかの研究には決して資金提供は行わないが、自社の新薬を開発するための臨床試験には積極的に資金提供する。「私達はどのように最もよく私達の健康関連の研究予算を割り当てるかについての議論が必要である」とエーアハルトは言った。

 エーアハルトは2006年以来14%減少したNIHの予算が増加することに懐疑的だったが、2015年12月16日、来年のNIH予算が320億ドルから20億ドル増えることが発表された。これはAmerican Association for Cancer Research(AACR)や 他の非営利的な研究組織が要求してきたもので、NIH予算の7%増加に相当する。AACRが行ったがん研究に使用する税金の増加を支持するかどうかの世論調査では、74%が支持すると答え、84%ががん研究出資の持続的な増加を提供した候補者に投票すると答えた。
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 NIHは豊富な予算を持ち、過去に各種ガイドラインに大きな影響をあたえたALLHAT試験など評価の高い臨床試験を実施してきている。

 日本でも米国NIHを参考に日本医療研究開発機構(AMED)が2015年4月に発足したが、予算規模で25分の1,職員数で60分の1と、日本版NIHとはとても言えない。

 また、日本では、治験以外の臨床試験を規制する法律(臨床研究法)さえ、今国会(2016年1月〜)での成立があやぶまれている現状にある。ディオバン事件の公判で明らかになりつつある、企業がやりたい放題の日本の臨床試験の現状に多くの国民が厳しい目を向けるべきであり、医療関係者が自らを律するとともに、企業から影響を受けない臨床研究とそのための実効性のあるルールを医療界が主体となって構築しなければならない。(G.M.)