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医療制度を脅かす新薬の法外な価格設定の是正を

2016-01-12

(新薬の価格設定、決定要因、ニッチバスター、新ビジネスモデル、オーファンドラッグ、根拠の薄いデータでの承認、アダプティブライセンシング)

 個人化医療がいわれる中、国際的にも新薬の安全性・有効性が十分確認されないまま承認される(アダプティブライセンシング)傾向が強まる一方、医療制度を脅かす新薬の法外な価格設定が大きな問題となっている。
 プレスクリール・インターナショナル誌2015年7月号が、「新薬の価格は道理にかなっているのか」のカナダ・カールトン大学公共政策のMarc-André Gagnon准教授の講演を掲載している。以下はその要旨である。
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 スペシャルティドラッグ(専門医薬品)は、それらが通常狭い市場をターゲットにするため別名ニッチドラッグ(隙間的な用途を目標とする医薬品)と呼ばれ、通常非常に高価である。これらスペシャルティドラッグは、医療システムにおけるコスト上昇の主な要因のひとつとなっている。最近の顕著な例は、C型肝炎治療剤ソバルディである。

 スペシャルティドラッグは、処方される医薬品の1%にすぎないのだが、金額的には処方薬費用全体の4分の1以上にも達している。2020年にはスペシャルティドラッグの費用が現在の4倍以上の金額になるとも予測されている。ソバルディは効果がすぐれた医薬品だが、他のニッチドラッグの効果は微々たるものである。例えば、抗がん剤ではしばしば数週間の延命を示すにすぎない一方、重篤な害作用を来たし、コストは年間1患者あたり10万ドルを超える。この価格の高さで、これらの医薬品は、製薬企業の新たなビジネスモデルの中心になっている。

 研究開発の資金として高薬価が必要とはよく言われてきたが、いまや薬価は研究開発費と関係がない。製薬企業は利益を最大にするよう意図している。薬価を決める要素は単純なもので、薬価は売り手と買い手の間のバランスオブパワーに依存する。すなわち、患者と保険システムが支払う意思のありそうな最高額に設定される。

 1990年代から2000年代中ごろまでは、ブロックバスター(大型ヒット製品、年間売り上げ10億ドル以上)モデルが支配していたが、最近10年間は、ニッチバスターモデルへのシフトが進行している。

 新たなニッチバスターモデルのスペシャリティドラッグは、しばしばバイオテクノロジーで生み出され、希少疾患と、さまざまな形のがんの治療を主に意図している。それらは多くの適応を順次獲得したが、そのことで価格は低下せず、合わせて10億ドル以上の売り上げを達成し、「ニッチバスター」の名称を生み、その地位を確かなものとした。

 これらを助長したのがオーファンドラッグ指定である。複数のオーファンドラッグ指定を得るために最初狭い治療対象での承認がめざされ、その後多くの適応獲得がめざされる。グリベックは7つのオーファンドラッグ指定と7つの適応を獲得した。9つのブランドネームがあるインターフェロンは33のオーファンドラッグ指定を獲得した。オーファンドラッグ指定は狭くて特異的な適応でなされ、適応外使用を普通に行われるものとした。

 研究が患者の少ないオーファンドラッグ志向となることで、販売承認を得るために必要なこれまで行政が求めていた要求事項を緩和させようとする圧力が行政にかけられ、そのことが安全性有効性のエビデンスの確認が不十分なまま承認する「アダプティブ(適応性のある)ライセンシング」ないし「アダプティブ経路アプローチ」へと導いている。

 加えて、製薬企業が新しい儲けアイテムとして目をつけている、希少疾患にだけ適応する高薬価のニッチドラッグが医療制度を脅かしている。行き過ぎたニッチバスターモデルは、利益最大化のみをめざした産業研究の限界を示している。今、我々に問われていることは、公衆衛生において真に必要なものを最も適切に満たすために、開発中の薬や治療が支払う価値のあるものなのか、また奨励すべき臨床研究なのかである。ニッチバスターモデルや、新しい治療法だからと言って不相応な金額をつけるなどの金銭的インセンティブは、国民の求める公衆衛生とはもはやほど遠いものとなっている。
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 ここで書かれている高価な新薬が医療保険制度などの医療システムを脅かしている問題はもはや極限に来ており、薬価設定の問題は抜本的な対応が求められている。また、医薬品開発が患者の少ないニッチ医療や個人化医療に向かうことで安全性有効性のエビデンスを十分確認しないまま承認する方向が顕著となってきている。これは医薬品の安全性有効性を確保する上で深刻な問題である。
 今こそ持続可能な医薬品規制・薬価規制を求めて取り組みを強める必要がある。     (T)

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