注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

不適切な多剤療法−減薬の手順−

2015-11-17

(キーワード;高齢者、不適切な多剤処方、デプレスクライビング、減薬)

 JAMA2015年3月15日号に減薬(デプレスクライビング)の手順についての記事が掲載された(※1)。著者らは、高齢者における不適切な処方と害作用のリスクの前兆となる指標は処方された薬剤の数であるとし、減薬を進めるプロトコールの5つのステップを紹介している。以下はその要約である。
------------------------------------
 先進国において、65歳以上の患者の30%が5剤以上の薬剤を処方されていると推定される。そのような多剤療法(5剤を超える定期的処方と定義する)は、高齢患者においては加齢による身体変化のために薬物動態学的かつ薬動力学的反応後の有害事象のリスクが増大する。高齢者に繁用される薬剤の5剤に1剤は不適切で、高齢者ケア施設に暮らす人々の3分の1に及んでおり、進行した認知症患者の介護施設では半数以上が有用性の疑わしい薬剤を受け取り、入院または救急患者の50%が不必要な薬剤を受け取っている。観察研究で、高齢者の約15%に不健康、機能障害、入院につながる薬剤副作用が起きているが、これは処方医の指示の結果なのだ。一人の患者が服用している薬剤の数は、最も単純で重要な害の予測因子である。我々は、デプレスクライビング(deprescribing 注:プレスクライビングは「処方」の意、以下単に「減薬」とする)を、「不適切である可能性のある薬剤の処方を中止する手順」と定義し、臨床において減薬が適用される手順を支持する証拠と、減薬を阻む障壁または可能にするものについても述べる。減薬は年齢にかかわらず多剤長期処方がされているどの患者にも、そしてすべての薬剤−処方せん薬、非処方せん薬(代替薬、補完食品、市販薬)−にも同じ原則が適用されうる。

 減薬を、患者のケア目標、現在の機能レベル、生命予後、価値、選好において、現に存在するか可能性のある害が有用性よりも大きい薬剤を特定し中止する系統的手順と定義する。減薬は、治療の開始から用量の調節または薬剤の追加、変更、薬物療法の中止までを含む、良い処方をし続けることの一部である。適格な患者への効果的な治療を否定するものではない。本来的に不確実性を伴い、意思決定の共有、そして十分に納得したうえでの患者の承認のもとに行う、積極的な患者志向の介入であり、きめ細かい効果のモニタリングである。減薬は、個別薬剤に関連したリスクだけでなく、多剤による薬物動力学的そして薬物動態学的な相互作用による累積リスクも考慮する。 

 我々は、メドライン、シナール、コクランライブラリーの検索により減薬の有用性と安全性をより直接的に示す証拠となる、65才以上高齢者での31の薬剤中止研究(無作為化試験15、観察研究16)のシステマティックレビューと不適切な多剤投与を減らす介入の研究を得た。それらによると、減薬の手順は5つのステップからなり、1)処方されているすべての薬剤についてその処方理由を確認する。2)減薬介入の必要度を決定するために、個々の患者での薬剤がもたらす害の総体的リスクについて考察する。3)個々の薬剤の現在ないし将来の害または負担の可能性と比較して現在ないし将来の便益を評価する。4)便益害比の低さや止めた際の影響の小ささなどから処方を中止する優先順位をつける。5)中止計画を実行し、改善結果または有害作用が現れていないかをきめ細かくモニターする。である。
 
 一方で減薬を阻む障壁は、患者も処方医もその相互作用の中で、限られた診察時間や多数の医師による分断された処方と不完全な情報、あいまいなケア目標、そして特定の薬剤の継続または中止による便益・害の不確実さ、そしてやめたときの影響の頻度は続けたときに起こりうる副作用に比べずっと少ないにも関わらず患者も専門家もより注意を向けているといった臨床の高度の複雑性の中におかれていることだと、これらの研究は示唆している。またもう一つの障壁はガイドラインの推奨−このような患者を除外した試験に基づいた−による圧力だ。

 減薬を進める戦略はこうである。患者は思い切って医師または薬剤師に次のような質問をするべきである。「私の状態における治療のオプションは(薬を使わないことを含む)何か?」「可能性のある便益と害は何か?」「継続服用をやめるのが合理的なものは何か?」と。そして医師や薬剤師は、毎回、患者が他の副作用、望まない作用、入院、関連して追跡している問題を経験していないかどうかを尋ねるべきである。処方医と薬剤師が共同してより必要性が少なく、害が大きい薬剤の見直しをすることは減薬の最初の段階として有用である。個々の患者の治療の便益と害を評価し様々な状態における害の絶対的見積もりをもとに意思決定するのに、予測ツールやエビデンステーブルなどの資材はさらに有用である。最後に、高齢者において特定のクラスの薬を安全に中止するための実践的ガイダンスには簡単にアクセスできる。統合された良い臨床ケアシステムの一部である減薬の戦略を、キーとなるすべての利害関係者で行うことによって、高齢患者のよりよい健康が実現できるであろう。
------------------------------------
 高齢者における多剤療法の害については周知のことであるが、診療報酬による多剤処方の薬剤料逓減制によっても改善が難しい実態がある。以前にも注目情報で、薬物療法を中止する方法について研究結果を紹介しながら論じた論文を紹介した(※2)。そこではデプスクライビング(deprescribing)を「薬物療法の中止」として紹介したが、本論文中では「個別患者のケア目標、現在の機能レベル、生命予後、価値、選好において、現にあるか可能性のある害が有用性よりも大きい薬剤を特定し中止する系統的手順」とする新しい概念として定義づけており、「不適切な薬物療法を適切にする一連の手順であり薬物療法の中止はその一部である」述べられていることから、今回は「減薬」と表現した。

 減薬のスタートはまず不適切な多剤投与を認識することであろう。5剤を超える薬剤を飲んでいたら、患者は「止められる薬がないか」を、医師や薬剤師は「望まない作用が表れていないか」を質問しようという提案は、具体的でわかりやすい。ぜひ普及したいものだ。しかし、その次の段階がおそらく課題であろう。やめて大丈夫という確信が持てないという声が聞こえてきそうだが、ステップ5の「中止計画を実行し、改善結果または有害作用が現れていないかをきめ細かくモニターする」ことによって、減薬を含む適切な薬物治療は実現できるのだということをあらためて強調したい。(N)