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ガイドラインはどのように我々の期待に背くか

2015-04-13

キーワード;βブロッカー、手術時予防投与、データねつ造、誤った推奨

 ガイドラインが密室の中で利益誘導によるつくられるのは終わったこととはいえない。虚血性心疾患を有しリスクの高い外科手術を受ける患者へのβブロッカー投与は、その根拠となったランダム化臨床試験のデータねつ造が判明した。それにも関わらず、ヨーロッパ心臓病学会(ESC)のガイドラインは推奨を維持し続けている。2013年に不正が判明した試験を除いたメタ解析が行われ、手術時のβブロッカー投与は統計的にも臨床的にも有意な死亡の増加を示し有害であった。メタ解析の著者コールとフランシスは間違った推奨の結果多くの命が奪われていると主張する。

 以下にBMJオンライン2014年9月掲載の記事を紹介する。
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 虚血性心疾患のある人がリスクの高い外科手術を受ける時に、βブロッカーを使用すべきだろうか?ヨーロッパ心臓病学会のガイドラインによると、術中の心筋梗塞を予防するという証拠(Evidence Based Medicine)に基づき、使用すべきだという。一方、他のガイドラインは、その確証はなく推奨は廃止すべきであるという。当初はクラス(最も強い推奨レベル)であった。2011年に、根拠となった主たる無作為化試験の信頼性がないとされたが、推奨は保持され最も直近のアップデートにおいてもbクラスに下げたものの推奨はなお維持されている。

 2013年に不正論文を除いたメタ解析の論文が出版された。それによると、有リスク患者における術中のβブロッカー使用は害があり、臨床的にも統計的にも有意に死亡率を増加させた。メタ解析の著者コールとフランシスらは、BMJ(2014;349:g5210) 1)で、患者の最善と公共の福祉となる医療が提供されるべきであるという信念とはあい入れがたい奇妙な出来事を述べている。既得権を持つ集団によって、しかも正当な手続きによらずにつくられるガイドラインが未だに存在しており、その存在自体も隠された秘密協定があるというのだ。科学のよりどころである公開性は一体どこに行ったのだろうか。不正試験の著者らによりガイドラインが主導され根拠に基づくという原則を崩したのだ。ねつ造データに基づいたガイドラインの結果亡くなったと考えられる患者は、80万人に達すると見積もられ、そのうち半数は試験の不正判明後に起きているのだ。この見積もり結果は、注意や警告とともに学会誌EHJに掲載されたが即座に取り下げられた。そして死亡の見積もりが削除された書き換え論文が掲載された。
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 削除されたオリジナル論文はBMJ9月6日号に掲載された 2)。それによるとEHJが彼らの2つの論文の掲載を取りやめた理由は、査読が実施されていないためとのことである。1つめの論文は研究不正の害の威力は、臨床で手術時に誤ってβブロッカーを使用したというような害とは比べものならないほど大きいことを説明したもの、2つめの論文は臨床研究の誤りによる害を最小限にするためのステップについて述べたものだ。1つめの論文ではESCがガイドラインで5年以上も間違った推奨をしてきたことによって本来は死なずにすんだであろう患者数が試算されている。ガイドライン作成メンバーによる査読が行われた結果、死亡の見積もりを削除するようにとのことだった。臨床研究における専門家の失敗はまれであるが、読者がしっかり監視しなければ、機関紙は深刻に受け止めないのだと著者らはいう。航空学では専門家の失敗から、予防し、認識し、研究し学ぶ方法をシステムに導いているが、臨床医学研究にも同様なシステムを開発しなければならないと述べている。
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 ガイドラインが臨床医の処方行動に与える影響は大きい。ガイドラインの推奨レベルにエビデンスの強さを明示されるようになって久しいが、臨床研究の不正はエビデンスレベルの信頼性を大きく損ねる。利益相反と医学研究の不正は密接な関係にあり、産学連携体制のもとで中立性と公開性をいかに確保するかは非常に重要な問題である。臨床現場と患者は常に巻き込まれるリスクと隣り合わせである。

 イギリスの活動家チャールズ・メダワー氏は、1996年9月の「薬務行政の透明性とアカウンタビリティーに関する国際会議」において、「2千年も昔、医学と民主主義がともに古代ギリシャおよびその周辺を発祥の地として生まれたことは決して偶然の結果ではなかった。医学と民主主義は、どちらも人類の発展とその基本的要求に深く関わっており、いずれも自己決定権、個人と社会のあり方などに密接に関係する事柄だったからである。医学と民主主義は、その精神において、互いに分かちがたく絡み合っており、その両者を基本的な意味で脅かすものが秘密主義である」 3)と語った。秘密こそが、民主主義を阻み、また医学の発展を妨げるものである。

 コールとフランシスが指摘するように読者(市民)がしっかり監視することとシステムとしての不正防止のどちらも必要なのだと痛感する昨今である。(N)
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文献
1) Graham Cole,Darrel Francis.Perioperative βblockade:guidelines do not reflect the problems with the evidence from the DECREASE trials,BMJ 2014;349:g5210

2) BMJ2014;349:5448doi:10.1136/bmj.5448(Published 4 September2014)

3) 別府宏圀「医者が薬を疑うとき」亜紀書房(2002年)205頁