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「FDAはヘルシンキ宣言を放棄するな」パブリックシティズンが書簡

2004-09-30

「FDAはヘルシンキ宣言を放棄するな」パブリックシティズンが書簡
  (キーワード:臨床試験、倫理的実施、ヘルシンキ宣言、GCP、ICH)

 2004年9月1日付けで、米国の市民団体パブリックシティズンがFDAに、米国の臨床試
験開始申請手続き(IND)によらずに外国で実施する臨床試験で、被験者を保護するヘル
シンキ宣言を放棄しないよう促す書簡を送っています(※1)。

 パブリックシティズンは、この書簡で、FDAがこれらの臨床試験に対し、ICH(日米欧
医薬品の許認可のための技術要件の調和に関する国際会議)にもとづくGCP(医薬品の臨
床試験の実施の基準)への遵守のみを要求し、臨床試験の倫理的実施のための国際的原
則であるヘルシンキ宣言を蝕ばみ、衰えさせようとする企みを継続していると非難し、
ヘルシンキ宣言を放棄しないよう促しています。

 パブリックシティズンは、FDAの雇用者たちはこれまでもいくつかのヘルシンキ宣言
の原則に対して異論を唱えてきたが、今回のこれらの臨床試験にICHにもとづくGCPガ
イドラインの遵守のみを求める提案を行うことで、FDAの医薬品規制からヘルシンキ宣
言に関する事項を徹底して追放しようとする段階に至ったと記載しています。

 外国で行われる臨床試験の数はこの10年間に大きく増加しましたが、FDAはこれまで
はFDAに承認申請される際に提出される臨床試験に対し、どちらが患者の保護をより行
うものであるかにかかわらず、ヘルシンキ宣言と法律との両方に合致するやり方で行う
よう求めていました。しかし、今回の提案ではこの要求に換えて、ICHにもとづくGCPガ
イドラインの遵守のみを求めています。

 パブリックシティズンは、ヘルシンキ宣言について完全なものではないが、ほぼ民主
的な手続きを踏んで定められたものであること、米国医師会を含む82か国の医師会から
構成される世界医師会の年次総会の前に公式な票決を経て始めて修正される厳密な性格
のものであること、一方これと対照的にICHガイドラインは、米欧日3極の製薬企業代表
と規制当局の6団体の折衝で決められ、患者・市民や発展途上国は含まれていない、そ
ういう性格のものだと記載しています。

 FDAがあげている規制変更の3つの理由と、パブリックシティズンのこれに対するコメ
ントは次の通りです。

 1. 国際的な倫理標準が最近改訂

 これは確かに事実。しかし、改訂にあたりFDAはその多く、とり
 わけヘルシンキ宣言の改訂に反対した。ここにヘルシンキ宣言
 に対するFDAの敵意の源泉がある。とりわけFDAは国内外の臨床
 試験でのプラセボの使用制限に抵抗する中心勢力であった(第
 29条)。例えば、FDAの雇用者は、発展途上国の臨床試験で、命
 を脅かす疾患でしかも有効性がはっきりした既存の承認薬が存
 在するというのに、プラセボの使用に固執した。第29条には
 FDAの反対で、すでに混乱させる注釈が付けられていると言うの
 に、彼らはそれに満足しなかったのである(引用者注 次のサイ
 トのヘルシンキ宣言日本医師会翻訳の「第29条明確化のための
 注釈」参照、※2)。またFDAがその構成部分である米国保健省は、
 試験の結果明確になった効果的な治療法が被験者に提供される
 べきとした、道理のある第30条にさえも反対したのである。

 2. データの質の保証

 われわれは、この目標を共有しているし、ICHのGCPガイドライ
 ンがめざしているものを否定するものでもない。しかし、ICH
 のGCPガイドラインは質を保証するためにデザインされたもの
 であり、倫理については必ずしも関心を寄せたものではない。
 例えば、ヘルシンキ宣言で明記されている利害の衝突や試験結
 果の公表の必要性についてはGCPガイドラインには記載がない。
 このようにGCPとヘルシンキ宣言は相互に補完しあうものである。

 3. ヘルシンキ宣言はFDAの独立性に影響

 FDAは、どの改訂も米国の法律や規制にとって替わるものでな
 いことを知っているはずである。ICHがGCPガイドラインに影響
 を与え、FDAの規制も多分影響を受けるのもありうることである。
 要するにこれは理由にならない。
                      (T)