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英国NICEは、ノバルティス社 の乳がん治療剤のNHSでの使用をPFSデータでは不十分と却下

2013-12-03

(キーワード:アフィニトール、エベロリムス、分子標的薬、全生存期間、無増悪生存期間、保険償還)

 アフィニトール(一般名:エベロリムス)は、ノバルティス社が開発した分子標的薬と呼ばれる抗癌剤で、日本では腎細胞癌や膵神経内分泌腫瘍などの適応があり、乳癌、悪性リンパ腫、胃癌等へ適応拡大のための臨床試験が進められている。

 分子標的薬は、各種癌に対して高い有効性が期待されるものの、臨床試験では全生存期間(OS、※1)の延長が認められものは少なく、代理エンドポイントとされる無増悪生存期間(PFS、※2)の延長が認められることで承認される薬剤が多い。

 医療技術評価(HTA)に基づく医薬品評価が定着しつつある欧州諸国では、こうした医薬品が高価であることもあり、保険償還について厳しい判断がされている。

 以下は、アフィニトールに対する英国NICE(国営医療技術評価機構)の厳しい評価を伝えるスクリップ誌(2013年9月6日号)の要約である。
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 英国NICEは、ノバルティス社の乳がん治療剤アフィニトールを、限りあるNHS(国民医療サービス)財政で用いるのは適当でないと語った。NICEは、同剤が全生存期間(OS)の延長 について十分な情報がないと語った。

 アフィニトールは、OSの延長傾向は示したものの有意な差ではなかった。

 ノバルティス社はHER2発現のないホルモン感受性の閉経後進行乳癌に対して、アフィニトールとファイザー社のアロマシン(アロマターゼ阻害剤=ホルモン療法)の併用で無増悪生存期間(PFS)が2倍になったことを証明した。

 アフィニトールは、その作用機序からホルモン療法に対する抵抗性を改善させる期待もある。

 NICEは、同剤がPFSをアロマシン単独と比較して4.6ケ月延長したことは認めているが、OS延長の情報が不十分なため、同剤が長期間のベネフィットを有するかどうかはわからないとしている。

 これらは、医薬品承認庁とHTA(医療技術評価)組織が求めるエビデンスが異なることを示している。NICEは、最近にもファイザー社の肺がん治療剤ザーコリ(一般名:クリゾチニブ) のNHSでの使用を今回と全く同じ理由で却下している。また、アフィニトールは、最近、バイエル社のネクサバールに抵抗性となった進行肝細胞癌に対する臨床試験でも、主要エンドポイントであるOS延長を証明できなかった。その後、ノバルティス社はOS延長を証明することに積極的ではなくなってきている。
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 全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)をどう評価するのかについての議論はあるにしても、短期間で結果が出せるPFSによる抗がん剤の承認は製薬会社にとって都合の良い評価指標である。また、患者にとっても治療に使える抗がん剤の選択肢が増えることは間違いない。このため、こうした厳しい評価をするNICEはこれまでも製薬会社や患者団体から厳しい批判にさらされてきた。しかし、欧州の医療技術評価(HTA)を行う政府機関は、今後もますます新薬の評価に厳しく臨んでいくようである。(G.M)


※1 全生存期間(OS)
無作為割り付けの時点から理由を問わず死亡するまでの期間。がん以外の理由による死亡であっても含まれる。明確で測定が容易だが多くの被験者数を必要とし結果を得るのに時間がかかる。患者が別の治療に乗り換えることもあり結果の評価が難しくなることもある。

※2 無増悪生存期間(PFS)
患者をいずれかの群に無作為に割り付けた時点から、その患者の癌が再び増大するか、患者が癌によって死亡するまでの期間。被験者数が少なくてすみ、追跡も短期間でよいという利点がある。しかし、評価バイアスが生じやすく、評価間隔をどう設定するのかが結果に影響する等の問題点がある。

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