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臨床試験の報告は、まだ危険なほどに不適切で、組織的な強制メカニズムが必要

2013-05-07

キーワード:臨床試験登録 臨床試験情報検索(ポータルサイト)ICTRP 出版バイアス 

 臨床試験登録制度は、試験参加者への研究者の義務(※1)として、また臨床試験の透明化をはかり、無効な試験結果が報告されない等の出版バイアスを防止し、より質の高いシステマティックレビューの実施に寄与(※1)するために重要である。
 注目情報では、これまでも、臨床試験の報告に関する情報を紹介してきた(※2、※3)。ここでは、BMJが臨床試験報告に関して手厳しく批判している7つの論文を掲載したことを伝えるスクリップの情報を紹介するスクリップ(2012/1/13(※4))。
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 論説によると、それらの論文は、臨床試験で得られたエビデンスはかなりの割合で報告されておらず、報告されていても不適切であると述べている。このことは、患者にとっては不必要な害をもたらし、ヘルスシステムにとっては不必要な費用をもたらす。それらは完全な参加者データの遡及的な公表と、臨床試験の全ての生データについてグローバルに共有できるデータベースを組織化する強固な実行機構を要求し、WHOの国際臨床試験登録プラットフォーム(ICTRP)ポータルサイトに続く、理想的なステップとして提案している。

 米国では、2007年のFDA再生法で、臨床試験結果のサマリーを12カ月以内に公表することを義務化したが、2007年9月現在、臨床試験登録システムでの断面調査では、報告のコンプライアンスは、22%に過ぎない(米国臨床試験登録システムにおける義務的報告のコンプライアンス;Preyleら)。

 また、2005年から2008年までの公的資金を受けた研究に関する調査では、試験の完了の30カ月以内にサマリーの報告に従わなかったケースは半分以上にのぼる(米国臨床試験登録システムにおけるNIHの公的資金による試験に関する報告;ロスら)。

 ハートらは、医薬品の有効性評価に関して、FDAの非公表試験データを含む42のメタアナリシスを再分析した結果、46%(19件)は有効性が低く、7%(3件)が同等、46%(19件)で有効性が高かった。医薬品のアウトカムを評価するメタアナリシス分析では、非公表データを含む場合、その結果はリアルであり、より大きな悪影響をもたらす(医薬品試験のメタアナリシス分析における報告バイアスの影響:メタアナリシスの再分析;ハートら)。

 ウイーランドらは、ランダム化比較試験と称している少なくとも3000のレコードが、そのような索引化をされずに2006年から2011年のメドラインに含まれていたことから、ヘルスケアに関してランダム化比較試験を検索する場合、非公表で索引化されていないことが多く、検索における重要な根拠を見誤ることを警告した(ランダム化比較試験による根拠がなぜメドラインから検索できないかを理解する;索引化されたデータと索引化されていないデータの比較:ウイーランドら)。彼らは、コクラン共同計画が、再索引化プロジェクトを再構築することを検討すべきだと提案する。

 2007年から2009年に公表されたランダム化比較試験に関して介入が有効か否かを調査した31のメタアナリシスを分析した研究では、グレー文献(非公表の研究)からの個々の参加者データが9件(29%)に含まれており、出版バイアスの可能性を考察・調査したものは10件(32%)のみ、16件(52%)は要求された個々の参加者データのすべてを得ておらず、9件(29%)のメタアナリシスにおいては、選択バイアスの可能性があった(出版バイアス、選択バイアス、個々の参加者データを使用したメタアナリシスにおいては不可能なデータ:データベース概説:アームトら)。
An-Wen Chanは、包括的で質の高い情報は、全プロトコール、臨床試験報告、生データを含む全試験が一般公開されたものであるが、多くがそうなっていない。検索され得る、大量の非公開の試験情報を総括する厳格な方法を発展させる必要があると指摘する(思考的でなく、視覚的に;如何に非公表の臨床試験の根拠を検索するか:アンーウエン チャン)。

 臨床試験情報へのアクセスの進歩のみが、健康への介入のシステマティック評価を、より正確で、効果的で、患者ケアに信頼できるものにする。

 論文に答えて、英国バイオ産業協会(BIA)のグリンエドワードは、「BIAは、それがポジティブであろうと、ネガティブであろうと、中間であろうと、しかるべき時に、すべての臨床試験結果を公表すべきであると信ずる。人は、ネガティブな研究結果を公開することに不熱心だが、産業、研究、報道の各界は、すべての結果を公開する責務を持つ。」と述べている。
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 2005年1月、WHOの国際臨床試験登録プラットフォーム(ICTRP)プロジェクトがスタートし、その直後の同年3月に、当会議は、すべての臨床試験の登録を求める「臨床試験登録制度の創設と、医薬品の承認審査に関わる非臨床及び臨床試験データの公表を求める要望書」を医薬品・治療研究会、医薬ビジランスセンターと連名で厚生労働省に提出した。

 日本でも、WHO Primary Registries Networkに認定された日本臨床研究登録機構(JPRN)が構築されているが、研究者のみならず、患者や医師の認知を高め、臨床試験情報の活用が進むことで登録制度の実施が徹底することを願う。

※1 松葉尚子,津谷喜一郎;「WHO技術諮問会議・臨床試験の登録基準」参加報告,薬理と治療,33(6)560-566(2005)