注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

タミフルデータの公表に関するNICEの対応をBMJが厳しく批判

2013-04-02

(キーワード:タミフル、全臨床試験データの公表)

 BMJは、臨床試験の全データ公表を促すキャンペーンの一環として、タミフルデータの公表問題について、NHS(英国保健福祉省)のもとで医薬品や医療機器の評価と指針作成を担うNICE(国立医療技術評価機構)に対し、データが公表され評価し終わるまで、タミフルの有効性を前提としたインフルエンザ治療指針(★1)(※1)を取り下げるよう要請した。BMJ編集長は、タミフルを評価する時点でNICEはデータを要求すべきであったとNICEの評価時の対応を厳しく批判した。NICEは、再調査中であり、指針の取り下げには応じられないと答えており、今後の進展が注目される。

 BMJ電子版の記事を紹介する(BMJ電子版2012年12月11日(※2))。
------------------------------------
 BMJの編集長Fiona Godleeは、BMJが行っているデータ公表キャンペーンの最終行動として、NICEに対して、タミフルの全臨床データを受け取り、評価し終わるまでは、タミフルの指針を取り下げるよう書面にて要求した。Godleeはその書面で、NICEがタミフルの承認を決定する際に、ロシュに全臨床データを要求すべきであったのにそれをせず、現状との妥協だと指摘した。ロシュは、欧州では、タミフルは気管支炎や肺炎のような合併症の発生率を減少させたと主張できたが、米国では、FDAがより完全な評価を行い、合併症の発生率を減少させる根拠を見出さなかった(★2)ため、そのような主張ができなかった。インフルエンザシーズンの到来に伴って、NHSは公的な評価から完全に隠された薬に数億ポンドを費やすであろうと述べた。

 NICEの責任者Rawlinsは、タミフルの評価について再調査しており、もし追加データにより、タミフルの使用指針を支持する結果となった場合、インフルエンザ治療薬であるアマンタジン、タミフル、ザナミビルの指針を取り下げることは、患者に損失を与えることになり、適切ではないと述べた。

 加えて、NICEに証拠を提出する企業の医療ディレクターは、評価に必要な全情報を当局に公表したことを確証する宣言にサインすることが求められている。もし医療ディレクターが故意に関連データの公表を控えたとなれば、そのことをGMC(英国医事委員会)(★3)に通報すると語った。

 コクラン共同計画の評価者は、少なくとも123件の試験が公表されておらず、EMA(欧州医薬品審査庁)に提出されていないと語る。

 疫学者で、インフルエンザの阻止と治療に関するノイラミニダーゼ阻害薬のコクランレビューの筆頭著者であるTom Jeffersonは、EMAに対して、ロシュが隠しているデータを要求するよう申し入れた。
------------------------------------ 
 企業は、NICEの要求にもとづき、そのプロセスに従っていると弁明している。英国では、国会にNICEの責任者Rawlinsが招集され、企業に対して全臨床試験データを公表させるよう圧力をかけるべきだと追求されている。

 国会議員Sara Wollastonは、NHSはNICEの評価に基づいてタミフルに5億ポンドを支払ったが、タミフルの第Ⅲ相臨床試験データの60%が隠されたままであるとするコクラン共同計画の指摘を取り上げてNICEを追求した。NICEは、データを隠していることが判明すれば、指針の見直しを行うと答えているが、法的に内部情報の公表を求めることは困難とし、EMAの指示のもとで企業が提出した全臨床試験を評価しており、企業は全データを提出しているとみなしているとの見解を述べている(※3)。NICEの今後の対応が注目される。

 疫学者Tom Jeffersonは、に対して隠されているデータの公表を促すよう求めたが、欧州医薬品庁は如何に対応するであろうか?(N.M)


★1 NICEが情報提供する“NICE技術評価指針58”「インフルエンザ治療におけるアマンタジン、オセルタミビルおよびザナビル」の項で、ウイルス学的にインフルエンザ感染症が確認された地域では、呼吸器感染症等のリスクを持つ患者で症状発症後48時間以内にある感染者にはオセルタミビルとザナビルが推奨されるとしている。

★2 FDAはタミフル承認時の評価として、タミフルの効果はインフルエンザ症状を1.3日短縮するのみであり、合併症や重症化を抑える効果を評価するにはデータが不十分であるとしている(※4)。

★3 General Medical Council(GMC):英国における医師資格の登録を管理する組織。適切な医療実践を確保し、市民の健康と安全を守り推進することを目的に、医師の生涯教育の推進、専門医認定、法的権限による医師に関する苦情等への対処も行う。(※5)