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副作用報告は各国を介さずEUに直接報告 −プレスクリールが厳しく批判

2012-08-23

(キーワード: 副作用報告制度、EUに直接報告、新GVP、プレスクリール批判)

 EU (欧州連合) の新たな医薬品監視法規が2012年7月のはじめに発効した。EUにおける医薬品の規制では1995年以来の最も大きな変化であり、医薬品の安全性とベネフィット-リスクバランスを監視するシステムを強化するとしている。
このなかで従来は各国での検討を経てEUに報告されていた副作用報告を、直接EUに対して行うよう改められる。これについては案が示された段階でISDB (医薬品独立情報誌国際協議会) とMEF (欧州医薬品フォーラム) が2009年に反対声明 (※1) を出していた。
 BMJ誌電子版2012年7月9日号が「新たなEU医薬品安全性委員会が医薬品反応の各国での報告を終わらせる」との記事を掲載し、プレスクリール英語ウェブサイトが「患者の安全性を強化する機会を逃す: 樹を見て森を見ない」と題して、2012年7月19日にこのBMJ記事へのコメントを掲載している (※2)。以下はそれらの要旨である。
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BMJ誌記事
 2012年7月のはじめに、EUにおいては1995年以来のヒトに用いる医薬品の規制の最も大きな変更がなされた。新たな医薬品監視法規が発効し、医薬品のベネフィット-リスクバランスを監視 (モニタリング) するシステムが強化される。医薬品安全性問題の評価とコミュニケーションに焦点を絞る新たな医薬品監視リスク評価委員会が設置され、7月19日に初会合をもつ。規制庁の役人、独立した科学専門家、患者、医療専門家で構成される。
 EUでは年に19万7千人が医薬品の副作用で死亡していると推定されており、委員会はこの被害者の減少をめざす。将来はすべての副作用報告をEUのEudraVigilanceデータベースのみに行うようになる。リスクの低い副作用や長く用いられている製品は、特に問題が起こらなければ副作用報告の必要がない。
新法制では企業に市販後の安全性・有効性試験を求める権限が強化される。法制は患者への情報伝達と患者の医薬品監視への参加の強化を図っている。法制は承認審査の透明性を増加させる。医薬品監視リスク評価委員会の議事予定と議事録が情報公開される。

プレスクリール英語ウェブサイト
 BMJ誌の論説は、各国での副作用報告を止め、EUに直接集中することを進歩として受け止めている。しかしプレスクリールは注意深い検討が必要と考える。
 EudraVigilanceはICH(日米EU医薬品規制国際調和規制会議)の用語(MedRA辞書)を使用して、疑いのある医薬品副作用をコード化して集約した巨大データベースである。実際的に、臨床的な重要性をもつ自発報告が抜け落ちる危険性があり、その結果データが過小評価されたり、誤って解釈される。疑いのある副作用を直接EUに報告するのでは、患者集団の用いる言語や生活スタイルに近い各国の専門家の目にふれさせることなく、それらの副作用を報告した患者から更なる情報を得ることも困難になる。このことがデータの正確な分析と解釈を妨げる。また、巨大なデータが蓄積される製薬企業に過度に依存し、行政当局は製薬企業が評価しまとめたものを評価するのでは、行政として行わねばならない意思決定にゆがみをもたらす。
 新たな医薬品監視リスク評価委員会についても、同様なことが言え、その役割は単に推奨をするという限られたものとなる。公共の資金による医薬品監視を止め、その財源を企業に全面依存することは、EUの医薬品監視の財政的また情報面での独立性を危うくする。
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医薬品の副作用報告・評価のシステムについては、世界的に由々しい方向が進行中である。公共の臨床試験が少なく、ほとんどの臨床試験が製薬企業に依存して行われている現状がある。そうした中で副作用など重要な情報は製薬企業に集中する。このことで製薬企業こそ適切な総合判断ができるとして、製薬企業の判断に過度に依存し、行政が情報のノイズと大きな仕事量を避けるためとして、例えば副作用報告は製薬企業が副作用でないとするものは報告しなくとも良いとするなどの傾向である。そのようなことはイレッサやタミフルでみるようにかつては日本で顕著であったのだが、ICHなどを通じ国際的に拡大されつつあり、警戒が必要である。 (T)