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公共研究へのフリーアクセスを終わらせる法律を米国の出版社団体が議会に提出させた

2012-06-07

(キーワード: 公共資金研究、フリーアクセス保証、撤廃への働きかけ、出版社団体)

 米国では、公共資金で行われた研究の成果は、国立医学図書館の電子ライブラリーであるパブメドセントラルで公表し、市民が無料でアクセスできるよう政府が定めている。ところが、2011年12月これをひっくり返す法案が最大の医学系出版会社であるエルゼビアなどの後押しのもとに議会に提出された。2012年1月17日のBMJ電子版が、研究者はこの法案に反対する動きを強めようとの記事を掲載している。以下は、その要旨である。
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公共資金で実施した医学研究への米国政府のフリーアクセス保障を終わらせようとする法案が、出版会社の後押しのもとに2011年12月16日に議会に提出された。
 このフリーアクセスの保障は2008年に国立衛生研究所が定めたものだが、これを廃止しようとする学術専門出版社団体は、研究成果法(The Research Work Act)(※1)という、370語の短い法律を、議員を通じ議会に提出した。
 フリーアクセスの内容は、政府出資医学研究の成果について国立医学図書館ウェブサイトであるパブメドセントラルへの公開を義務づけたものである。同様の施策は英国でもとられている。
 フリーアクセスを終わらせようとする今回の法案は、多くの人々が税金の二重払いだと反発している。ハーバード大学アラン・ガーバー学長は、ホワイトハウス科学技術政策オフィスへの書簡で、急迫するアクセス危機は研究における膨大な公共投資の回収を脅かすと警告している。
 この3年間、エルゼビアと米国出版協会は、ワシントン特別州で630万ドル以上を費やして議員・議会を対象とするロビー活動を行ってきた。全部とは言わないまでもそれらはフリーアクセスを終わらせることを主目的としたものであった。
 このような法案に、研究者は反対する取り組みを急いで強めねばならない。
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公共資金、すなわち市民の税金で行われた研究の成果に市民が容易にアクセスできることは、民主主義の基本や科学技術成果の市民への還元の基本である。日本は、公共資金で行われる厚生労働科学研究、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)については、成果の電子媒体での提出が進むのに応じてインターネットでの提供がなされる方向にある(※2,3)。しかし、米国のように大規模な臨床試験が公共資金で行われること(※4)自体がない。
日米の公共資金の活用状況は違うものの、この米国での動きをわれわれは対岸の火事とするのでなく、注視する必要がある。  (T)
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