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アステラス社、プレスクリール誌がプロトピックを中傷したと裁判を起こしたが敗訴

2011-10-20

(キーワード:公共の利益、批判的分析、情報提供の自由)

国際的に知られているフランスの独立医薬情報誌プレスクリールは、2011年3月2日にパリ法廷がアステラスの訴えを退けたと伝えた。この訴訟が起こったのは2011年1月のことである。プレスクリールでは、これまで何度も繰り返しプロトピックについてその危険性をとりあげ、臨床医に対しては使わないよう警告し、規制当局(欧州、フランス)に対しては、適応を拡大すべきでないと訴えてきた。英国医学雑誌(BMJ)は2011年1月11日号で、フランスの独立誌プレスクリールが、プロトピックの適応拡大を批判したことで提訴されたと報じ、同誌は創刊以来30年間で、数回このような挑戦を受けてきて、これまで一度も負けたことはないと紹介していた。
アステラスの訴えを退けたことを報じたプレスクリールの2つの記事と、問題となってプレスクリールのプロトピックに関する2つの記事(英語版掲載)を紹介する。


アステラス敗訴〜パリ高裁の裁定

(1) アステラス敗訴[プレスクリール2011年3月2日号]
プレスクリールは2009年の新効能製品のコーナーで、プロトピック軟膏(一般名;タクロリムス)は危険性と有効性のバランスが好ましくないとして、アトピー性皮膚炎に用いないよう呼びかけたが、アステラス社はこれを、プロトピックを中傷するものだとしてプレスクリール誌を提訴していた。これに対してパリ法廷は、プレスクリール誌は自ら設定した公共の利益と医療の安全性という目的のために批判的分析を行ったのであり合法的な範囲であると、裁定を下したのだ。

(2) 論説「情報提供の自由」[プレスクリール英語版2011年7-8月号]
パリ高裁の判決は、プレスクリール誌には情報提供と批判の自由があり、適切な臨床データを徹底的に解析することにより行使したのだと指摘した。患者は、医師が質の高い医療ケアを提供するのに必要な情報を入手できるのだと確信できる、このような法的判断を歓迎するだろう。製薬企業による吟味されていない情報や、ただ規制当局の結論だけに基づくのでない、独立した情報を入手できることで、医師は、患者がもっとも有用な治療方法を選択するための情報を提供することができるのだ。ある医薬品が危険性と有用性のバランスに欠ける時、あるいはそれを規制当局が市販承認を与えたとしても、独立的した適切な情報を受け取り続けることができる。プレスクリールチームは、これからも医薬品の評価データを正確で総合的な独立した検証を行い、医療専門家に提供し続けるであろう。目的は、患者の幸福を最優先においた質の高い医療を保証することだ。

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プロトピックの分析記事

(1) 外用タクロリムスとがん −使うな− [英語版2009年6月号]
フランス保健製品安全庁が湿疹用外用薬タクロリムスに関連したがんのリスクについての調査結果を発表した。製薬会社からは171症例の悪性リンパ腫と様々な場所に発生した各種の固形がんが報告されたが、因果関係の評価は症例によって異なり、一般人口との比較については情報が乏しい。報告によると、22人に皮膚T細胞リンパ腫が発生し、2人は小児であった。2007年9月時点での皮膚悪性リンパ腫の発生頻度は1年に人口10万人あたり1.75人、臨床試験に参加した患者では25人、一般人口においては0.5人だったため、より強固な証拠の提供のために10年間の国際的なコホートスタディが組まれたとしている。しかし、アトピー性皮膚炎の治療において、タクロリムスがステロイド剤よりも優れているという証拠は何もないということは既知のことである。危険性と有効性のバランスが悪いのだ。患者の利益を考えるなら、タクロリムスを使うなということだ。再評価待つ必要も、規制を遅らせる理由もない。

(2)プロトピック軟膏〜あまりに多い不明なこと −許容できない− 
[英語版2004年6月号(フランス語版2003年12月号)]
アトピー性皮膚炎の悪化に対する薬物療法は、原因物質の除去や保湿等のスキンケア対策が十分でないと判断されるときにのみ考慮されるべきである。第1選択は外用ステロイド剤である。
タクロリムスは、経口で移植臓器の拒絶反応予防のため用いられている免疫抑制剤だが、アトピー性皮膚炎の治療用に2段階の濃度で市販された。外用タクロリムスは、外用ステロイド剤が無効の2歳以上の患者に許可されている。成人への比較試験によると、タクロリムスを第1選択で使用した場合、クラス供覆箸討盒い)の外用ステロイド剤に比べて有効ではなかった。いくつかの臨床試験では、成人、小児とも、軟膏基剤のみを用いた場合(以下基剤)よりは有効であった。成人では、0.1%製剤は0.03%製剤よりはわずかに効果があるようだ。外用ステロイド無効例にタクロリムスが有効であるかどうかは不明である。
タクロリムスと基剤の比較試験での主な全身性副作用は、インフルエンザ様症状、頭痛であった。局所性副作用は、50%の患者で塗布部位のやけど様症状やかゆみがあった。これらは、タクロリムスと基剤の両方によるものである。重症の皮膚感染症、皮膚がんは、重大な副作用から除外するべきではないが記載されていない。タクロリムスは、皮膚から吸収されて全身性の作用と薬物相互作用を起こす。実際、重症であっても、アトピー性皮膚炎の患者に対しては、少なくとも(現在実施中の試験において)外用ステロイド剤無効の症例に有効であることを示さない限り、タクロリムスを使用する根拠はない。
結論は、外用ステロイドに反応しないアトピー性皮膚炎の患者にタクロリムスが有効であると示す根拠がなく、重大な副作用の可能性の記載も不十分である。
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わが国では、プロトピック軟膏(0.1%)は1999年6月に承認され、さらに2003年7月には小児のアトピー性皮膚炎に対して0.03%製剤が承認され12月に発売となった。
2003年5月に薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会で了承との情報を受けた直後の6月、当会議は、プレスクリール誌と同様、危険性と有効性のバランスが悪いことや情報提供が不十分であることなどを指摘し、緊急要望書を提出、藤沢薬品工業(当時;現アステラス製薬株式会社)、薬事食品衛生審議会および日本皮膚科学会に対する公開質問書の提出、患者向けのQ&Aの公開などに取り組んできた。プロトピック軟膏の危険性、問題性は、いっそう明らかであろう。
パリ高裁がプレスクリール誌の記事は、事実に基づかない誹謗中傷などではなく、公共の利益、医療の安全確保という発行の目的、読者の期待に合致した、合法的な批判的分析であり、厳格に十分に分析した文書であると認め、情報提供の権利があるとしたのは注目すべきことである。
アステラス社がプレスクリール誌の分析記事を誹謗中傷であると提訴したことは、自社の利益のみに執着し、言論の抑圧を意図したのだということを、露呈させた。産官学連携がますます強化され、論文の科学性・倫理性が厳しく問われている中、患者の幸福を最優先においた独立情報誌は、患者と、患者の利益の側に立つ医療専門家にとってかけがえのない存在といえよう。(N)