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ファイザーの抗がん剤マイロターグが米国で販売中止

2010-11-02

(キーワード:抗体医薬、抗がん剤、マイロターグ、米国、販売中止、日本、販売継続)

 マイロターグはCD33陽性急性骨髄性白血病(AML)治療剤で、ゲムツズマブという抗体にカリケアマイシンという抗がん剤を結合させた遺伝子組み換えタイプの抗体医薬である。抗がん剤を運搬役の抗体の力を借りて白血病細胞に送り込もうという「ミサイル療法」とも呼ばれる発想から生まれた新薬である。
 2010年6月21日、米国食品医薬品局(FDA)(※1)とファイザー社(※2)はマイロターグの米国市場からの撤去を発表した。これを受けファイザーの日本法人は6月22日に、日本における対応については専門家・行政と協議の上決定する予定とプレスリリースした(※3)。か。なお、報道によれば厚生労働省は11月2日の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で、マイロターグの安全対策などについて議論する(※4)。以下はFDAのプレスリリースの要旨である。
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 ファイザー社は2010年6月21日、骨髄のがんである急性骨髄性白血病(AML)治療剤マイロターグ(Mylotarg、ゲムツズマブオゾガマイシン)を米国市場から自発的に撤去すると発表した。同社は、最近の臨床試験成績がマイロターグの安全性について新たな懸念をもたらしたことと、マイロターグが臨床試験に参加した患者において臨床的な利益を証明することに失敗したことで、FDAの求めに応じてこの措置をとったものである。
 マイロターグは、2000年5月FDAの迅速承認プログラムのもとで承認された。このプログラムでは、FDAは他に代替治療のない重篤な疾病を治療する薬剤を、臨床的な利益に替わる臨床検査値などの代替エンドポイントに基づいて承認できる。企業は、市販後に追加して実施する臨床試験で医薬品の臨床的な利益を証明することが求められる。企業がそのことに失敗、ないし誠実にその試験を行わなかった際には、FDAは手続きに従ってその医薬品を市場から撤去することができる。
 マイロターグは、3つの臨床試験で142名の患者において観察された奏効率(臨床検査での白血病の減少または消失のパーセンテージ) の代替エンドポイントに基づき、他の化学療法が適応でない60歳以上の再発性の急性骨髄性白血病患者の治療剤として承認された。
 要求された市販後臨床試験はワイス(現ファイザー)により2004年に開始された。この試験は標準的な化学療法に併用されたマイロターグが臨床利益(生存期間の延長)を示すかどうかデザインされた。しかし結果は臨床利益がみられず、化学療法単独群に対しマイロターグ併用群で死亡者が多かったため、早期に中止された。
 また承認時にマイロターグが静脈閉塞疾患と呼ばれる重篤な肝臓障害をもたらすことがわかっていたが、その発生割合が市販後において増加した。
 市場撤去の結果、今後の米国におけるどのようなマイロターグの使用もFDAに対し研究用新薬(IND)申請を行わなければならないことになる。
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 マイロターグは、毒性の強い抗がん剤を標的とするがん細胞に送り届けるために、急性骨髄性白血病細胞の表面に存在するCD33と呼ばれるたんぱく質と結合する抗体を運び屋として利用した薬剤である。ワイス社が開発し、この種の新たな発想による薬剤の先駆けとして米国で2000年5月に承認された。
 日本では2005年に承認され、がん細胞に特異性の高い「分子標的薬」として世間の注目を浴びた。しかし、情報公開された承認書類を詳細に検討した鈴木律朗(名古屋大学・医・造血細胞移植情報管理学)・上昌弘(東京大学医科学研究所)らは、International Journal of Hematology誌2006年2号(84巻188ページ)に「マイロターグは“Magic Bullet”(“魔法の弾丸”、がん細胞に特異性の高い特効薬)ではない」と題する投稿をした。鈴木らはマイロターグが多くの人たちが想像する標的とするがん細胞だけに作用する薬剤ではなく、臨床使用に当たってはその毒性・害作用に注意を払うよう警告した。
 
 米国で市場撤去になった理由では有効性の問題とともに、死亡の増加、重篤な肝臓障害の増加という安全性問題がポイントとなっている。患者の安全がかかっていることから、日本でも販売を一時停止して精査すべきであろう。
 いまひとつは、迅速承認の際に付された承認条件のフォローの問題がある。
 マイロターグは米国で2000年5月、市販後に代替エンドポイントでなく患者の臨床利益(真のエンドポイント)で効果を証明するようにとの承認条件のもとに承認された。しかし、企業の試験開始は2004年と大幅に遅れ、そして今回の承認後10年を経過しての市場撤去となった。米国では試験がもっと迅速に行われればマイロターグの害作用による多くの死亡が救われたとの批判がなされている。迅速承認における承認条件のフォローに腰が重く政府説明責任局(GAO)に批判されていたFDAであるが、今回のマイロターグについで患者の臨床利益を証明する試験をクリアーできなかった低血圧治療剤ミトドリンにも市場撤退を提案するなど、積極的姿勢に転じている(※4)。
 一方日本では、同じく代替エンドポイントで承認され、患者の利益(真のエンドポイントである生存期間の延長)を証明する試験の実施を承認条件とされていたイレッサが、それに失敗しても厚生労働省は何の措置もとらず、見解すら示すこともないという状況にある。承認条件を付して承認した薬剤の承認条件の遂行状況を情報公開するとともに、それが達成されなかったり、試験の実施がされていない場合には厳しい姿勢で対処すべきであろう。    (T)


※4 日刊薬業2010年10月19日報道