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ランダム化比較試験の早期中止は効果の過大評価をもたらす

2010-06-28

(キーワード: ランダム化比較試験、中間解析、早期中止、過大評価)

 治療の有効性を確認するために行われるランダム化比較試験は、予定された期間を完了せず、研究が途中で中止(いわゆる早期中止)されることがある。これ以上研究を継続しても効果は確認されないだろうと予測される場合や、予期していなかった有害事象が発現したために試験継続が困難になる場合など、理由はさまざまであるが、試験薬の効果が対照薬やプラセボよりも大きく勝ることが期間の途中で判明し、予定よりも早く中止される場合もある。
 効果が確認されて試験が中止されるのは、効果なしや有害事象のせいで試験中止になるよりは、よいことだろうか? 効果が確認されたのだから、試験を中止すれば、(1)それ以上の患者に被験者になってもらう必要がなくなる、(2)効果が劣ると思われた対照薬やプラセボの投与を受けていた試験参加者は、より高い効果が期待される試験薬を服用できるようになる、(3)試験結果が新薬の承認につながれば、その新薬を待ち望む患者により早く届けることができる、(4)企業は臨床試験にかける費用を節約できる、などなどいい事ずくめのようにみえる。しかし本当にそうだろうか? このようなことが現実となるのは、その早期中止された試験の結果が、治療の真実の効果を示している場合である。もしもその臨床試験結果が間違っていたなら、真実の効果を示せていなかったとしたらどうだろうか。本当は効果があやしい薬が承認され、あるいは効果のない薬がより多くの患者に投与され、さらには、試験を継続していれば試験期間中に見つかっていたはずの有害作用が市販後に見つかることになり、その頃にはより多くの患者さんが使用していてより多くの被害をもたらしているかもしれない。
 このランダム化比較試験の早期中止とその影響に関する問題は、臨床試験専門家の間では古くから指摘されてきており、統計学的な手法で対処するなど対策は検討されているが、決定的な解決策は見出されていないのが現状である。2007年10月の注目情報でも、早期中止されたランダム化比較試験結果は試験薬の効果を過大評価しており、真実の効果を表していないとする論文(※1)を紹介した。今年3月の米国医師会雑誌にも、同様の問題指摘をするゴードン・ガイアット(カナダ マクマスター大学)らによる論文が掲載された。以下にその要約を紹介する。
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 著者らは、63種類の医療介入(薬物療法、非薬物療法の両方を含む)の効果を検証したランダム化比較試験について、効果が確認されたとして早期中止された91試験と、早期中止せず予定期間を完了した424試験を比較した。試験が行われた年代、心疾患・AIDS・神経疾患など治療対象の種類、薬物療法かそれ以外の治療か、試験の資金提供者が企業か非営利団体かなどについては、早期中止した91試験と試験期間を完了した424試験の間で特に目立った違いはなかった。しかし、試験結果として提示された効果の大きさという点についてみると、早期中止した試験全体と中止しなかった試験全体とを比較した場合、早期中止した試験のほうが約30%も効果を多く見積もる傾向にあった。このような傾向は、被験者数の少ない小規模試験、特にアウトカムとして評価しているイベント数が少ない試験をみた場合に、より顕著であった。
 著者らは、研究者が試験中止を検討する場合には十分なイベントが起こっているかを慎重に検討すべきであること、試験結果を利用する臨床医に対しては、効果が確認されたとして早期中止されたランダム化比較試験の結果は、効果を過大評価している可能性に十分注意すること、と主張している。 (Y)