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抗うつ剤は非常に重いうつ病に対しては効果があるが、中等症から軽症に対しては効果が殆どない(JAMA誌メタ解析論文)

2010-03-01

(キーワード: 抗うつ剤、効果、ハミルトンうつ病尺度)

 メタ解析とは、同様の比較をした多数の比較臨床試験のうち、質が良く信頼できるものについて総合して解析する手法である。今回、厳しい基準で臨床試験論文を選択し、うつ病の重症度により、抗うつ剤の効果が異なるかどうか検討したメタ解析の論文がJAMA誌2010年1月6日号に掲載された(※1)ので、その要旨を紹介する。
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 1980年から2009年3月までの期間で検索したメタ解析・レビュー論文を情報源とした。今回メタ解析の対象とした臨床試験は、1)米国食品医薬品庁(FDA)が販売を承認した抗うつ剤の大うつ病性および小うつ病性障害におけるプラセボ(偽薬)と比較したランダム化臨床試験で、2) 成人外来患者で行われており、 3)少なくとも6週間以上にわたり薬剤とプラセボとの比較が行われており、4) うつ病の重症度尺度としてハミルトンうつ病尺度を用いており、5)試験論文の著者たちがオリジナルデータの提供に合意したものとした。一方対象から除いたのは、うつ病患者はプラセボにより症状がしばしば改善するので、本試験の前にプラセボを投与してプラセボによく反応する患者を除外(washout)している試験である。
 このように今回のメタ解析は、論文の著者たちから得られた個々の患者レベルでのデータを用いて行っているのが特徴である。個々の患者レベルでのデータを用いたメタ解析は、メガ解析とも呼ばれ、最も強力で適切な解析を可能とする。最終的に6研究(718症例)について解析した。6研究のうち3研究ではイミプラミン、3研究ではパロキセチンが用いられていた。
 結果は、薬剤とプラセボの効果の差は最初のうつ病の重症度で異なった。ハミルトンうつ病尺度が23以下の患者(軽症、中等症、重症の1部)では、薬剤とブラセボの差は0.20以下であり、臨床的に小さい効果であった。実薬の方が改善の度合いが高いのは、ハミルトンうつ病尺度25以上の非常に重症のうつ病患者においてであった。
 これらの重要なメッセージは、抗うつ剤の販売では医師や患者に伝えられていない。
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 今回とりあげたメタ解析論文は、標題が「抗うつ剤の効果とうつ病の重症度 患者レベルでのメタ解析」であり、原論文の著者たちに当たって個々の患者のデータが得られたものが対象となっている。23件の研究の著者たちにオリジナルデータの提供を申し入れ、13件の研究では断られ、4件では返事がなく、6件のみが対象となったため、メタ解析の対象患者は718症例にとどまっている。
 しかし、今回の結果は同じく抗うつ剤の効果とうつ病の重症度の関係を示した先行の2つのメタ解析(Khan Aら2002、Kirschら2008) 結果とも一致したものである。Kirschら(Pros Med 2008; 5: e45、※2)は、FDAに提出されたデータを分析し、実薬とプラセボの差は投薬当初のうつ病の重症度とともに増加するが、重症度の高い患者でさえも比較的小さいこと、これは実薬への反応性がより増加したものではなくプラセボへの反応性が低下したものであることを報告していた。
 この程度の効果しか期待できない抗うつ剤であるが、日本では「うつ状態」に対しての効能も取得し広く用いられてしまっている。このような薬漬けとなっている現状は改められなければならない。   (T)