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悲しみが二倍になった? 製薬企業と医師はそう思っているらしい!

2009-11-26

(キーワード:抗うつ薬、対話療法、環境汚染)

 米国パブリック.シチズンの出すワーストピルズ.ベストピルズ.ニュースレターの2009年10月号記事の紹介である。米国内では1996年から2005年の10年間に抗うつ薬の使用が2倍に増加したが、この数字が何を物語っているのかと問いかけている。以下は要約である。
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 2700万人が抗うつ薬を使用するようになり、6才以上でみると10人に1人が何らかの向精神薬を服用している。興味深いのは、うつ病の治療をうけている人はわずかしか増加していないことである。従って、使用の増加は悲しみが二倍になるというような状況があったせいではない。また、治療に精神療法を使用する割合は31.5%だったが、19.87%に減少してきている。ここで、二つの傾向が平行して起こっていることに気づく。一つは、多くの人とその治療者たる医師が“対話療法”よりも薬物療法を選択していること、二つ目は、不安や気分の不調を含めた広範囲の精神状態に対処するために多くの人がそういった薬に信頼をおいていることである。
 研究者は、使用の増加は新規抗うつ薬の導入のせいであろうと考えている註1)。臨床適応が拡大され、消費者に直接広告(DTCA)で呼かけ、芳しからぬ精神状態の徴候を緩和するとしているのである。しかし、実際には消費の増加と同時に若者の自殺企図が増加していることを特記しなくてはならない。現在ブランド品の代わりにジェネリック品が安価で手に入ることによって、多くの患者は(安全であるかのように)だまされて、自分の服用している薬の副作用を十分気づくことなく安易に服用している。
 
 抗うつ薬の使用の増加は、FDAは触れていないことであるが、予期せぬ環境汚染源をつくり出している。人々が錠剤を服用後排泄された物質は最終的に水処理プラントに入るが、そこは医薬品を除去するようには設計されていない。だから放流された水には薬が入っている。魚の脳内に検出された抗うつ薬が、魚の行動に影響を与え、例えば捕食動物を回避する行動をとらなくなってしまうことがわかっている。この“じわじわ進行する”望ましからぬ影響が我々に示しているのは、われわれは入り組んだ生態系という織物のすべての部分に繋がっているということであり、さらに、われわれに強く訴えているのは、個人の行動が社会にとって重要な意味を持つということである。
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 抗うつ薬の副作用の重大性の指摘を超えて、パブリックシチズンが医薬品の環境汚染に言及していることは興味深い。 臨床試験や動物実験と異なって、水を通して放出されてしまった医薬品は、誰も予測できぬすべての生物が対象となる実験のようである。日本では、2007年にはじめて調査報告がなされたが、利根川と淀川の下水処理場の放流水で向精神薬など50種の医薬品が検出されている註2)。米国の女性研究者が、自然界に放出された合成化学物質について生物の内分泌系に影響を及ぼすことを警告した「奪われし未来」を再読したいと思う註3)。 (ST)


訳注1) SSRIをさしていると思われる

訳注2)2007年12月23日朝日新聞

訳注3)シーア.コルボン他 著「奪われし未来」(1996年、邦訳は1997年で翔泳社刊)。副題は、「われわれは、自らの生殖、知性そして生存をおびやかしているのではないか?」

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